第55話 ぼっちは嫌だ!
「僕たちはゲームのプレーヤーだ。いくら死んでもよみがえる。それを逆手に取るのさ。例えば、腸内メンタスコーラ、致死量の
「おお、面白そうだぜ」
血飛沫のケンが賛同した。
ちょ、ちょっと待ってくださいと運営の氏家が口を挟む。
「確かに面白いとは思いますが、その、死をネタにするとか不謹慎じゃないですか?」
「不謹慎は今更だろう。そもそも女の子を奴隷にするゲームなんだから」
奴隷じゃなくて眷属彼女です。高橋くんが小さな声で言った。
「とにかく、広報活動の件は我々に任せてください」
イエロー・パンサーが自信満々に言うと、氏家は渋々といった様子で了承した。
最後にスケジュールなどこまごました調整をすると、氏家が「最後にこれを」と言って4人に紙の束を手渡した。
「これは?」
「『テレポートチケット』です。まだ実装前のアイテムなので他のプレーヤーには気づかれないようにしてください。今後いろんな場所を往復することになると思うので、お渡ししておきます」
「テレポートチケット」、使用することで行きたい街に瞬間移動できるアイテムらしい。普段から飛行バグを使って移動しているヴォイドは微妙な顔をしたが、他の3人は「そうだよ、こういうのがほしかったんだよ」と嬉しそうに受け取った。
では我々はこれで、と言って氏家と高橋くんが光の粒になって消えた。
残された4人は顔を見合わせた。
「ヴォイドくん、君の連れている眷属彼女、もしかして新実装のSSR市川兄弟かい?」
イエロー・パンサーがヴォイドに問いかける。
「ああ。仮契約だけどな。あんたが連れているのは?」
「彼女らはSSRピタラゴスとSRアルキデメスさ。僕は20人以上の眷属彼女を抱えていてね。眷属彼女オークションの予定があったら是非僕に連絡してくれ」
ヴォイドは顔をしかめると、続いて血飛沫のケンの後ろに立っている眷属彼女を見た。
血飛沫のケンの眷属彼女は、なんというか、目つきやたたずまいが普通の眷属彼女とは少し違う気もする。
「ケンさんの眷属彼女は誰なんだ?」
「こいつか? こいつはSSR武蔵坊
小次郎はイエロー・パンサーよりも、血飛沫のケンの方に好感を持った。
イエロー・パンサーがやれやれというように首を振る。
「Lv.999のキャラクターともなればよほどの高値が付くよ。僕に売ってくれと何度も持ち掛けたんだけどね」
「馬鹿野郎、誰がお前なんかに丹精込めて育てた
「皆さん」と言って、
「話に花を咲かせているところ申し訳ないのですが、ひとつ私から提案があります」
ぐるりと全員を見回して注目を集めていることを確認してから、
「オフ会、しませんか?」
3人は無言になって、ほかの誰かが何か言わないか探るような空気が生まれた。
仕方がない、というようにイエロー・パンサーが口を開く。
「いいと思うけれど、僕はパスさせてくれ。ボイチェンを外した声を聞かれるのはまずいんだ」
「もちろん、完全にリアルで会うわけではありません。遠方にお住まいの方もいるかもしれませんしね。今回のオフ会はウェブ会議ツールを使った顔合わせです。私たちはこれから苦労を共にするグループになるわけですから、顔くらいは見知っておいた方がいいと思ったのです」
「ボイチェンをつけたままでいいなら、まあ……」
不本意だが仕方がないというようにイエロー・パンサーが頷いた。
「俺は出ねえぞ。オフ会なんてまっぴらごめんだ」
血飛沫のケンは頑として首を縦に振らない。
「ヴォイドさんは参加すると言ってください」
「え、でも」
「ケンさんは仲間外れを嫌うのです。あなたが参加すると言えば、ケンさんも来ると言ってくれますから」
ヴォイドが不承不承といった様子で「参加しようかな」と言うと、血飛沫のケンは目の色を変えた。
「お、俺だけ参加しないとお前らさみしがるからな。俺も参加してやろう」
「これで4人そろいましたね」
「時間は今夜23時でいいですね。それでは」
まったく、とイエロー・パンサーが首を振る。
「彼は自分が4人のリーダーかなにかだと思っているんだから」
イエロー・パンサーが事務所を出る。
残された血飛沫のケンとヴォイドは顔を見合わせた。
「今日のオフ会、ドタキャンしたらぶっ殺すからな」
血飛沫のケンはすごんでみせると、ふたりを追うように事務所を出て行った。
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