第2話・レベル限界1・・・それはレベル上昇による恩恵が受けられないということだ

「お前なんて俺の息子ではない。二度と家に帰って来るな」

 12歳になる年の7月7日に行われるステータス閲覧日の日、僕のレベル限界が1と知ったお父さんは僕をぶん殴ってそう怒鳴った。


「お母さん助けて」

 隣にいたお母さんに僕は助けを求めた。でも現実は非情だった。


「お前なんて子供は知らないわ」

 そう言ってお母さんはお父さんと一緒に僕を置き去りにして歩いて何処かに消えてしまった。


 僕は周りに助けを求めようとした。一緒に遊んだ幼馴染のキャンディー、森の探索ごっこをしてよく泥だらけになって一緒に怒られたケイン、僕の狩人の師匠であるガレンのおっちゃんと共に一緒に狩りをしたアレン。


 皆に友達に助けを求めようとした。

 でも皆の親が。あれだけ仲良くしてくれたオジサン、オバサン達が皆を連れて速足で家に帰っていった。

 何処か申し訳なさそうな。それでいて軽蔑するような目を向けながら。


「どうやら君は捨てられたようだね」

 教会から来た司祭様が僕に話しかけてくれた。


「司祭様、僕は僕はこれからどうすればいいのですか」


「自殺することを進めるよ」

 司祭様から出た言葉は僕に取って信じられない言葉だった。


「司祭様、何を言うんですか。僕は生きたいです。こんな所で死にたくありません」


「そうですか。では頑張ってください。まあ私は色々と用事がありますので。では転移」

 司祭様も何処かに消えてしまった。


 僕は一人になった。

 誰もいない森の近くにある祭壇の中に一人だ。

 村に戻ろう。そう思ったが僕は村への戻り方を知らなかった。それに両親の言葉を思い出し。そして殴られた頬の痛みを感てしまった。


 ・・・・・・・


「戻っても、また殴られる」

 僕はそう呟いていた。


 多分これは正解だろう。

 あんなに良くしてくれたオジサンオバサン達のあのよそよそしい態度に眼差し。多分僕は捨てられたんだ。いらない子なんだ。レベル限界が1であった為に捨てられたんだ。

 それを否が応でも理解してしまった。


「うあああああああああああああああ」

 僕は叫んだ。


 孤独感を感じ愛してた両親から捨てられたという事実に嘆き、泣いた。喚いた。喚き散らした。

 でも誰も来ない。

 何も返事はない。


「一人は寂しいよ。辛いよ。誰か助けてよ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 何も返事はない。


「これから僕はそうすればいいんだ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「誰か教えてよ。僕はどうしたらいいの?」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「誰か、ねえ、誰もいないの。僕を助けて」


「グルグルグルグル」

 僕の目の前に狼が現れた。

 大きな狼だ。僕よりも一回りは大きい狼だ。


「ひ。こっち来ないで」

 僕は情けない声を出しながら走った。狼という自分を食い殺そうとしてくる魔物相手に逃げた。走って逃げた。

 走って、走って、走って、走って逃げた。

 わき目も降らず、周りも気にせずにひたすらに走って逃げた。

 走って走って走って走って。


 こけた。


 木の根につまずいてこけた。


 狼はすぐ近くにいた。

 あの恐ろしいグルグルという音を鳴らしながら僕の元に一歩また一歩確実に近づいてきた。

 このままじゃあ追い付かれて食い殺される。

 それは12歳の僕でも分かった。


 そしてこのまま食い殺されてもいいかなとも思ってしまった。

 僕のレベル限界は1だ。

 これがどれだけ珍しいのかは分からない。でもお父さんとお母さん、そしてオジサン、オバサンに司祭様の態度から自殺を進められる程の大きなハンデだというのは分かった。

 それにお母さんからよく寝る前にレベルについて教えて貰った。だからこのレベル限界1が絶対に強くなれない、絶対にレベルの上がらない一生レベル1で過ごさなければならない一生成長できないものだと分かった。

