第28話 とてもとても長い日

028 とてもとても長い日


血みどろの戦いだった。

上陸した兵士たち、その多くは、船から途中で飛び降りて、上陸していた。

空は、戦闘機が無数に飛び交い、銃撃戦を繰り広げる。

そして、兵士たちは、米国の戦闘機から無差別に銃撃され、血と肉の塊になって飛び散るのだ。


帝国海軍の戦闘機隊には、やはり、一日の長があり、数では圧倒していた敵を減少させていることは確実だった。

無事に上陸した部隊は、重機関銃を据えて、空に向けて撃ち始めていた。


特に、ジェット戦闘機震電改の赤い塗装の戦闘機隊は、猛烈な勢いで米軍機を撃ち落としている。

あっという間に後ろに横滑りして入った瞬間には、機関砲が火を吐いていた。


辺り一面に敵味方の撃墜された航空機の残骸の山ができていた。


そして、敵の艦船からの対空砲火は濃密過ぎた。

誰もが、その攻撃を断念せざるを得ないほどだった。


数十隻の輸送船が沈んだが、100隻以上の輸送船から、兵士たちが、わらわらと降りて、陣地を構築していた。その数6万。


敵の戦闘機隊が再び帰ってきた。

此方の方が、補給路が短い分有利だったが、被撃墜は圧倒的にこちらが上だった。

昼も、夕方も、空中戦は続けられた。

さしもの米国といえども、無限に航空機を作っているわけではない。

それに、パイロットの問題があった。

足らなかったのだ、英国の防衛のため、陸軍のパイロットの多くが出払い、そして、ある事態で、東部のパイロットの多くが失われた。

それを補充するために、西部の部隊を東部に入れていた。


そして今残っているものは、東部に送るために、西部で訓練をしている新兵が多い。

敵の第三波で、被撃墜が急速に増え始める。

今まで、残っていたベテランが耐えていたものが、崩壊した。


機種の力も問題だった。サンダーボルトはまだよかったが、我々の知る世界軸では、不滅の名機(レシプロエンジンで)とよばれた、ムスタングがそれほど活躍できていなかったのだ。

なぜなら、ムスタングには、マーリンエンジンが搭載されていなかったからだ。

英国はドイツに侵攻され、ぎりぎりのところを日米休戦で助かったために、エンジン開発能力などに余裕が全くなかったのである。


そして、それに加えて、真っ赤なジェット戦闘機隊、まさに悪魔のような攻撃能力だった。

ほとんどすべての爆撃機を撃墜し、今度は本土防衛隊に襲いかかったのである。

彼らは様々な戦技を持っていたが、この程度の相手には、必要なかった。

まさに、虐殺に近い状態だった。

弾切れで、空母に帰っている時間だけが、通常の空戦で、彼らが帰ってくれば、虐殺の時間が始まるのだ。


ようやく、夜になり、空戦はひとまず終了した。

米国臨時航空基地では、皆が青ざめて、話し合っていた。

壮絶な数のパイロットたちが未帰還だった。

「これでは、明日は耐えることができない」

「パラシュートで脱出した者たちが帰ってくる」

確かに、かなりのパイロットは脱出していたが、戦闘地域内で、救出に行くことは不可能だった。


そんなときであった。

ゴッゴゴッゴオオオオ!

