まだ出来ること



 ギルドへの報告は、イリーナに行ってもらうことにして俺は、ティリス、ユミルとともに銀嶺亭へと二日ぶりに戻った。


 「ほんとにイリーナに行かせて良かったの?」


 隣を歩くティリスがちょっと不満そうに言った。


 「俺達は、追われる身なんだぞ?」


 俺とユミルは、オストランド聖教に狙われている。

 あの依頼を解決した、ということで目立とうものならあっという間に捕まってしまいそうな気すらする。


 「でも、私は納得いかないわ。一番頑張ったのはアイヴィスだっていうのに」


 むぅ〜とティリスはむくれた。


 「お兄さん達、強いんだね!」


 ミリィの弟が目をキラキラさせて言った。


 「そうよ私と、このお兄さんに並び立つ人はこの世界にはいないもの」


 ふんす、と鼻息荒くティリスが言う。


 「ほんとにー?」

 

 好奇心旺盛なのは子供の良いところだ。

 でも今回は、それが裏目に出たのだろう彼らは、連れ去られてしまった。

 そんな話をしているうちに銀嶺亭の前に着いた。


 「あ……あぁ、イヴァンさん!」


 店の前で立っていたミリィが咽びながら駆け寄ってくる。


 「ほら、行きな」


 ミリィの弟と妹の肩をぽんと叩いて送り出してやる。


 「お姉ちゃん!」

 「怖かったよぉ」


 二人は、ミリィの胸に飛び込んでいっせいに泣き出した。

 安堵あんどの涙といったところだろう。


 「イヴァンさん、ありがとうございました!もう、何とお礼を言ったらいいのか……」


 顔をしわくちゃにしながらミリィが言った。


 「気にするな、子供達を守ってやるのも大人の仕事だ」


 あの青年に使役されていた子供達は、全部で八人いた。

 彼らは、まだ幸運な方で礼拝堂の地下には目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

 地下室には、所々に魔力機関を抉り抜かれた子供達の死体が放置されていたのだ。

 あの八人は、多分何十人と攫われた子供達の数少ない生き残りということになる。

 しかしその八人の中にも一人だけ、俺が反射リフレクタした鎖の攻撃を受けてしまった子供が一人いる。

 一応、回復魔法をかけて治療はしておいたが、しばらくは療養が必要になるだろう。

 

 「いえ、お礼をさせて下さい!ちょっと両親に話してきます!」


 ミリィはそう言うと、店の中へと引っ込んでいった。


 「久しぶりに喜ぶ人の顔が見れて満足した?」


 ティリスは静かに言った。


 「なんと言うか大戦が終わって俺は、もう用無しだと思ったが、今でもこれだけ役に立てるんだな……」


 誰かに必要とされること、必要とした人を助けることは、英雄の面目躍如たるところだ。


 「用無しなんてことはない。今だってもっと難題である私の頼みをきいてくれてるわけだし」


 そうだったな……俺は、ユミルの秩序を取り戻す手助けをしているんだったな。


 「まだ、俺に出来ることは結構あるのかもしれないな」


 そう思うと胸の奥から込み上げてくるものがある。


 「そうよ、アイヴィスを必要としている人達は、まだ大勢いるわ!頑張りなさい!」


 ティリスは、そう言うと俺の腰をバシバシと叩いて励ましてくれた。

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