第101話 孤児の家
「忠政さん、とどめのバースト攻撃だ!」
「ああ、わかっておる」
忠政が「天下丸」をふりかざし、溜め攻撃をボスにしかける。
ボスは悲鳴を上げて倒れ込んだ。
「あまり手ごわくなかったな」
ヴォイドがポーションを飲みながら、ボスの手から通行手形を取った。
「初めてボスにとどめを刺したぞ。経験値がっぽがっぽじゃ!」
忠政がにやにやしながら言った。
そういえば、たしかに今まではヴォイドか小次郎がとどめを刺すことが多かった。
一行はライアーの街を出て「スカホワイトの街」「ダブセンの街」を抜け、「フォーチュン・フィールドの街」のボスに挑んでいた。
これで9体いるボスのうちの5体目を倒したことになる。
「いつのまにか静岡県を抜けたな」
ヴォイドがつぶやく。
現実世界では、電車でも高速道路に乗っても、東京から京都方面へ向かう際には静岡県がやけに長く感じる。
日本を模した眷カノの世界でも、11番目のトリネシアの街から32番目のスカホワイトの街までの距離が一番長い。
「ツサクの街まであと街は18だ。頑張ろう」
フォーチュン・フィールド城を出て、3人は今後の計画を練った。
次なるボスが待ち構えるのは、4つ先の「ホカサキの街」だ。
今日中にぎりぎりたどり着けるか怪しい距離だ。寝不足のヴォイドはすでに疲れた顔をしている。
そこで、「ホカサキの街」へ到着したらそのまま
「とりあえず、出発前にガチャを回していいか? もう我慢ができそうにない」
ヴォイドがそわそわしながら言った。
「さっき回したばかりじゃないか」
小次郎があきれたように言う。
「そんなに頻繁に回すのなら、10分おきに10連回すのをやめて、いっそのこと100分おきにまとめて100連回すのはどうじゃ? そうすれば時間短縮にもなるじゃろうに」
忠政の提案に、ヴォイドは首を振った。
「100連回したら10分後にまた100連回したくなるよ。10連でも我慢している方なんだ」
魔法陣を広げてガチャを回すヴォイドを遠目に眺めながら、「最近回していない反動が来ておるのう」と忠政がつぶやいた。
ヴォイドのガチャ欲につきあいながら、一行はじわじわと歩みを進めた。
通行手形で「フォーチュン・フィールドの街」を出て、「ユゴーの街」「レッド・ヒルの街」「ウィステリアン・ストリーム」を通過し、目的地である「ホカサキの街」に着くころには現実時間で22時を過ぎていた。
ヴォイドが大きくあくびをする。
「
ところが、ホカサキの街の
「わしらは野宿でもかまわんが」
忠政が提案に、ヴォイドは「だめだ」と首を振る。
「この前みたいな盗賊団がいないとも限らないし、俺のログアウト中に寝泊まりするなら安全な場所がいい」
「では一晩泊めてくれそうな建物でも探すかの」
忠政はホカサキの街のはずれにある白い建物をちらりと見た。塔の部分には大きな十字架がかかっている。明らかに、キリスト教系の施設だった。
宗教団体なら
3人は白い建物の門を叩いた。
しばらくして、修道服を着た若いNPC女性が顔を出す。
「どなた?」
「旅の者です。このふたりを一晩泊めてもらえませんか」
NPCは3人の姿を頭からつま先までじろりと眺めた。
「あちらに
「
「そうですか……。院長に伺ってまいりますので、少々お待ちを」
門の奥に引っ込もうとする女性に、「待て」と忠政が声をかける。
「市川忠政が来たと院長に知らせよ。それで伝わるはずじゃ」
NPC女性は少し首をかしげると、うなずいて奥に引っ込んでいった。
「忠政さん、そんなに顔パスで通るほど顔が広かったのか?」
「ああ、そうじゃ。なんたってSSRじゃからの」
ヴォイドの質問に適当に答える忠政の声を聞きながら、小次郎は門の上の看板を見上げた。「孤児の家」と書かれている。
目を閉じて耳をすますと、建物の中からかすかに子供の声が聞こえてきた。
しばらくして、先ほどのNPC女性が門を開いた。
「おまたせしました。中へどうぞ」
しずしずと歩く女性に3人はついていく。
廊下に面した部屋は、どこも扉が開け放されていた。
ホールの横を通ったとき、広間に子供NPCが複数人いるのが見えた。みな黙ってこちらを見ている。
年齢は3歳から15歳ほどだろうか。
廊下のつきあたりの木の扉だけ、固く閉ざされている。修道女のNPC女性は扉をそっとノックした。
「院長、お客様です」
「お入りなさい」
低い女性の声が聞こえる。
3人は入り口をくぐって部屋に入った。
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