第64話 泣いた赤鬼
「わァ……ァ……」
二階へ続く鉄階段のしたで
「おい、大丈夫か?」
階段上からヴォイドが声をかけると、血飛沫のケンは飛び上がって顔を隠した。
「み、見るな!」
「そういうわけにもいかないだろう」
ヴォイドが階段を降り、小次郎と忠政も後に続く。
「なぜ泣いたんだ?」
ヴォイドが尋ねると、うっうとしゃくりあげながら血飛沫のケンが答える。
「パパにも、うっ、あんなに叱られたことなんてねえんだ。うっう、どうしよう、鬼束トレーナーに、うっ、見放されたかもしれねえ」
「ケンさん、あんたが冷たくされて泣いたりするような性格だとは思わなかったよ」
「うっうっう、でも見ただろ、オフ会で俺の顔を」
うん、まあ……とヴォイドが口ごもる。
「どんな顔なんじゃ?」
忠政がヴォイドの肩越しにひょこっと顔を出した。
「うわ忠政さん。ついて来てたのか」
「血飛沫のケンよ。おぬしがそこまでストレス耐性がないとは知らなんだ。もしやそのマッチョな体格や豪傑な性格は仮の姿で、本当はヴォイドみたいな教室のすみっこの陰キャなのかの?」
うっうっう、と、血飛沫のケンの泣き声が強くなる。同意しているようなものだ。
「オフ会で見た互いの顔は誰にもばらさないと約束したんだ。忠政さんには言えないよ」
ヴォイドが忠政の言葉への肯定に拍車をかけるようなことを言った。やはり空気が読めない。
ここは血飛沫のケンのためにも話題を逸らしてやらねばならない。責任を感じた小次郎は、記憶の中の血飛沫のケンのセリフをたどった。
「そういえば、お前は道場の師範をしていると言ったな」
小次郎の言葉に、血飛沫のケンは、なんで眷属彼女のお前が知っているんだという目を向ける。
「ああほら、ヴォイドから聞いたから」
「小次郎さんにそんなこと言ったっけ?」
首をかしげるヴォイド。
血飛沫のケンは赤いジャージの袖で涙と鼻水をぬぐった。
「ああ、俺は『オカチの街』で道場をやっている。レベル300以上の者が入会できるようになっていて、俺と眷属彼女の
「なぜそのような道場を? お前に利があるわけでもないだろう」
小次郎が尋ねると、なんでだろうなと血飛沫のケンが空を見上げた。
「強くなりてえんだ、俺は。誰よりも、強くな。初めて
血飛沫のケンが鼻をすすりあげる。彼はもう泣いていなかった。
「このゲームはクソゲーだ。レベルの高いやつと低いやつがパーティーを組んだら、よほど経験値の割り振りを意識しない限り必ずレベルの高い方が先にどんどん強くなっていくようにできている。だから、レベルに
「ご主人」。小次郎の背後で女性の声がした。
小次郎がぎょっとして振り返ると、血飛沫のケンの眷属彼女の
僧兵のようなかむりをかぶってはいるが、衣装はチャイナドレスのような形で、体のラインが丸見えだ。そんな衣装でもいやらしさがないのは凛とした顔つきのせいだろうか。
目には光がなく、プログラムで動かされているのがよくわかる。
「ご主人、泣くな」
血飛沫のケンが照れくさそうに笑う。
「もう泣いてねえよ」
「ご主人、千本の槍を奪うにも最初の1本目というものがある。千里の道も一歩から、だ」
眷属彼女は、プログラムされたセリフの中からその場その場で最適なセリフを選び出し、喋るようにできている。
しかし、
「ああ、そうだな。俺ももっと強くならねば。体だけでなく、心もな」
血飛沫のケンがよっこらしょと言って立ち上がる。
「悪りいなヴォイド。お前も早く戻らねえとこっぴどく叱られるぜ」
たしかにそうだ。ヴォイドは青くなって、慌てて階段を駆け上る。
「なんというかさ」
血飛沫のケンが唐突に話し始めた。
小次郎は自分に話しかけていると気づくのにしばらくかかった。
「はじめて
「お前は
小次郎は少し考えてから答えた。
返事が来るとは思っていなかったのか、血飛沫のケンは驚いたように小次郎を見る。
「大切か。そうかもしれねえ。ただのキャラクターなのに、なんでだろうな」
血飛沫のケンはそう言って、ヴォイドの背中を追いかけた。
「お前はどう思ってるんだ、血飛沫のケンのことを」
小次郎が
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