第13話 地蔵参りでありがとう
キモすぎて草
共感性羞恥で鳥肌立ったわ
ヴォイドの投稿した動画「ヒナガワの街で絶叫ガチャ#1【眷カノ】」は、ひと晩で視聴回数16回。コメント2件、高評価0件。
コメント欄には、ヴォイドを馬鹿にするようなコメントがついていた。
「たしかにちゅっちゅはちょっとキモかったかの」
わしも反省じゃ。そういって、忠政はぽろぽろ涙を流すヴォイドの背中を優しく叩いた。
「違う、違うんだ。俺、コメントもらうの初めてなんだよう」
「なんじゃ嬉し涙じゃったか。ここで満足してはおれぬぞ、ヴォイド。目下の目標は登録者数1000人。収益化じゃ!」
ヴォイドが眠くなって離脱したので、昨夜はヒナガワの街に一泊した。
といっても、ゲームには昼夜の概念がなく、常に空は明るい。
翌朝、30分遅刻してやってきたヴォイドは、動画についたコメントを見て泣き出してしまった。よほど見てもらえたのが嬉しかったらしい。
現実時間で10時を過ぎたころ、一行は街を出発することにした。
月曜日の朝なのでプレーヤーはほとんど見当たらない。
「出発前に、ちょっといいかの」
「なんだ?」
「たいしたことではない。寄りたい場所があるのじゃ」
ヒナガワの街の北側に、忠政はふたりを連れて行った。
街の端は木々が生い茂り、無理やり木の間を進もうとすると緑の障壁に阻まれる。
「これ以上は進めないぞ」
「待っておれ。たぶんこのへんに……あったぞ」
木々の隙間に小さな小道があった。枝葉がトンネルのように生い茂り、忠政と小次郎の身長ではぎりぎり、ヴォイドはかがまなければ通れないほどの小さな細道だ。
「なんだこの道。マップにもないぞ」
不審がるヴォイドを無視して、忠政はずんずん小道を進んでいく。
十数メートル先で道は終わっていた。
小次郎とヴォイドは立ち止まって息を飲んだ。
こもれびの中に、11体の地蔵が立っていた。
忠政がしゃがみ込み、地蔵に向かって手を合わせる。
「小次郎、祈るのじゃ。死者の冥福をの……」
言われるがままに、小次郎も地蔵に向かって手を合わせた。
(誰かは知らぬが、
目を閉じた瞼の裏に、かすかな光が届いた。
唐突に、小次郎の頭の中で、多数の声が反響する。
ありがとう。
ありがとう。
これで救われる。礼を言おう。
はっとして顔を上げる。光は見えない。声もしない。忠政とヴォイドが両手を合わせているだけだ。
「どうした、小次郎さん」
「いや……」
小次郎は立ち上がって辺りを見回した。やはり、何も変わったことはない。
「さあ、今日のノルマはクリアじゃ! 地蔵も喜んでおるじゃろう。さっさと次の街へ出かけるぞい!」
「待ってくれ忠政さん、デイリーミッションは地蔵なんかじゃなくてモンスター討伐10体と……」
ヴォイドが斜め上の応答をしながら忠政を追いかけていく。
もう一度、地蔵の方を振り返ってから、小次郎はふたりの背を追った。
ヒナガワの街を出て街道に出ると、うろついているモンスターの顔ぶれがやや変わっていた。
「クサギツネ」に、「ヤイバコグマ」、それから……。
「おい、あれはなんだ?」
小次郎は大きなピンク色のトカゲのようなモンスターを指さした。
「あれは人気漫画『でかきしょ』に出てくる『アホロートル』じゃ。俗名でウーパールーパーともいうの。コラボ期間中だけ出てくる敵で、低確率でレア装備『アホロートルの頭巾』を落とすぞい。ほしいか?」
ちょっとほしい。が、
「いらない」
「じゃあなるべく敵とエンカしない方針で行こうか。本当は忠政さんと小次郎さんのレベルを上げてボスに挑むべきなんだけど、俺のレベルがカンストしてるから必要ないかな」
「ボス?」
ああ、と言って、ヴォイドがウエストポーチからタブレット型の端末を取り出し、地図を表示させる。
「昨日出発したミヤビタウンから、街道の終点ミヤコタウンまで、合計53の街がある。ほとんどはただの宿場町だが、ところどころに城があり、そこでは城のボスを倒さないと先へは進めない。最初のボスは、9番目の『オディンバラの街』に城を構えている。今のふたりのレベルだとちょっと厳しいけど、俺が倒せるから問題ないというわけだ」
小次郎は端末を覗き込んだ。
海沿いを進む街道にはたしかに53の街がある。ミヤコタウンの直前の52番目の街「ツサク」から上に伸びた道を進めば、目的のエルピオンの泉だ。
「小次郎さんと忠政さんには悪いんだが、次の街を出たらちょっと動画を撮らせてもらいたい。初心者向けの、狩り指南とか、おすすめ武器紹介とかさ」
「それはよいことじゃ。毎日投稿は有名になるための第一歩だからの。慣れてきたらもっとカット編集や字幕付けもした方がよいぞ。その方が伸びるからの。ところで、わしもふたりにお願いじゃ。先ほどのヒナガワの街のように、各街の北側には地蔵がある。街に着くごとに、地蔵に祈りをささげてほしいのじゃ」
わかった。と、ヴォイドが頷いた。
「忠政さんは信心深いんだな。小次郎さんも、何か旅の道中でやりたいことはあるか? ほしいものとか」
「……いや、ない」
「ほんとかのう?」
忠政が小次郎の顔を覗き込む。
小次郎は首を横に振った。
「ない」
「そうか……。ならいいんじゃがの。それでは改めて、次の街へ出発じゃ!」
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