第54話 ヴォイドの名案

「まずは本ゲームの現状についてお話します。高橋くん、画面切り替えて」


 氏家がポケットから指示棒を伸ばす。

 スクリーンに文字と図が表示された。


 フルダイブ型VRゲームの中でも、ソーシャルゲームと呼ばれる形態に「眷属彼女♡オンライン」は属している。いわゆるガチャゲーだ。


 VRソシャゲの売り上げトップ3作品は男性向けゲームであり、4位が女性向けの「名刀男子~百花繚乱のイケメンたち~」。眷カノは5位に位置付けている。いずれも中国の資本が入ったゲームだ。


 そして、上位のVRソシャゲの共通点は、「ユーザーの性別が大きく偏っている」という点だ。


「近年のVRではない一般のソシャゲの上位作品は、いずれも男女比が4:3ほどです。女性の比率が多いんですよね。男女両方の人気を獲得したゲームが伸びている傾向にあります」


「眷カノは何割なんだい?」


 イエロー・パンサーが尋ねた。


「女性ユーザーが全体の5.5%ですね」


「20人にひとりはいるのか。思っていたより多いな」


 ヴォイドがつぶやいた。

 たしかに、体感ではほぼ全員が男性プレーヤーだ。


「性別が女性でもアバターを男性にする方が多いんですよ。逆のパターンは少ないですね。よくも悪くも、男性社会のゲームです」


 氏家が頷いて、次のスライドに移る。

 

「我々の目的ゴールはユーザーの女性比率を25%まで高めることです。今の状態から25%まで女性が増えれば、単純計算で業界2位に躍り出ることも可能です。皮算用ですけどね。高橋くん、次のスライド」


 ぼんやり話を聞いていた高橋くんがあわてて端末を操作する。


「そこで、我々が立てた企画は3つ」


 スクリーンに箇条書きで文字が表示された。


1.男性アイドル「ユア・スレイヴ」のデビュー

2.女性向けゲーム「名刀男子~百花繚乱のイケメンたち~」コラボを実施

3.男性キャラクターの実装


「ひとつずつご説明しますね」


 氏家が指示棒をスクリーンの上でとんとん動かした。


「アイドルのデビューは、よそのVRゲームでもすでに行われています。例えばこちらのゲームAでは、ゲーム内アイドルデビュー後に売り上げ約30%増、こちらのゲームBでは売り上げ約27%増を達成しています。ユーザー数も、こちらのグラフの通り右肩上がりになっていますね。しかし、これらはいずれも女性ユーザーがアイドルデビューした事例。我々が目指すのは男性アイドルのデビューです」


「3の男キャラの実装ってやつ、今いる男プレーヤーが離れたりしないのか?」


 血飛沫のケンが口を挟んだ。


「おっしゃる通り、男性キャラクターの実装はリスクが高いので、ある程度女性ユーザーが増えてからの実装になると思います。つぎに2番を説明しますね。『名刀男子~百花繚乱のイケメンたち~』の運営会社は弊社の親会社であり、コラボは遅くとも来月には予定されています。女性の新規ユーザーに効果的にアプローチするためにも、コラボと皆さんのデビューはなるべく同時期に行いたいと考えています」


「ふむ、つまりデビューまで1か月しかないということですね」


 梔子くちなし様があごに手を当てて言った。


 ヴォイドも何か発言しないのかと小次郎が長机の方を見ると、ヴォイドの首がかくんかくんと船をこいでいる。


「おい、寝るな」


 小次郎がヴォイドの肩をそっとゆさぶると、ヴォイドは「んあ」といって目を覚ました。


「我々はこの1番、みなさんのアイドルデビューをご支援する担当になりました。これから1か月、デビューまでに皆さんにやっていただくのは、『レッスン、広報活動、イベント』の3つです。レッスンの先生とイベントはこちらで手配しますが、広報活動は基本的に皆さんでやっていただくことになります」


 つまり、TmitterでもYouCubeでもなんでも使って自力で知名度を上げろということだ。

 結構な無茶を言う。


「具体的にやることは決まっているのかい?」


 イエロー・パンサーが手を挙げて尋ねる。


「広報活動の具体的な案はまだほぼ未定です。が、ヴォイドさんはYouCube活動をされているとお聞きしました。なので、YouCubeに投稿する動画の企画案を今日までに考えてきていただくことになっていましたね」


「はい、3つ考えてきました」


 ヴォイドが自信満々に立ち上がる。


「それは心強い。発表していただいてもいいですか」


「はい、まずはみんなでメンタスコーラをします」


 しんと会議室が静まり返った。


「あ、あれ。それから2番目の案は、みんなで激辛カレーを食べる」


 メンタスコーラと激辛カレーとはなんだと聞こうとして小次郎が忠政の方を見ると、忠政はなんともいえないような冷めた顔をしていた。


「3つ目は、バンジージャンプ――」


「ヴォイドさん、冗談ですよね?」


 氏家ががっかりしたような表情で言った。


「いや、有名な企画ですよ。PIKAKINだってやってたし」


 ヴォイドが反論するも、氏家は渋い顔を崩さない。


「あまりにも二番煎じで面白くないです。却下ですよ」


 ヴォイドが泣きそうな顔をしてパイプ椅子に座り込む。


「そんなにだめなのか。死にたい」


「死、か。なるほど、面白いかもしれないね」


 唐突にイエローパンサーが口を開いた。





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