突然の轟音が轟き、目の前に巨大な火柱が立ち昇る。

それは、旧約聖書にでてくる、ソドムを襲ったという、災厄にしか思えなかった。

衝撃波と突風が、その基地に遣ってくる。

「ダメダ!もうみんな殺される」

「神よ!助け給え」ほとんどの兵士はその恐怖に半狂乱状態に陥っていく。


・・・・・・


夜闇に、地獄の炎の柱が立ち昇った。

陸軍の歩兵部隊は、港湾の50Km圏に近づけないでいたが、今まさにその一部部隊がその炎に飲み込まれたりしていた。


V2の核ロケットは脅威だが、サーモバリック砲弾も、遮蔽物がない場所では、歩兵にとっては脅威だった。

艦砲が確実にその場所を痛撃してくるからだ。


ようやく朝が明けるころ。

戦闘機隊が上空に待っていた。

そして、上陸部隊の第2陣の船が沖に見えてきていた。

戦闘機隊の一部の兵士は、心を折られ、あるものは、搭乗拒否、あるものは夜のうちに脱走していた。


上陸部隊の輸送船はやはり150隻だ。

その数9万人、これも漢人を中心とする、フロンティア部隊であった。

これで船が終わりになるので、次の部隊がくるまでは、相当な時間がかかることになる。


因みに漢人の部隊はまだまだいる。

船の都合がつかないため、ハワイ島で待機している状態だった。


その日も航空撃滅戦が続く。

さすがの帝国軍も、修理の追いつかない状態となる。

予備機も投入して、空戦を続ける。


件の赤い戦闘機隊は、今日も真っ先に切り込み、ロケット弾をさく裂させていた。

しかし昼過ぎになると、明らかに、均衡が崩れた。

帝国海軍が圧倒し始める。


海鵬が空を、ゆっくりと舞いはじめる。

敵機は目に見えて、減り始めた。


海鵬が低空を飛び、逃げているパイロットたちを機銃掃射して回り始める。


続々と港に漢人のフロンティア部隊が上陸している。

物資もどんどんとクレーンで降ろされている。

彼らは、数日、補給なしで戦う必要がある。

物資は銃器と弾、食料である。

戦車などの戦闘車両はない。

彼らは、サンフランシスコの街にはいり、ゲリラ戦を展開することになる。



兵士たちが続々と港に降ろされていく。

第2陣は、かなり楽に上陸できるようになっていた。


第2陣の上陸を素早く済ませ、物資の上陸も無理やり終わらせて、輸送船と大連合艦隊はかえって行く。(物資を海に投棄することで早く終わらせる)


一時的に補給と修理をし、第3陣、第4陣の輸送の仕事が待っているからである。

上陸部隊は、航空援護抜きで戦う必要がある。

航空基地を作ることができれば、部隊の派遣もありうるが、今は無理だった。

それでも、自らの国を生み出すための苦痛には耐えねばならない。

を駆逐せねば自らの生存圏を作り出すことはできないのだ。


約15万人のフロンティア部隊がサンフランシスコにとりついたのである。


米軍は混乱していた。

そもそも、東海岸の核攻撃が甚大な損失を発生させ、戦艦、空母の建造が無に帰した。

そして、その次は、米国西部とカナダ国境付近に、インディアンのゲリラが、盤踞ばんきょし始める。

この戦いで、唯一といえる造船基地も使えなくなる。

そして、ダッチハーバーから爆撃機が支援爆撃に遣ってくる状況だった。


その混乱状況の中で、この上陸作戦だった。

動員できる全戦力をもってしても、この作戦を阻止することができなかった。

艦隊さえあれば、輸送船部隊を片付けることができたかもしれないが、先の戦いで艦隊はサンデエゴにおいてほぼ壊滅に追い込まれた。


また、その混乱の中、小型核爆弾の登場だった。

某提督は、アメリカが備蓄していた核兵器が誘爆したような発言をしていたが、そんな便利なものがあれば、こちらが帝国海軍の真ん中に落としてやるところだ。


だが、どのようにしてそれを実現させたのか?

核砲弾の原理はそれほど難しいものではない。ただ不安定で危険なため、扱いづらいだけである。いわゆるガンバレル型弾頭をロケットに搭載していたのである。


だが、救国軍事会議側は、米国の核爆弾が誘爆した模様と伝えていた。


ついに、敵の上陸部隊を許してしまう。

東海岸の戦力を西海岸に派遣せねばならない。

米国の影の首脳部(トルーマンは軟禁状態で、自室に閉じこもっていた。)は焦っていた。

まさかこんな事態に陥るとは夢にも思っていなかった。これでは、自分たちこそ犯罪者にされる。被害があまりにも大きすぎる。

東海岸では、兵市民を合わせて、45万人以上が死亡あるいは不明。

不明というのは、まさに、不明で死体すら残らない者が多数いたのである。

そもそも、どれだけ住んでいたかもわからない部分もある。

西海岸では、核攻撃の被害は限定的だが、部隊の真上に落ちた物もあり、5万人以上が死亡あるいは不明。さらに戦闘中のため、はっきりしたことはわからない状況が続いていた。


核による死亡者を正確に知る人間が一人だけいることは知られていないのだった。


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