第29話 将軍
029 将軍
特異な方法でその男は死者の数を知ることができた。
はじめ、その数の多さに、自らが大地に沈みこみそうだったのだが、この時の男の精神状態は、100万を目指す戦いへと切り替わりつつあった。
そもそも、確かに命令したが、それは、日本を守るためなのだ。
此方からは、何回も停戦勧告をおこなっていた。(条件が全く折り合わなかったが)
此方の勧告を蹴りつけてきたのは、あちら側なのである。
俺が悪いのではない。奴らが問題なのだ。
そもそも戦争に、正義などない。
そんなことを言うつもりもない。
男は見事に責任転嫁を達成し、最後の戦いへと向かっていた。
男はすでに、ニューカレドニアの黒真珠養殖を夢見て、いかにうまくごまかして終戦にするかを考えていたのだ。
公式には、日本は、米国に対し、三発の核爆弾を投下したことになっているが、その前に1発。その後に戦術核を3発発射していた。
その死亡者数は、58万人に達していた。
そもそも、日本が原爆を投下され、米国が責任を取ったことなどないのだ。
ゆえに、自分も責任を取る必要はない。
だいたい、東京大空襲で数十万人を殺しても、勲章をもらいこそすれ、罰せられた軍人はいない。
私に一体何の罪があるというのか!
そこで問題になるのは、いかにして、停戦にこぎつけ休戦させ、終戦させるかである。
おそらく、米国大統領は、政治を行っていない。
問題の奴らだけを抹殺するしかないのではないか?
そして、そのベストタイミングはいつなのか?
男は深い考えの海へと沈んでいく。
ハワイ島には連日、救援要請の無線が届いていた。
それは、先に上陸した中国兵たちである。
彼らは、ほぼ身一つで上陸したから、今は、弾薬と物資が苦しくなっているのである。
それに加えて、米国戦車師団が、サンフランシスコ近郊に現れ、攻撃を開始しているようだ。
まあ、もうすぐ上陸部隊第2陣が出発する。
大連合艦隊は補給と簡易な修理を終え、輸送船には、またしてもフロンティア部隊(中国人)が20万人乗せられている。
彼らの輸送の終了と港湾の確保ができないと戦車部隊を送ることができない。
そういうジレンマに陥っていた。
だからといって、困っていたわけではない。
フロンティア部隊は自分たちの国のために、戦えばよいのだ。
親衛隊所属の戦車師団が傷ついてはいけない。
彼らは、今オーストラリアにいる。
戦わせてみたい気も多少するが、おそらく圧勝するだろうとも思う。
しかし、オーストラリアの支配を不動のものにするために、彼らは、その地を離れてはならない。
だが、移動してきている部隊がないわけでもない。
それは、ヘリ部隊である。
UH60ブラックイーグル、AH1Sパイソンという謎名称のヘリ部隊である。
戦車部隊と聞いて、男はすぐに命令を出したのである。
そして、その部隊を率いるのは、あの伝説的超兵の辻大佐だった。
このころになると、ヘリの操縦まで、ANT師団の要員が行うようになっていた。
彼らの特徴はとにかく、血を見るのが大好きなことだった。
急遽、輸送船が改造され、ヘリ空母として編成される。
カタパルトなど不要なためすぐに完成した。
高野造船はもはや世界トップレベルの技術力を持っていた。
もちろん、米国の造船所が次々と廃業にしたことが順位を大きく引き上げたのだが。
米国の造船産業は、大打撃を受けていた。
まず造船所自体が攻撃により、破壊された。
そして、経験値の高いベテランの工員の多くが死亡した。
さらに、今も謎の症状により、弱って死んでいく。
工場の復旧のために工事しようとした人間もまた、謎の症状に襲われるという悪循環に陥っていた。米国政府は新型爆弾の特性について、住民に周知しなかったのである。
東海岸の主要な造船所が確実に灰になったのである。
しかも、簡単に復興することはできない。主に、放射線のために。
西海岸の主要造船所のサンフランシスコはすでに、かなり以前に灰にされた。
そして、今回のどさくさに紛れて、ピュージェットサウンド造船所も爆撃されていた。
そして、今、ハワイ島収容所の中国人達は、またサンフランシスコへと上陸するために向かう。その数9万人。
またしても、墳進弾(ロケット)を大量に積んだ輸送船も同航していた。
航空基地さえ、奪取すれば、C130が輸送を行えるところだが、彼らはそれに失敗していた。
それどころか、上陸した兵たちのほとんどが、敵の戦車の餌食となっていた。
「イエローモンキーども見たか!」
「ジャップ、くたばれ」
だが、彼らは、それがジャップでないことを知らない。
彼らには、それがジャップなのか、それともチャイニーズなのか区別がつかないからだ。
だが、今回は、港湾施設の占拠はできているため、物資も海洋投棄せずに済むはずだ。
兵士も、飛びこまなくても大丈夫のはずだった。
そして、今回は対戦車ロケット砲(RPG7風)も貸与されている。
ここで、粘ってもらう必要があるからである。
なんとしても、インディアンがワシントン州一体を制圧するための時間が必要だった。
彼らは、いわば陽動部隊、本筋は、このワシントン州を独立させるのが目的だった。
サンフランシスコには、死体の山ができていた。
それはイエローモンキーの山だった。
上陸部隊第2陣の援護の大連合艦隊と米国本土防衛隊の航空決戦はもはや、かつての面影がなくなっている。
米国の戦闘機隊が著しく損耗(機体もパイロットも)していたことによる。
連合艦隊の方は、新しい戦闘機をオアフで積載してきた。
パイロットの損耗は軽微だった。
上陸部隊が、港に到着して、荷下ろしするだけの時間を守る戦いだが、米国戦闘機隊は、それを阻止する力がなかった。
サンフランシスコ湾の上空に、日の丸の戦闘機(中には、独特のマークがついたものもある)が翻る。
そして、港湾に接近してきた、戦艦が艦砲射撃を行う。目標は、50Kmも彼方である。
前の晩には、ロケット砲の集中爆撃が行われていた。
湾まで前進した改造空母から、次々とヘリ部隊が離陸を開始する。
彼らの目標は、あらゆる標的の破壊である。
その破壊力は、オーストラリア人の間では、悪魔と恐れられるほどのものだったが、米国人の間では、初めての遭遇になった。
上陸部隊に攻撃するべく、米国の本土防衛隊がりゅう弾砲で攻撃したが、それは、りゅう弾砲部隊の場所を知らせることになる。
すべてのヘリが、その現場に向かうことになる。
当然、りゅう弾砲陣地の前には、歩兵やM4シャーマン戦車軍が存在していた。
「これ以上、黄色い猿をのさばらせるな、奴らのけつの穴に、砲弾をねじ込んでやれ!」
戦車軍団の軍団長パットン将軍が、兵士たちに檄を飛ばす。
「ぶち殺して、金〇を切り取ってやれ」
彼は、放送禁止用語の王である。
だが、そのパットンも初めて聞く音だった。
確かにエンジン音だが航空機とは違う感じがする、ヒュンヒュンといううなりも混じっている。
低空を高速で接近する、ブラックイーグルが、M2重機関銃の薬莢を飛び散らせながら、すぎ去っていく。
パイソンの30mmガトリングガンもブオオオオという凄い音を立てながら、通り過ぎていく。
辺りには、ぐちゃぐちゃになった、兵士らしきものが倒れている。
「反撃せよ!」
初めて、その恐ろしさ?を体感したパットンが命令を下す。
だが、後方のりゅう弾砲陣地では、まさに、血みどろの戦いの状況に陥っていた。
戦車の機銃では、無理だった。
パイソンのガトリングガンが、戦車の弱点の上方から、確実に弾を撃ち込んでくる。
機銃手が撃とうとすると、イーグルのドアガンナーが、やたらめったら機銃を撃ち返してくる。戦車が全く役に立たぬ間に撃破されていく。
「とにかく、空に向かって、撃て」
もともと、戦闘機の来襲に備えていたが、ヘリの奇襲により、意表を突かれたのであった。
ようやく、対空攻撃を開始すると、ヘリ部隊は急速に後退を始める。
彼らの目的は、上陸の援護である。
戦闘自体は、フロンティア部隊が行うべきことになっているのだ。
次の日もまた、港湾施設にフロンティア部隊が到着する。
夜の間は、米軍部隊の攻撃を受け続けるが、今回の部隊は、対戦車ロケットを持っている。
対戦車ロケットの名称は、RPG7風である。
もはや、謎名称も極まれりだ。
風とは何か。
もうすぐ、『~みたいな』とつけるに違いない。
それでも、このRPG7風の対戦車ロケットはM4シャーマン戦車を撃破することができた。
撃った人間がすぐにハチの巣にされたとしても。
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