第12話 戦国武将、YouCubeデビューする

 道中襲い掛かってくる「うさぴよ」や「クサギツネ」を、小次郎は丁寧に倒していった。

 ドロップ品やゼニは拾えないので、地面に捨てていく。


「モンスターはいちいち倒さなくても、無視すればよいのじゃぞ」


 見かねた忠政が言った。

 たしかに生き物をむやみに殺生はしない性分だが、相手は中身のない空洞だという。そうなれば話は別で、目についたモンスターは律儀に倒したくなる。


「おぬしはゲーム序盤でレベルを上げすぎてボスをワンパンしてしまうタイプじゃの」


 忠政があきれたように言った。


 時折、街道をプレーヤーが通り過ぎて行った。ほとんどは小次郎と忠政を気にも留めず、気づかないまま去っていく者も多かった。


 Lvが上がったからなのか何なのか、2回斬って倒していた「クサギツネ」を1発で倒せるようになり、小次郎が夢中でモンスターを斬っていると、遠くからやってきた足音が小次郎の背後で止まった。


 振り返ると、大きなハダカデバネズミの着ぐるみが立っていた。


「その、なんだ」


 ハダカデバネズミは頭をかいて、


「悪かった。急にいなくなったりして」


「おお、ヴォイドよ。待っておったぞ」


 忠政がにこにこしながらヴォイドの背中をばんばん叩いた。


「なあ、ヴォイド」


 小次郎が言った。


「お前が困っているなら、俺が力になれないか?」


「え?」


「課金? ってやつがやめられなくて困っているんだろう。何か手伝えることがあったらいってくれ」


 なるほど。忠政がぽんと手を打ち鳴らした。


「小次郎も昔はなかなかおねしょが治らなかったからの。きっとヴォイドの気持ちがよくわかるのじゃ」


「おい、言うな」


 小次郎が忠政の耳をはたく。

 ヴォイドはうつむいてぼそぼそ言った。


「俺だって考えたさ。でも、自力でガチャを全部やめるのは無理な気がする。小次郎さん、俺に協力してくれるなら、俺がガチャを回しそうになったときに俺を思いっきり斬ってくれ」


「その必要はないぞ!」


 仁王立ちになって、忠政が叫んだ。

 忠政はびしっとヴォイドの顔を指さす。


「たしかにおぬしはもう少しガチャを減らした方がよい。じゃが、急にすべてやめる必要もない。わしによい考えがあるぞ!」





「は、はいどうも。†深淵の背律者ヴォイド†です」


「元気が足りん! もう一回じゃ」


「†深淵の背律者ヴォイド†です!」


「そうじゃ。はきはきせい」


 大声で挨拶の練習をするヴォイドに、忠政がN武器のハリセンを向ける。


 YouCubeでひと山あててみてはどうじゃ?

 と、突然忠政が言い出したのである。


「おぬしの趣味はガチャ。特技は課金じゃ。ならば、金をつぎ込んでガチャを回す様子を動画にしてみてはどうかの。動画が当たれば金を稼げるし、動画をおぬしのばあさんに見てもらって元気を出してもらうこともできるじゃろ」


「でも、ガチャのリアクション動画なんてもうやってる人はいるし……」


 はあ、と忠政はため息をついてみせた。


「分かっていないのう。やっている人がいるということは、それが儲かるということじゃ。儲からないことをするやつは普通おらんじゃろ、クソソシャゲのRTAとかの」


 というわけで、ヴォイドに忠政の演技指導が入っているという次第である。


 配信者をしているとは思えないほど、ヴォイドは反応が薄く、ぼそぼそと喋る。これでは視聴者がいないのも納得だった。


「おぬし、本当に5年以上も配信経験があるのか? リアクションが下手すぎじゃ。挨拶もな。ほかのYouCuberがやっているような、こじゃれた挨拶はないのかの?」


「む、昔はあったさ。でも、途中で恥ずかしくなってやめたんだよ」


「ああわかったぞ。おぬしが中二病キャラに照れがある理由が。エンタメ性より自尊心が上回っているから中途半端になるのじゃ。やるならやり抜け、軟弱者め。好きなことで生きていくのも簡単ではないのだぞ」


 好きなことで生きていく。かの有名な天才YouCuberの言葉である。

 ちなみに、彼も没後に霊魂を呼び出され、現在は「眷属彼女♡オンライン~最強のトレーダーを目指して~」の美女キャラに選出されている。


「ほれ、おぬしの考えた渾身の挨拶とやらをやってみろ」


「……。じゃ、聞いてくれ。……。ハローYouCube、悠久の時へようこそ――」


「面白くない。却下じゃ」


 涙目になるヴォイドを、小次郎は遠巻きに眺めていた。


 提案した責任があるからと、忠政も動画に出るつもりらしい。確かに、ナイスバディな猫耳美女が出ている方が動画は伸びるだろう。


 小次郎は不特定多数の人に見られるのが苦手なので見学することになった。本心では、兄忠政が多くの人の目に晒されるということがどうも気に食わなかった。しかし、忠政の決めたことだ。文句は言えない。


 数時間後、一行は第一の宿場「ヒナガワの街」に到着していた。

 

 街の有名スポット「テゴン・マウンテンのふもと」で場所を確保し、忠政とハダカデバネズミの着ぐるみを着たヴォイドは撮影を始めた。


「はいどうも。†深淵の背律者ヴォイド†です! 今日はなんと、スペシャルゲストをお呼びしています。市川忠政さん、どうぞ!」


――私は市川忠政にゃ! お姉ちゃんって呼んでもいいにゃ。ええ、年上に見えないって? ふにゃあ……


「なんと、忠政さんが俺と仮契約を結んでくれました! 今日は忠政さんと一緒に、レジェンドガチャを回していこうと思います!」


――思うにゃ!


 ヴォイドはセリフを噛みまくりで、見ている小次郎まで恥ずかしくなってきた。それでも、ヴォイドの本気さと必死さはひしひしと伝わった。


「来たれ、10連レジェンド召喚! あ、確定演出!」


――にゃ! 誰が来るにゃ?


「PIKAKINちゃん! PIKAKINちゃんが出ました! ご覧ください、SSRのPIKAKINちゃんのかけらをお迎えしました! ありがとう、ありがとうPIKAKINちゃん。ちゅっちゅ」






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