第30話 サンフランシスコ上陸の果てに

030 サンフランシスコ上陸の果てに


さらに、上陸兵(フロンティア部隊)が増えた。

今回だけで18万人に上る。

しかし、人海の中国人の実力はこの程度ではない。

10日後にまた来るぞと、彼らを残して船は帰る。

25万人以上の兵力で、米国戦車軍団と戦うのは、蒋介石総統である。

彼は、第3陣に加わることになっている。

直ぐに、飛行場の整地を開始する。

これさえできれば、C130の空輸で武器が届けられる約束なのだ。

フロンティア部隊の隊長が、何かわからない言語で兵たちに命令しているが、重機(建設機械)がないので、はかどることはない。


サンフランシスコの市街地は相当な部分を制圧しているが、その外には米国戦車軍団が迫る。市街戦である。

まさに、すべての建物を破壊しないと、ゲリラが潜む危険な戦場だった。

米軍とフロンティア部隊が、狙撃を繰り返し、たまに同士討ちを行う。混沌とした戦場であった。

ヘリ部隊のせいで、戦車とりゅう弾砲をかなりやられたパットンだが、生まれついての性格なのか、突撃して、黄色い猿あるいはジャップを殺せと命令していた、彼は非常に勇敢なのだ。

残念なことは、それがジャップではことだ。


結局、10日後には、次の陣はこなかった。

ハワイ島を往復するので、そして、兵員を載せるために時間がかかるのだ。

輸送船は、遅いものだ。


14日後に、やってきた。

その夜には、適当にロケット砲がいつものように火を噴く。

そして、翌朝、制空権を確保した中、上陸が開始される。

今回も、ANT師団の殺人ヘリ部隊が戦車軍団を舐めるように、つぶしていく。

辻大佐は、ドアガンナーとして、M2重機を撃ちまくりながら、現地人の言葉で「殺せ殺せ殺せ」とわめいていた。

すでに、殺せという言葉を、高砂族、ニューギニア人、アボリジニの言語でいうことができるようになっていた。ただし、語彙ごいは『殺せ』のみである。


「高野閣下、今回はわたくしも、現地に残り、フロンティア部隊を支援したいと思います」

「いや、辻大佐、それは無駄だ」

「しかし、橋頭保の航空基地を作れば、C130での輸送が可能になり、戦闘が有利に運びます」

「辻大佐、我々の攻撃は、陽動なのだ、ワシントン州にインディアン達が作る国を支援するのが目的である」

「それでは、フロンティア部隊は?」

「もちろん、米国に対する餌だ」

「え?」

「え?ではあるまい、我々がなぜフロンティア部隊をのだ!」

「しかし、それでは、フロンティア部隊がしてしまいます」

「だから?何か?」

「いえ、そのようなことは・・・」

ではないか」

「しかし」

「辻大佐、まだフロンティア部隊はハワイ島にいる。彼らを早く、運ばねばならん、本当に残りたいのなら、それでもかまわんが」

「ですが」

「残ることは、止めはせんが、まずは、ハワイ島のせねばならん」

「・・・・」


ハワイ島には、フロンティア部隊がまだ30万人ほどいたのである。

あと2回は輸送する必要があった。


それから一か月の間に、2回の輸送を行う。

約百万人がサンフランシスコに上陸した。しかし、その都度減っているので、総兵力として集中することができなかった。各個撃破の典型となる。

結局、50万人のフロンティア部隊が、蔣介石総統のもと集結した。

そして、ついに航空基地が整備される。

それは、まさに人海戦術だった。

彼らは、まさに、銃弾を潜り抜け、爆弾でできた穴を何度も直したのである。

そして、その航空基地に、地獄のヘリ部隊がやってきた。


「辻大佐、お止めしてもあなたは行くのでしょうな」

「はい、私もフロンティアの気概を見せようと思っています」

「何度も言いますが、もう作戦は終了しています」

陽動作戦のお陰でワシントン州からカナダにかけての一帯に独立国らしきものが生まれていた。


男にとっては、それで義理を果たしたのである。

後は、彼らがどのように、ゲリラ戦を戦うかだけである。

