第39話 さらなる高レベルを求めて
「飽きてきたの」
忠政は振り返って小次郎を見上げた。
小次郎は馬のようにバギーちゃんにまたがっていた。
バギーちゃんから降りようとしても、バギーちゃんが嫌がるので仕方なく乗ったまま忠政を追っている。
「もう飽きたのか」
「100匹は倒したぞい。そろそろ交代してもいいかもしれん」
忠政は背伸びして小次郎に弓を渡し、ポシェットを受け取った。
小型の弓は小次郎の手によくなじんだ。構えると自動で矢がつがえられるようになっている。
弓矢に対する恐怖感はすでに薄れていた。常にバギーちゃんの肌に触れ、鼓動を感じていたためかもしれない。
ふたりと1匹は、すでにダンジョンの深い場所まで来ていた。時折石ころのようなモンスターを見かけるものの、やはり大半はアケロンバットの群れだ。
試しに1本矢を放ってみると、洞窟の天井のアケロンバットに命中する。
命中させたというより、アケロンバットの数が多すぎて適当に射っても当たる。
たまにアケロンバットが思い出したように下りてきて攻撃してくることもあったが、ほとんど痛くない。
「たしかに、これでは倒しがいがないな。俺もすぐ飽きてしまいそうだ」
「ではダンジョンボスを探すぞ。そやつを倒したらダンジョンの1周目は終わりじゃが、もう少し高レベルのダンジョンにも挑めるようになるからの」
ダンジョンボスはすぐに見つかった。ボス部屋に向かうプレーヤーが多かったからだ。
ボス部屋の前ではプレーヤーが列をなして並んでいた。
「ダンジョンボスとは1組ずつしか対決できないようじゃの。面倒じゃな」
とはいえ、順番を無視するわけにもいかないので、15人ほどの列にふたりとバギーちゃんは並んだ。
しばらく待つものだと思っていたが、列はみるみるうちに前に進んだ。
1パーティーあたりにかかる時間はかなり短いようだ。ボスも弱いに違いない。
「どちらがボスを倒す?」
小次郎が尋ねると、忠政は肩をすくめて見せた。
「まあどっちでもいいが、今回はおぬしが倒せ。2周目はわしがやる」
5分ほどでふたりの順番が回ってきた。
ボス部屋は入り口が狭く、体の大きいバギーちゃんを中に入れるのに若干苦労した。
ボス部屋の中央には、バギーちゃんより一回り小さい、赤い鳥がいた。
翼が燃えているのか、羽がぷすぷすとくすぶっている。心なしか疲れたような顔をしているようにも見える。
鳥の背後の岩肌には、大量の矢が刺さりっぱなしになっていた。
「フェニックス、不死鳥じゃの。何度死んでもよみがえる鳥じゃ」
忠政の解説を聞きながらぼんやりフェニックスを眺めていると、鳥が小次郎をにらんで急かすようにキイキイ鳴いた。
後がつかえているからさっさとしろ、と言われたように感じた。
小次郎が慌てて弓に矢をつがえて射ると、フェニックスの脳天に命中し、キエと鳴き声を出して後ろ向きに倒れる。
「……これで終わりか?」
小次郎は拍子抜けしたように言った。
「そうらしいの。ほら、見るのじゃ」
「次のダンジョンに進みますか? はい・いいえ」と壁に字が浮き出した。
忠政が「はい」を選択すると、「どのレベルのダンジョンに挑みますか」と出る。
「とりあえず、レベル2に行ってみるかの」
「バギーちゃんはついて来られるのか?」
小次郎は心配したが、杞憂に終わった。
再びふたりは溶岩湖のある広い洞窟の入り口にスポーンした。小次郎はバギーちゃんにまたがったままだ。うまく転送されたようだ。
レベル2ダンジョンは最初は少し楽しかった。
アケロンバットのレベルが上がっているらしく、頭に矢を命中させなければ一撃で倒すことができない。
「これはこれでゲーム性があっていいの」と最初は喜んでいた忠政の顔からも、次第に表情が消えていく。
「飽きてきたの」
「またか」
「だって、わしのレベルが上がってしまって一発で倒せるようになってしまったのじゃ。射れば必ず当たるし、こんなつまらない作業ゲーはないぞ」
それは小次郎も感じていた。
変わらない敵、変わらない洞窟の景色。暑さで胸もむかむかする。
「兄上、もう少し難しいダンジョンに行ってみないか? ここではあまりに手ごたえがない」
「賛成じゃ。さっさとここのボスを倒して次にいくぞ」
バギーちゃんがピーピーと高い声で鳴いた。
何か言わんとしているのはわかったが、暑さと退屈で脳をやられた小次郎はちゃんと聞く気にもならなかった。
レベル2ダンジョンのボス「フェニックス レベル2」も、前のフェニックスと大差なかった。
羽の火が少し大きいくらいで、攻撃のリーチも低く、遠くからちくちく矢を射るだけで簡単に倒すことができた。
「次のダンジョンに進みますか? はい・いいえ」と壁の字が浮かび上がる。
「どうする、レベル5が最高難易度だが……」
「とりあえず4に行ってみて、面白くなければ5に行ってみるのはどうじゃ」
忠政が提案する。
「そうしよう。さすが石橋を叩いて渡る兄上だ」
「褒められている気がせんのう」
忠政がぶつぶつ言いながら「レベル4」を選択した。
バギーちゃんのピーという鳴き声とともにロードが入る。体にまとわりつく暑さが剥がれ落ちるのを感じる。
比較的短いロードの暗闇の中で、小次郎は再びバギーちゃんの声を聞いた。
「帰れ」
はっきりとそう聞こえた。
どういうことだ、と首を傾げたとき、ロードが終わった。
何が起きたのか考える前に、目の前に大量のアケロンバットが襲い掛かってくる。
灼熱の地獄の中に、ふたりと1匹はたたずんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます