第24話 眷カノ消費者庁コラボ
SSRが出ずに落ち込んでいるヴォイドを慰めていると、にわかに空が暗くなり、ヴォイドと忠政の体が光り出した。
「小次郎さん、あんたも」
ヴォイドに指摘されて両手を眺めると、小次郎の腕も光の粒になって空へ上り始めている。
「始まったようだな」
緊急メンテナンスの時間だ。
ヴォイドが半分消えた顔でふたりに向かって言った。
「公式アナウンスでは3時間で終わると言っていたけど、こういうのはいつまでやるかわからない。長めに見積もっていた方がいいかもな」
「そうじゃな。それじゃあ、またあとでの」
体が完全に光になって、まばゆいきらめきに包まれる。
思わず目を閉じると、全身に浮遊感を覚えた。
とん。足の裏に地面が当たる感触。
はっとして目を開ける。眠っていたのだろうか。それとも、刹那の出来事だったのだろうか。
小次郎は真っ黒な壁のない空間に立っていた。黒だが暗くはない。ゲームにスポーンさせられる前にいたのと同じ場所だ。
武器や上着などの装備はすべて消え、露出の多い衣装だけを身にまとっている状態だ。
ちらりと右を見ると、忠政の姿があった。忠政の向こうにもずらっとキャラクターの姿が見える。
左には誰もいない。キャラクターたちが全員、番号順に一列に並ばされているようだ。
「あまりきょろきょろするでない」
忠政がほとんど口を動かさずに言った。
光の塊が出現し、中から人間がわらわらと出てきた。
金髪にTシャツを着た、以前見たことのある運営の男と、その仲間らしき男が5人。日本人ではないのか、外国語を話している男女がひと組。最後に現れたのは、スーツを着たやや異質な男だった。
スーツ男は頭が体と前後逆についている。
困惑しているスーツ男に向かって、金髪が言った。
「あの、ヘッドギア逆についてますよ、たぶん」
「失礼。こういうメタバース? というのは初めてでして」
スーツ男が頭をがちゃがちゃいじると、くるりと顔が前を向いた。
「それでは、改めて、消費者庁の鈴木です。消費者の方から通報を受けて参りました。ええと、『1500人の女性キャラクターがいると謳っておきながら、実際は1500人に満たない』という通報内容です」
どうも消費者庁側の認識と実際のバグとに若干
消費者庁の鈴木と名乗ったスーツの男は、小次郎の前に近寄ってふむふむと顔を検分する。
「こちらに並んでいるのがキャラクターですね。では今から、人数を数えさせていただきます」
「いえ、あの、リストがありますので」
いち、に、とキャラクターを数え始めたスーツ男に、金髪が慌てて端末を差し出す。
いちいち数えていては、何時間かかるかわからない。
ふむ、と言って、スーツ男は端末を眺めた。
「たしかに、1400人ちょっとしかいませんね。これは問題だ。
「早急に解決している最中でして。少々お待ちを」
金髪はスーツ男から端末をひったくると、どこかへ電話をかけ始めた。
「おい、高橋! まだ終わんねえのか」
もうちょっとですからあ。確認中でえ。
端末から泣きそうな声が聞こえてくる。
「確認だあ? 確認はいらねえからさっさと持ってこい! ……失礼しました鈴木様。もうしばらくお待ちを」
「ふむ」
スーツ男はちらりと腕時計に目をやろうとして、アバターに腕時計がないことに気が付いた。
だしぬけに、光のなかからあふれ出るように大量の人間が飛び出した。
人、人、人。いずれも、奇抜な髪色に露出の多い服装。キャラクターだ。
「井上さん、消えた101体のキャラクターの3Dモデル、全員分完成しました!」
キャラクターの間をかきわけるようにして、例の黒髪の運営「高橋くん」が現れた。
「遅えぞ高橋!」
「すみません、いろいろ手間取って……」
「いいからさっさと並べろ!」
金髪の命令で、高橋くんが端末を操作すると、新しく現れたキャラクターたちが一斉にぎこぎこ動き始めた。
歩き方はカチコチで、表情もなく、一部キャラクター同士で重なってバグっている。
「動作チェックはしたんだろうな」
金髪が高橋くんをにらむ。
「してませんよ。井上さんがするなって」
「馬鹿野郎、不具合があったらどうすんだ」
スーツ男は、一列に並んだキャラクターたちを見た。
もとからいるキャラクターに比べて、新しく現れたキャラクターはどう見てもクオリティが低く、動きもロボット臭い。
「ふむ、いいでしょう」
ゲーム慣れしていないスーツ男の目には、違いがわからなかったようだ。
「これで、1504体、広告通りの人数です。今回は早急にご対応いただけましたので厳重注意のみ、処分はなしという方向で報告させていただきます」
ほっと運営たちが胸をなでおろすのが見えた。
「ですが」
とやや大きな声でスーツ男が念押しする。教師的な注目の集め方が彼の趣味のようだ。
「二度目はありません。いいですか、二度目はないですからね」
最後の台詞を見事に決めたスーツ男は満足げににやにやしながら、光の中に帰って行った。
外国人の男女のふたり組が、金髪と高橋くんに向かって手招きをする。
話し方からして、中国人のようだ。
高橋くんが走ってふたりの元へ行き、早口で何かを会話する。
「兄上、彼らは何を?」
小次郎がそっと忠政に尋ねると、忠政も肩をすくめて首を振った。
「わしにも中国語はさっぱりじゃ」
高橋くんが金髪のもとへ駆け戻る。
「井上さん、新しい3Dモデルですが、ちょっと変だけどあのままリリースしましょうと言われました」
「正気か? あいつら――」
「それから」
高橋くんがちらりと小次郎たちを見る。
「このメンテ時間を使って、CM撮影もやっちゃいましょう、と」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます