情報屋



 ミリィの妹と弟を助け出したお礼として銀嶺亭への宿泊代が今後一切、不必要になった。

 

 「いや〜人族って結構チョロいわね」


 食費もタダになったことで、調子に乗ってお代わりしまくっているのはティリスだ。

 

 「世の中、タダより高いものはないって言うぞ?」

 「けど、これに味をしめちゃいそうでヤバい」


 ティリスの食欲はとどまるところを知らない。


 「もうさ、これから人助けだけして後はタカって生きてったらいいかもね!」


 そしてとんでもない人生設計をし始める。

 一体、人の人生をなんだと思ってるんだ……。


 「お前がイヴァンか?」


 そこへ一人の男が声を掛けてきた。

 この男は、情報の売買で生計を立てる情報屋で、ミリィに頼んで呼んでもらったのだ。


 「わざわざ来てもらってすまない」

 「いや、いいネタが貰えるんなら安いもんよ」


 男は人好きのする笑みを浮かべて言った。


 「ねぇ、ミリィちゃん俺にもなんか摘めるものと酒を出してくれ」


 どっかりと座ると男は、大声で厨房にいるミリィに注文をする。


 「あいよ!」


 銀嶺亭の看板娘、ミリィの小気味良い返事が返ってきた。


 「で早速、聞かせてもらおうじゃねぇの?」


 先程とは打って変わって男は声を潜めた。

 店にいる他の客に聞かれないように、ということか。

 

 「ユミル、見せてやってくれ」


 百聞は一見にしかずというやつだ、ユミルが俺と初めて会ったときに使った映像記憶の魔術を使って映像記憶を情報屋に見せる。


 「【記憶投影オニミスプロポリー】」


 ユミルは頷くと男に魔術を行使した。


 「コイツはすげぇな」


 男の網膜に映されているのは、教会の礼拝堂の地下室だ。

 目を覆いたくなるような惨状が広がっているのだろう、情報屋も顔を引きらせている。

 

 「これがお前さんの持ってきたネタってわけだな?」

 「あぁ、そうだ」


 男は俺に確認をとると腕組みをして考え始めた。


 「一応説明すると、目的は不明だが教会では子供達から魔力機関を摘出する実験が行われていた。俺達と戦った教会の人間もそれをみとめている」


 その部分の映像記憶も無いわけじゃないが、俺の名前が呼ばれたりしていて見せるには都合が悪い。

 情報屋の男をまだ信用したわけじゃないからな。

 俺がここにいて魔力機関摘出を突き止めた、というのもこの男からしたら価値のある情報なのだから。

 教会にでも告げ口すれば、報奨金すら貰えるかもしれない。


 「確かにデカいネタではあるんだが、コイツを堂々と世間に発表するわけには行かねぇんだ……俺の首が飛んじまう」


 教会の不利益となる情報を撒けば、この男も教会の排除対象となってしまうだろう。


 「それはそうだろうな、だが隠して置くべきじゃない」


 だが俺は何としても、この情報を色んなところに撒きたいのだ。

 というのも、盲目的に大衆が信仰している宗教がどんなことをしているのかということを知って欲しい。

 その上で信仰する必要性があるのかと問いたい。

 信仰を辞める人が出れば、バックにいる神の力は削がれる。

 そしてあわよくば、ユミルを信仰するように仕立てあげたい。

 

 「それは勿論その通りだ。だからな、俺は大っぴらには撒かねぇ。あくまでも俺の趣味の範疇で拡げさせてもらうぜ?」


 情報屋の男は、そう言って笑った。


 「お前さんも多分、教会に対して思うところの一つや二つはあるんだろう?」


 グビりと麦酒をあおる。

 

 「それにこんなデカいネタを放って置くのは惜しい。大衆にバラ撒いたらさぞ、面白い反応をしてくれるだろうよ」


 男は口伝で、あるいは情報屋仲間同士の交流で少しずつ拡散していくつもりなのだろう。


 「ありがとうございます」


 これが今の俺達に出来るささやかな嫌がらせというわけだ。

 

 「お前さん達といると他にも面白い話が聞けそうだな」


 情報屋の興味が俺達に向く。

 これは、少しでも怪しい所を見せないように注意した方がいいかもしれない。


 「今後もいいネタがあったら頼まぁ!」


 情報屋の男は、そう言うと最後に残った酒の摘みを口へと放り込み手をヒラヒラと振りながら店の外の喧騒へと消えて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る