眷属
「本当にいいんだな?」
イリーナの覚悟は出来ているとは知りながらも、やはり眷属化というのは、かなり重たい意味を持つ。
それ故にもう一度、聞いた。
「以外にしつこいんだな……やってくれって言っているだろう?」
イリーナは、相好を崩して言った。
「なら、まずはイリーナの体を俺の魔力に慣れさせる。拒絶反応とかあるかもしれないから異常があったら言ってくれ」
ユミルとティリスに目配せで退出しろと伝える。
二人は頷くと素直に部屋から出ていった。
「上半身だけ、服を脱いで貰えないか?」
魔力機関に直接俺の魔力を送り込むには、間に入るものがどんなに薄いものでも、たとえ空気だとしてもない方が効率がいい。
「わ、わかった」
頬を赤らめながら、イリーナは頷いた。
左右の乳頭の間、それが魔力機関の場所だ。
彼女の乳房に触らないよう僅かに指を肌から浮かせて正確に場所を測る。
「なんだか、恥ずかしい……」
「大丈夫だ、触ったりはしないから」
俺を信頼してここまでしてくれる彼女を裏切るわけにはいかないから、やましい目で見たりもしない。
「んあっ」
僅かに俺の指が当たってしまったのか、イリーナは身を震わせた。
「すまん」
場所は、この辺りか……。
割り出した場所に、俺は人差し指を置いた。
「んくっ」
イリーナの艶めかしい声が部屋に響く。
俺もずっと正気でいられるかは自信が無いがどうにか欲求を押し殺している。
「いくぞ?【
少しずつ出力を高めて体に馴染ませながら、俺の魔力を送り込んでいく。
「問題ないか?」
ダークグレーの光が俺の人差し指から溢れている。
「んっ……大丈夫だと、思う……」
自分の魔力とは異質の魔力が体内に流れ込んでくる感覚を俺は知らないが、違和感のようなものがあるのだろう、イリーナは端正な顔を歪めている。
「これ、闇属性の魔法でしょ……?魔族が使うものと…人間が使うものとじゃ、違いはあるだろうけど……基本は…同じだからっ……」
なるほど、魔族の使う魔法も確かに闇属性だ。
だからこそ、多少なりとも違和感はあれども苦痛にはならない、ということか。
「もう少しで終わるぞ」
魔眼を凝らして見ると、既にイリーナの体の末端部まで俺の魔力が行き渡っている。
そして、イリーナの魔力と融合し始めていた。
そろそろ十分だな……。
俺は、人差し指を彼女の胸元から離した。
「ふぅ……」
体を汗に濡らしながらイリーナは、一息ついた。
「あとは、眷属化の魔法をかけるだけだ。少し聖痕が痛むだろうが我慢してくれよ?」
イリーナは、コクっと頷く。
「【
もう後戻りは出来ない。
聖痕が、俺の魔力を示すダークブルーに染まり始めた。
「くっ……ぁぁぁっ痛い……」
イリーナは、聖痕を抑えて呻き声をあげる。
この魔法を使ったのは、初めてじゃない。
奴隷商に売られていた魔族の子供を解放したときや慰みものにされそうになっていた魔族の少女達を解放するときにも俺は、これを使っていた。
だから、この魔法で悶える魔族を見るのも初めてでは無い。
だが、何度見ても罪悪感が込み上げてくる光景に変わりは無かった。
「っ……これくらいの痛みでっ!」
全身から汗を吹き出し聖痕を抑えてうずくまるイリーナ。
俺に出来ることはと言えば、そばに寄り添って体をさすることくらいだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
雄叫びのような声をあげて、イリーナはその場に倒れ伏した。
聖痕は消え、息もある。
あまりの痛みに気を失ったらしかった。
この聖痕、特に強い力を持つものだったか……。
「よく耐えたな……」
彼女の滑らかな緋色の髪を優しく撫でた。
「ユミル、ティリス、終わったぞ」
終わったことを伝えると、遠慮がちに二人は室内へと戻ってきた。
「何をしたの?」
若干引き気味のユミル。
「予想よりも、聖痕の持つ力が大きくて意識を失ったらしい」
「いや、そうじゃなくてどうして半裸なのかってこと」
ユミルが疑う様な視線を俺に向けた。
「はは〜ん、クソ女神は知らないのね?いいわ、教えてあげる」
ティリスは、眷属化のことを知っているから知らないユミルに対してここぞとばかりにマウントを取りに行く。
「クソ女神?今からでも鞘から出られないようにしてあげる」
かつてティリスが管理人格を務める
「二人ともそこまでにして、イリーナの汗を流してやってくれ」
これで、あとはイリーナが魔法を行使できるようになったかを再確認するだけだ。
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