第27話 とても長い日
027 とても長い日
1946年(昭和21年)6月。
日本中の船が集められていた、米国による無制限作戦を完封した帝国海軍のお陰で、貨物船は健在だ。
多くは、岩倉商事の船である。
これらの船は、来るべきDdayに向けて、兵士を載せている。
船内は満員だ。
船員以外は、日本人ではない。
第一陣には、自国が消滅した地域の国民がフロンティアを求めて乗り込んでいた。
目指すは新大陸。
そう彼らは、自らの国をそこで建国するしかないのである。
輸送費と武器弾薬は出世払いで貸付けられている。
勿論、貸す方も帰ってくるとは考えていない。
借りる方も、得意の理論でごねて返さない方法をとるだろう。
そんなことは、百も承知だ。
男は、彼らがどんな人間であるかを知っている。
現代の知識のある男は、たびたび日本が難癖をつけられてせびられていることを記憶している。
その瞬間も、殺した人間の数が、メーターが恐ろしい速度で増えている。
あれも、これも皆、お前の所為だ、だから、金を出せ。
戦争に負けた負い目のある日本は、仕方なく膨大な金を払い、援助し、貸付けて、また文句をいわれる。
そんなことがないように、周到に準備してきたのだ。
ハワイ島の収容所には、亡国の人々が相当数いた。
当初のアジア諸国の血の気の多い人間が入れないくらいに。そう、当初はそのような計画だったが、やってくる人間の相当部分が亡国の人間だった。勝ち戦にのって、ひどいことをするのは、彼らの得意技なのだ。ただし、今回は勝ちいくさではないことを彼等が知っているかは不明だった。
日本の輸送船が、それらを載せて一路サンフランシスコを目指す。
「荷物のことは、気にするな。船が沈むような時は、お前たちだけは真っ先に逃げろ」
船員達は、そういわれていた。
太平洋には、すでに米国潜水艦隊は存在しない。
結局、魚雷不発問題も解決していないのだが、撃たなければどうということはない。
上陸の際の、接岸までが勝負になるが、もし攻撃を受けたなら、船から飛び降りろと兵士達は通達されている。
そういう契約である。逆らうようなら直ぐに処刑する。
勿論、航空支援は、大連合艦隊が行う。
敵地で暴れてもらう必要があるからだ。
サンフランシスコの50Km圏には、敵部隊は存在しない。
砲撃と空爆ですべて破壊されている。
200隻以上の船が、10万人近い兵士を積載して進む。
その中には、兵士を載せていない船も存在する。
コロリョフのロケット、V2と仮称するものを搭載している。
1隻50発。
サンディエゴで敵の核兵器を破壊したロケットを積んでいた船達であった。
そもそも、V2ならV1があるはずなのだが、そんなものはない。
ある男が勝手に謎の名称をつけて回っているのである。
「なぜVなのでしょうか?」
勇気のある若い尉官がきいた。
「もちろん、これは勝利のV、つまりビクトリーからきているのだよ」
間違っていた。
「なるほど、さすが閣下です」尉官は親衛隊の隊員だった。
親衛隊員の頭の中では、前期太平洋戦争で一回目の勝利、そして今回の後期大戦で2回目の勝利をえることを表しているのだと、間違った解釈が成立していた。
勿論、この男がそんなことを気にするはずもない。
彼は、今も増え続ける数字と戦っていたのである。
6月5日深夜、
因みに、本当のV2は液体燃料式だが、この偽物は固体燃料式である。
先の戦いよりも、進化し、航続距離が伸びていた。
100Km沖合から、内陸200Kmまで飛翔する。
飛距離は300Kmであった。
そして、そこに、敵がいるのかは不明だが、辺り一面を火の海に変える。
50隻から50発、計2500発のV2が発射されると、またもあの爆発が発生する。
「やはり、敵は、まだ核を持っていたのか!」戦艦の艦橋で不気味な火柱を見る男がつぶやいた。「やるな、ルーズベルト!」
だが、すでに死亡していた、現在の大統領はトルーマンだ。
男は少し混乱しているのだ。
6月6日、ついに上陸部隊をのせた大船団が姿を現す。
米軍もありったけの防衛力を動員していた。
勿論、この上陸作戦をキャッチしていたが、太平洋上では、反撃の手段がなかった。
そして残念なことに、昨夜のロケットのおかしな破壊力がかなりの兵士と兵器を蒸発させてもいた。まさに出鼻をくじかれるとはこのことだった。
米国の陸軍戦闘機隊が
そして、大連合艦隊の戦闘機隊、今回はすべての搭載機が戦闘機で、ありったけ載せている。
露天係止でも発艦できる限界まで搭載してきた。
