懸念
俺達は、活動の拠点をリントの街から少し離れたイリーナの屋敷へと移した。
情報屋に情報を渡してから街には、少しずつオストランド聖教への不信感が漂い始めており教団が街の監視を厳しくするだろうと思ったからだ。
「銀嶺亭の料理も良かったけど、イリーナの作るご飯も悪くないわね!」
ティリスは、すっかり餌付けされてしまっていて神殺しの武器たる
「そう言って貰えて何よりだ」
街に行くときには外套で隠れていたしっぽが、にょんにょんと左右に動いている。
「尻尾がどうかしたか?」
イリーナがきょとんと俺を見つめた。
「いや、動いていたからついつい気になってしまってな」
犬は嬉しいと尾を振るが、それと同じだとするのならティリスに褒められて嬉しいのだろうか……。
「あぁ、これか……嬉しくなると無意識に動いてしまうんだ」
少し照れながらイリーナが言った。
原理は、どうやら犬と変わりないらしい。
「それはそうでしょう、私は
ふふん、と腕を組んで威厳を見せつけようとするティリスは、全く様になっていない。
「今更だが、
扱いは難しいが管理人格があるが故に意思をもつ武器。
「えぇ、一つだけ。
ユミルがそう言うとティリスは鼻を鳴らした。
「あんな意志薄弱な管理人格、たいして使えるわけないわ」
ティリスは、どうやら知っているらしい。
「フランシュゲーテに持たせていたはずだけど……今はもう行方が分からない」
ユミルの腹心、フランシュゲーテは
だが行方知らずの今、
「この話は置いといて気になったことを話してもいい?」
ユミルが改まって言った。
「どうした?」
「教会の青年のことなのだけれど、亜神のことは知らないと言っていた」
その話か……【不死者の庭】には、複製の神核をもつ化け物がいた。
何故か根源がなく本来の神核では無いものを持っていた亜神。
「嘘か真かは判断出来ないが、そんなことを言っていたな」
敵だった者の発言だ、嘘の可能性も十分にある。
「仮にそれが本当だとすれば、私を追う勢力は教団だけではないことになる」
銀嶺亭にユミルを追跡してきた神族と思われる者は、教団以外の勢力と考えるべきか?
普通に考えれば、教団が神族を使役できるようには思えない。
「そして、複製の神核。第三勢力が関わっているとすれば、少なからずフランシュゲーテが関わっているように思えるの」
そう断定するには、まだ判断材料が足りない。
でも、そう言われれば不思議ではない。
「つまり今後も神族が絡んで来る可能性があるってことだな?」
どの個体も基本的に、膨大な魔力を保持する神族、亜神、番神ならまだしもれっきとした秩序を司る神が相手となるのは厄介だ。
「そういうこと。だから決して油断しないで」
あぁ、油断はしないさ。
人族を信じて裏切られた時点で、俺は自分に誓ったからな。
裏切られるなんて思ってなかった、それが最大の油断だった。
「アイヴィスには、私が付いてるんだから!安心して戦いなさい!」
ティリスの安請け合いには、若干の不安を感じつつも、やはり
それに、俺は一人じゃない。
ユミルだってイリーナだっているんだ。
仲間達を頼ることが出来るから過去の自分よりもきっと強いはずだ。
楽観的な人間ではないが、そう簡単に負けないと思えた。
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