第47話 円卓のソシャゲ廃人たち
忠政が最初に降霊させた4人の霊魂のうちのひとりで、現在はURキャラとしてラックローの茶屋「富士見」の花魁を務めている。
「大おじ上とはまさか俺のことか?」
小次郎が驚いて尋ねると、善川室康は島田に結った髪のかざりをしゃらしゃらいわせながら頷いた。
先ほど説明しそこなった忠政が、今度こそとばかりに口を挟む。
「善川氏の血筋のルーツはわしら市川家にある。わしらには子がおらぬから直系ではないが、まあわしらの子孫みたいなものじゃの。それを知ってから、あやつはわしのことを『おじい様』と呼ぶようになった。おぬしはわしの弟じゃから『大おじ上』なんじゃろう。わしは老人ではないし、やめろと何度も言うておるのじゃが……」
「まあまあよいではないか、おじい様。久々にお会いできたのだ。膳を持たせて3人で話でもしようではないか」
NPCを呼ぼうとする善川室康を忠政は手で制した。
「食事もよいが、わしらはちと急いでおっての。事情を聞いてはくれぬか」
忠政は善川室康に、仲間がこの茶屋の宴会場で会談をしていること、それを盗み聞きしたいことを伝えた。
忠政の話が進むにつれて、善川室康の美しい顔がにやりと歪む。
「盗み聞きとは感心しないな」
「やはり難しいか」
「いや、もっと合法的なやり方がある。大おじ上、舞は舞えるか?」
突然話を振られて、小次郎はうろたえる。
「演舞か?
「
「歌と言われても……
「ならそれでよい。大おじ上が
善川室康が手を叩いてNPCを呼んだ。
障子がすっと開いて、先ほどのNPCが木箱をもって入ってくる。
木箱の中身は、舞の白装束と割れしのぶに結われた女物のかつらだった。
本当に大丈夫だろうか。不安を抱えた小次郎は、白装束を着てかつらをかぶり、ふたりに続いて宴会場に入った。
宴会場は広く、
畳の部屋の隣に1段低く洋室が併設されており、シャンデリアの真下に大きな大理石の円卓が置かれている。
円卓には4人の男性プレーヤーが座っていた。
紫の髪の
「唄え、小次郎」
忠政が小声で言った。
小次郎は畳の端に正座すると、歌詞もあやふやなまま
遊びをせんとや生まれけむ
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さへこそ
善川室康は、花魁とだけあって大変みやびやかに踊る。指先までなめらかで、足取りは軽い。
一方の忠政はお世辞にも舞が上手いとはいえなかった。手足の運びは適当、そもそも動きが小次郎の唄に合っていない。
当の忠政は大真面目な様子でぎくしゃく踊っている。
しかし、4人のゲーム廃人たちにはたいして良し悪しもわからないらしい。
「余興も始まったことですし、会談を始めましょう。今回は新メンバーもいらっしゃることですし、まずは自己紹介から。改めまして、
赤毛の男が
「おい、紫。新しいやつが来るなんて聞いてねえぞ」
「紫ではなく
ふん、と鼻を鳴らすと、赤毛の男が立ちあがった。
「俺は『
「では次は僕が」
黄色い髪の男も立ち上がる。
「僕の名は『イエロー・パンサー』。Lv.999さ。どこかの街に定住してるわけじゃないけど、眷属彼女の売買を専門にしているよ。最近は大きな眷属彼女オークションの支配人もした」
「さあ、ヴォイドさんもご挨拶を」
「まさか我々以外にもカンストプレーヤーがいたとは驚きでしたよ。ヴォイドさん、我々3人はこのゲームを背負っていく者として、時々こうして親睦を深めているのです。ヴォイドさんは普段何をされている方なのですか?」
「ふ、普段?
「YouCuberだってよ。知っているか?」血飛沫のケンがイエロー・パンサーに尋ねる。イエロー・パンサーは知らないというように肩をすくめた。
「それでは、自己紹介も済んだことですし、本日の議題に参りましょう」
小次郎は唄いながら聞き逃すまいと耳をそばだてる。
げ、と血飛沫のケンが顔をしかめた。
「本当に『あれ』、やるのか?」
「僕はいいと思うよ。むしろ、そういうのやってみたかったんだよね」
イエロー・パンサーが黄色い前髪をいじりながら言った。
「我々4人でなりましょう、アイドルに!」
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