第96話 自作自演には自作自演で迎え撃ち
「その間、ヴォイドは何をしていたんだ?」
屋形船に揺られながら、小次郎が尋ねた。
ヴォイドは少しふてくされたような顔をして、「俺は何も知らなかった。あのゴミを叩くための動画制作に専念していたからな」と答えた。
ヴォイドの口から出た「ゴミ」という言葉が出たことに小次郎は少し驚いた。いくらイエロー・パンサーであれ、彼が人をそのように形容するような人物だとは思っていなかったからだ。
「そもそもヴォイドはなぜあんな動画を作りまくってたんだ?」
血飛沫のケンが尋ねる。ヴォイドは首を傾げた。
「なんでだろうな。たしかに最初から下高井戸のことは嫌いだったが、アンチ動画を作ろうとは思ってもみなかった。だがある日突然、やろうと思い立ったんだ」
双子が捕らえられてから4日目になって、久々にゲームに入ったヴォイドは、
ヴォイド、
忠政を救うのは難しくない。看守は全員ヴォイドたちより格下なので、少し暴れまわれば助け出すことができるだろう。
「問題は小次郎さんの居場所だな」
ヴォイドが言った。忠政を助け出す前にも、小次郎の居場所を突き止める必要があった。
そこで3人がかりで小次郎の居場所を探すことにした。
ヴォイドと血飛沫のケンがライアーの街に変装して潜入し、建物などを見て回ったが、あまり成果は得られなかった。
小次郎の居場所を突き止めたのは、
小次郎の居場所を突き止めた3人は、まずはLv.999の力をもって看守たちを眠らせ、忠政を助け出した。
一刻も早く小次郎を助け出したいというヴォイドを、「まあ待て」と忠政がなだめる。
「単に小次郎を救出したところで、イエロー・パンサーはまた同じことを繰り返すじゃろう。あやつに灸をすえてやるのじゃ。わしに作戦がある」
イエロー・パンサーは十中八九、小次郎を眷属彼女オークションに出すつもりだ。そのときにイエロー・パンサーを盗撮し、ヴォイドがそれを動画にして彼の悪事を暴くのだ。
「だが、それだけではイエロー・パンサーにとって痛くもかゆくもないのではないか。アカウントを変えればまた同じ活動ができるわけだし」
ヴォイドが言った。
忠政が首を振る。
「わしはイエロー・パンサーと下高井戸が同一人物ではないかと疑っておる。まだ確証はないがの」
「下高井戸だと?」
ヴォイドと血飛沫のケンが驚く。
「なるほど」
「私もイエロー・パンサーと下高井戸が通じているのではないかと思っていました。しかし、ずっと不思議だったのです。通じていたとしても、イエロー・パンサー側にメリットはありませんからね。同一人物だとすれば合点がいく」
4人が練った計画は以下の通りだ。
まずはイエロー・パンサーがぼろを出すまで盗撮する。
そして、オークションの際、血飛沫のケンがイエロー・パンサーのかんざしを盗み、聴衆の前でイエロー・パンサーが下高井戸であることを暴く。
ここは少し賭けでもあった。まだイエロー・パンサーが下高井戸であるという確証はないし、かんざしに登録されているメールアドレスが下高井戸のものと一致するかどうかもわからない。
万が一、イエロー・パンサーが下高井戸であるということが証明できなければ、無理にでも小次郎を取り返して逃げる算段だった。
「だが、事は面白いほどとんとん拍子に進んだ。案の定イエロー・パンサーは下高井戸だったし、あいつを潰すこともできた」
ヴォイドが拳を握りしめて言った。彼の目は下高井戸に対する憎悪に燃えていた。優しいヴォイドがそのような顔をすることに、小次郎はどうしても納得がいかなかった。
屋形船はちょうど湖の真ん中にたどり着いたようで、水しぶきにかもめが舞っているのが見える。
「あいつが俺に『動画をすべて削除しろ』と言った猶予まで、今日を含めてあと2日。だが、あの状態なら俺を訴訟することもできないだろう。今日は『下高井戸を救いたい』というタイトルであいつがイエロー・パンサーであることをばらす動画を出す。そして、明日最終日、あいつが訴訟してこなかったら、さんざんあいつを動画で煽ってやる」
「『下高井戸を救いたい』のところまでは私も賛成です」
「ですが、ヴォイドさんはこれからもYouCuberとしてやっていきたいわけでしょう。いつまでも暴露系のイメージがついているのはまずいのでは。最終日は下手に出て、自分もやりすぎた、下高井戸にもいいところがあると認める動画を出すべきです」
「でも、俺は
「俺も
血飛沫のケンがヴォイドのセリフに割り込むように言った。
未成年である血飛沫のケンにも諭されて、ぐぬぬとヴォイドがうめいた。
「ヴォイド」
それまで黙っていた小次郎が口を開く。
「話を聞いて分かった。改めて、俺を助けてくれたことに礼を言う。そして、もう一つわがままを言わせてくれ。俺は今後もお前のくだらない動画が見たい。人を貶める動画なんかじゃなくてな。そのためには、
ヴォイドはしばらくうつむいていた。
彼の瞳には、善意と悪意が拮抗するようにうごめいていた。
「わかった」
ついにヴォイドが言った。
「あんたたちの言う通りにしてみるよ」
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