第31話 合衆国大統領
031 合衆国大統領
「君は誰だ」
トルーマンは混乱していた。
「私は大日本帝国の政権を
「なんだと」
「クーデター政権の救国軍事会議議長高野九十九です」
「どうやって、ここへきたのだ」
「正面から入ってここまで来ましたが」
「警戒されていたはず」
「閣下、私は忍術をマスターしているのです。そのようなことは簡単なことです」
そう、簡単に
決して、忍術をつかったわけではない。
「それより、大統領閣下、そろそろ任務に復帰願いたいのです」
「何!」
「今米国はひん死の状態です。帝国の兵器が米国の街を焼いています。そして、例の新型爆弾が、ニューヨーク市を狙っているのです。閣下が休んでいる間に戦況は非常に厳しい状況になっているのです」
「なんだと」
「閣下が休んでいる間に、彼らは、勝手に戦争を再開しましたが、帝国の反撃を受けているのです。早く何とかしないと、罪もない市民が大勢殺されることになります。私は意を決して、それを止めに参ったのです。これ以上私に罪を犯させないでください。」
「だが、」
「勝手に戦争を再開したものを処刑してください。そして、ワシントン州の独立を認めてください。それなくしては、ニューヨーク市が火の海になるに違いないのです。もはや、大陸を横断できる爆撃機があの黄色い猿の手元にあるのですよ!」
「ワシントンはわが米国の領土」
「いやいや、今の状態では、某国人が西海岸に国を興します。早く殲滅しないと大変なことになりますぞ」
「どういう状況なのだ。」
その男は、切々と現況を語りはじめる。
すでに、カムチャッカ半島から、米国東海岸を核攻撃する準備が整っていること。
北西部のワシントン州では、インディアン達が、ある程度の面積を確保していること。
西海岸に帝国がフロンティア部隊と称して、100万近い某国人などを輸送上陸させていること。さらには、それ以前に、東海岸の主要な造船所が新型爆弾で灰燼に帰したこと。
ゆえに、空母が決定的に不足していること。
太平洋に米国艦隊が存在しないこと。
英国がすでに風前の灯であること。
このチャンスを失えば、ドイツ帝国がイギリスに再上陸し取返しがつかないこと。
などが告げられる。
直ちに、帝国と和平を行い国内の復興と打倒ナチスに向かう必要があること。
そして、豪州は手遅れであることなども説明される。
豪州では強制疎開がすでに始まっている。
800万人の白人たちが、ニュージーランドへ移住させられていた。
「大統領閣下、もはや決断の時ですぞ、ニューヨークをあきらめるか、停戦するかの二つに一つなのです。こちらは、いつでも発進命令を下せます。あなたは、それでよいのですか」
そもそも、核攻撃をしようとしているのは、この男だった。
「交戦をつづける場合、遺憾ながらニューヨークへの新型爆弾、その次はボストン、その次はどこがいいでしょうか?おお、デトロイトです。ここでは、たくさんの兵器を作っておられる、ここなら、後で文句は言われない。シカゴでもよいですな、む、さすがにこれ以上使うと在庫切れになるかもしれない」
「おおそうだった、どんどんと某国人、いやフロンティア兵団が、西海岸に上陸してくるでしょう。日本には、それほどの人員はないが、かの国には、人がまさに海のように存在するらしいですから、補充はいくらでもできるのです。そして、私は、できるだけ彼らを送り出したいと思っているのですよ、いずれは敵性勢力になるわけですからね」
この男がしゃべっている内容は無茶苦茶な内容だったが、本当にやりたいことを言っているに違いない。そして、確実にやり遂げる狂気を感じさせる理性をトルーマンは感じ取った。
何かが、この男を狂わせてしまったのに違いない。いや、そもそも狂っているのかもしれない。
そして、その通り、男はくるっていたのである。
「停戦すれば、これ以上の侵略行為を行わないのだね」
「何をおっしゃっているのです、侵略したのは、米国でしょう。ハワイは独立して自分で統治していたではないですか。フィリピンはよく知りませんがね」
「ちなみに、パナマ運河は帝国が監視しますので、軍を進駐させるでしょう。しかし、私はその時には、もういないでしょうから。伝達はしておきますが」
「どういう意味かね」
「クーデター政権ですから、いずれは誅殺されることでしょう」
こいつは本当にいかれてやがる!
トルーマンは恐怖を感じた。
「では、フロンティア部隊というのは、撤兵するのか?」
「残念ながら、上陸した彼らを止めることができるのは、あなたたちだけです。速やかに駆除すべきだと進言します、因みに、インディアン達の国は認めてあげてください。もともとは彼らの土地だったのですから。少なくとも一発はおいておきますよ、彼らの誇りのために」
それは、原爆をおいていくという意味である。
残念にも、彼らが負けた場合は、それを使い自決するということである。そして、国土を汚染することになる。
「そんなことが認められると思っているのか」
さすがに、激昂するトルーマン。
「それを決めるのは、私ではない、あなたが決めればよい」その声は氷つくような冷たさだった。男にとってそんなことはどうでもよいことだったのだ。
男は時計を見た。
「そろそろ、私もお暇した方が安全かもしれません。ずいぶんと長居してしまった。」
男は猿芝居が大好きなのだ。
「我々の実力を見せるために、バンカーバスターを用意しています。」
「バンカーバスター?」
「ええ、遅発信管をつかった、トーチカ貫通爆弾です」
グランドクロス爆弾を改良したものである。
「閣下急いで脱出しないとここも安全とは言えませんぞ」
男は、トルーマンを担ぎ走り始める。驚異的な身体能力だった。
超高空を雲を引きながら飛ぶTu95爆撃機。高度一万をほぼプロペラ機の限界の速度で飛ぶ。これ以上回せば、プロペラの先端部分がマッハを超えるため、そういう意味での限界速度であった。
この速度、高度でとばれると、レシプロ戦闘機には迎撃は難しい。
照準器はホワイトハウスをとらえているはずだった。
超高空から爆弾が投下される。
だが、高度が高すぎる爆弾はホワイトハウスでないところに落下する。
それはくしくも、川の対岸にある、五角形の建物だった。
大爆発が起こった。
噴きあがる土煙、ペンタゴンに地下施設があったのかは不明だが、確実に大きなダメージを受けてしまった。
その光景は、ホワイトハウスの近郊からも見えた。土煙と火柱が。爆発の衝撃波も後からやってくる。
「あ、外れましたね、よかったですね。」
「なんということだ」
「日本の照準器など所詮この程度なんですね、今度文句言っときますね」
「国家国民のために、停戦しよう」
「ええ、戦争を再開した奴は確実に処分してくださいね」
「貴様!」
「戦争犯罪人ということで、引き渡しを求めます。本国(日本)で裁判を行います」
男の脳には東京裁判の映像が焼き付いていた。それを再現せねばならない。男はあくまでも執着していたのである。
「では、そういうことで」
男は手をあげる。
振り向きもせず、手を振りながら歩いていく男。
そこには、瘴気の影のようなものが揺れて動き立ち昇っているように見えた。
それは、キリスト教圏で恐れられる、悪魔のように見えた。
かくして、停戦が行われることになる。
オアフ島真珠湾の戦艦大和上で調印式が行われることになる。
日本側からは、永田鉄山総理大臣、米国側はトルーマン大統領らが出席した。
調印に当たって、戦争を再開させた3長官が、日本側に戦争犯罪者として引き渡される。
肝心のあの男は蟄居謹慎処分となっていた。
自ら、憲兵隊に出頭したのだという。
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