勿論、物資はできるだけ送るつもりだが、永遠に続けるわけにもいかない。


ゆえに、フロンティア部隊はすでにだったのである。

ただし、この辻という男だけは、頑としてそれを理解しようとはしなかった。

この男は、すでに血に酔っていたのであった。

ただひたすら、戦場を往来することだけを望んでいた。

というか、人を殺すことを望んでいた。

そして、ヘリ部隊の兵士たちも、同様になっていた。

「私はたとえ武器がなくても、竹やりで戦います」

「そうですか、では」高野が敬礼すると、辻も敬礼で返す。


因みに、サンフランシスコに竹が生えているかは知らない。

あるだけの物資と修理用の備品を陸揚げして、大連合艦隊は去っていく。

フロンティア部隊の蒋介石は、また来てくれる。空輸を行ってくれるはずと考えていた。


しかし、男はそんなことは欠片も考えていなかった。

とか、というのは、大なのだ。

そう、常識なのだ。男は当然に常識派なのでそれに従うことにした。


後は、どのように戦争を終わらせるかだけが問題だった。


そして、その方法を模索するべく、男は米国を敵中突破することになる。

最後の会談を行うべく、ワシントンDCへと向かう。

彼の姿を止める者はいない。

彼は、陸軍の軍服、認識証など、すべて持っていたのである。

しかも、ネイティブとも同等に英語を話すことができる。

顔つきは日本人とは思えない。

疑いようがない。


各地で反戦デモが行われていた。

負けるのは嫌だが、死ぬのはもっと嫌だった。

恐るべき新型爆弾の噂が米国中に拡散していた。

そして、実際に見たことがある人間も探すのに困らないほどはいたためである。

なかには、サーモバリック爆弾を新型と勘違いしている人間もいたが、攻撃半径の中にいれば死ぬことは同じだった。

新型爆弾は攻撃半径が広く、いつまでも有毒であるというだけだ。

灰を呼気から吸入することも危険なだけ。


そして、男はまたもワシントンDCへと現れた。

厳重な警備が敷かれ、爆弾で破壊されたホワイトハウスは急激に復興されていた。


「グランドクロス爆弾なら破壊できるのだろうが、殺したところで、うまく止まるかどうか?」

ホワイトハウスの地下には、おそらく堅固な要塞があるだろうが、遅発信管と弾頭の強化をおこなえば、バンカーバスターに近いものになるはず。

しかし、それで司令部を爆破したところで、この巨大な国の戦争を止めることができるのか?男はそう考えていた。


夜のとばりに紛れて、再度潜入を開始する。

声を立てずに、黒い犬がとびかかってくる。

ドーベルマンを使っているのだろうか。

だが、そんな影のような存在も男の目には、見えていた。

そして、そのような動きでは、かみつくことはできない。

一瞬首に手を回すだけで、犬は死んだ。

首の骨がおられたのである。


闇をうろつく死神という表現がぴったりあてはまる。

死神は容赦なく死を振りまいていく。

誰も声を上げることができなかった。

気配を感じ取ることができたものもほぼいなかった。

屋上にできた、爆発口から侵入し、地下を目指す。

すべてのトラップが分かった。

ホワイトハウスの地下には、アリの巣のような迷路が広がっている。

その一室に、それはいた。

死神には、神の啓示が降りる。

寝れば、居場所を特定することができる。

Gだ。

コツコツと靴音だけが誰もいない廊下に跳ね返る。

扉の前には、兵士が二人立っていたが、まさか敵がくるとは思ってもいない。

ここは、アメリカ最強の要塞の中なのだ。

ここは、もっとも安全なホワイトハウスの地下基地なのだ。

「楽にしてくれてよい」男は、英語で言った。

「どなた様ですか」今まで見たことのない男だった。

「楽にしなさい」その言葉と同時に、兵士二人が死んだ。声もなく。

鍵すら必要とせず、扉を開ける男。


「ずいぶんとお待たせしました。大統領閣下」

死神が人間らしい挨拶を行った。


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