 分かってしまった。

 分かりたくもなかった、何も知らずに死にたかった。

 自分がどうしようもないくらいに落ちこぼれの才能のない成長できない存在、そんなこと理解したくなかった。

 でも理解してしまった。


「グルグル。ガウ」

 そして狼は僕の目の前にいた。


 目の前でその大きな口を開いた。凶暴で鋭い牙が見える。

 その瞬間僕は反射的に恐怖で目を瞑り腕で衝動的に頭を守った。


 グシャ


「あああああああああああああああああああ」

 右腕を噛まれた。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。気が狂いそうなほどの恐ろしい痛みが僕を襲う。


 「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

 僕はひたすらに喚いた。喚いて喚いて喚きながら考えた。


 生きたいと。

 僕は生きていたい。こんな所で惨めに狼に喰われて死ぬなんて嫌だ。絶対に嫌だと。


 「僕は僕は戦ってやる。戦ってやる戦ってやる」

 僕は叫ぶ、心から叫ぶ。腹の底から叫んだ。


 「レベル限界1が何だ。一生成長しないが何だ。ふざけるな。誰がそんなことを決めた」

 僕の叫び声はかすれかすれではあるが森に響き渡り。木霊する。


 「僕は絶対に生き延びてやる。この狼を殺してやる。狼を殺して生き延びてやる。そして強くなってやる。強くなって強くなって強くなって強くなって、誰にも負けない力を手に入れてやる。レベル限界1で最強になってやる。最強になってレベル限界なんて関係ないことを証明してやる」

 僕の心からの命の炎を燃やすような叫び声が響く。その響いた音を聞きながら僕は言った。 


「さあ。ここからが僕の人生の始まりだ」


 と。

 

 ピコン

 スキル【痛覚耐性】を獲得しました。

 副次効果として防御力が10・HPが100上昇しました。


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 この物語はレベル限界1という過酷な運命を背負った少年・アストがスキルマスターと呼ばれる世界最強の冒険者になるまでの物語である。

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 スキル説明

【痛覚耐性】・・・レベル×1回以上、死を感じるほどの痛覚的苦しみを味わった者に与えられる耐性系統スキル。

 痛覚が鈍くなり。痛みが抑えられる。

 副次効果として防御力が10・HPが100上昇する。


 スキル詳細説明

 この世界にはスキルが存在します。

 基本的にスキルはレベル上昇により獲得出来るものがほとんどです。

 自力獲得は非常に難しいとされます。

 実際に自力獲得しようとしたら血のにじむような努力と命を賭けた戦いが必要です。

 スキルはレベルが上がれば上がる程獲得難易度は上昇していきます。


 例を出すと。

 一般人がレベル1の時に木登りというスキルを獲得しようとしたらレベル1×100回以上木登りをすれば獲得出来ます。

 しかしレベル100の人が獲得しようとしたらレベル100×100回以上の木登りを行わなければなりません。

 このようにレベルが低い時の方がスキルは獲得しやすくなります。もちろん才能というのもあり。才能がある人が魔法を行使してスキルを獲得しようとした場合と才能のない人が魔法を行使して獲得しようとした場合では天と地ほどの差が出ます。


 また、スキルは主に戦闘系統スキル・魔法系統スキル・補助系統スキル・耐性系統スキル・特殊系統スキル・称号系統スキルに分かれており。

 称号系統スキルの方はレベル×レベル×一定数以上という判定となり非常に獲得が困難です。その分かなり強力です。

 因みに獲得基準は今現在のレベルとなり。レベル1の時に99回木登りして、そっからレベル2になれば200回以上木登りしないと獲得出来ないから残り木登り回数は101回以上となります。


 スキルは獲得するとどのように使えばいいか。どのようなスキルなのかの情報が頭に流れ込みます。

 なので本編でスキル説明は基本しません。ご了承ください。


――――――――――――――――――

因みにレベル上昇は最初は皆レベル10までは全てのステータスが1ずつ上昇。

職業を獲得してからは、その職業に応じてステータスが上昇するという形です。

例を出すなら、レベル10の職業・魔法使いは魔力とMPがレベル1上昇ごとに3ずつ上がるとか。

職業・魔剣士だったら全てのステータスがレベル1上昇ごとに2ずつ上昇とか。

まあ。そんな感じです。

結構ここら辺の設定は後付けをするかもしれませんが、その時は許してください。

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