すでに、帰るときは、かなり撃墜されているはずなので、着艦可能というかなり無茶な計算で成り立っている。今までの人命優先の思想が薄れている。
これは死戦なのだ。
すでに、夜明けとともに大空中戦が開始される。
米国戦闘機は約5000、大連合艦の戦闘機は約2000である。
紫電改が、最初にロケット砲を敵めがけて発射して戦闘は開始される。
米国は戦闘機以外にも、輸送船を攻撃するために、爆撃機や攻撃機を総動員して攻撃に充てている。その数は、やはり約5000である。
サンフランシスコ上空には、すでに無数のロケットの航跡が描かれ、前が見えないほどだった。すべての帝国軍戦闘機がロケット砲を搭載していたからである。
12000発のロケットが敵に襲い掛かる。別に狙う必要などない。
前方は無数の敵だ。
UO信管のついたロケットが乱舞し、爆発する。
壮絶な、破壊が次々と飛行機の残骸を辺り一面にまき散らす。
ロケットをぶっぱなし、身軽になった紫電改隊が、マスタングやサンダーボルト隊と空戦の火ぶたを切る。
高高度を飛ぶ爆撃機には、真っ赤な機体のアグレッサー飛行隊、特901航空戦闘団が襲い掛かる。悪夢のような光景だった。
特901戦闘団は、すべての敵に容赦なく死を振りまいていた。瞬く間に残弾ゼロになり、空母に帰還を始める。
そして、開戦からのベテランが数多く残る、紫電改部隊、彼らもまた次々と、敵を
米国にいるベテランパイロットたちは、皆イングランドでドイツ軍と戦っている。
こちらにいる者たちは、新米が非常に多かった。
空の要塞と呼ばれる海鵬がやってくると、米戦闘機は足の遅い、海鵬を狙おうとするが、逆にその防御力により、返り討ちに合う機が続出する。
それでも、航空戦をうまくかわして、敵輸送船に攻撃をかけようとする機に、帝国大連合艦隊の対空防御が待ったをかける。
壮絶な、対空機銃の雨が降ってくる。上がってくるという表現の方が適切だ。
そして、大連合艦隊の中でも、第21、22艦隊の艦船には、ガトリング砲のドラム缶、今でいうCIWSが搭載されている。
ブオオオオーという奇妙な音とともに、次々と攻撃機を切り裂いていく。
それでも、相当数の航空機が輸送船団に爆撃を行う。
十数隻がたちまちに火に包まれる。
しかし、機銃掃射を行う前に、たたきとされる。
猛烈な弾幕が周囲の飛行を許さないのだ。
輸送船は
あっという間に沈み始める。
船員たちは、我先にボートを下ろし逃げる。
仕方がないのである、彼らはそのように命令されていたのである。
本来船員は、載せている人間を逃がしてからしか逃げてはいけない。
船倉の兵員は、自分で海に飛び込むしかない。
まさにその光景は地獄のような惨状である。
どんなに頑張ったところで、弾がなくなれば、帰らねばならない。
お互いに撃ち尽くすと、基地に帰ることになる。
今回ばかりは、連合艦隊の空母はかなり近くに来ていた。
「何隻沈もうと、やるかやられるかだ!」
議長は厳命した。
だが、その肝心の空母を発見したとして、それを攻撃している余裕は米国軍にはなかった。
輸送船を一隻でも多く沈める必要があるからである。
空母には、次々と弾切れの戦闘機が着艦する。
アレスティングワイヤーにうまくひっかっけると急速に減速して止まる。
赤いベストの隊員たちが、車両で直ちに、弾薬を運んでいく。
この際、どこの空母の所属かは問題外であった。
とにかく、作業できる空母へと着艦するように指示が出ている。
弾と燃料を補給されて戦闘機がカタパルトで打ち出される。
しかし、そのころには、大量の戦闘機が空母の周囲を飛んで待っていた。
その点、補給は米国の方が有利だった。
そして、距離の点でも。
何とか接岸した輸送船から兵員があふれ出す。
接岸する場所がない船からは、兵が海に飛び降りる。
今や、空は、海鵬が守っていた。
海鵬には、大量の弾薬が搭載されていたのである。
しかも、長距離を飛ぶことができるので、いつまでも上空にいることができた。
今回、海鵬には特に防弾板が追加で装着されていた。
そんな海鵬200機が空を旋回していた。
それから、1時間後には、米陸軍の戦闘機が次々と補給を終えて、戻ってくる。
海鵬のすべての機銃座から、むやみに弾が撃ちまくられる。
敵は、それにつられて海鵬を襲う。
地上の兵たちは、遅々として上陸がはかどらない。
次々と、機銃掃射を受けて肉片となって飛び散っていく。
さすがに、戦闘機は爆弾を積んでおらず、機銃による攻撃しかできない。
湾には、大連合艦隊の駆逐艦が侵入し、対空砲を撃ちまくる。
戦艦級もすでに海岸近くまで突入し、上陸を手助けする。
サーモバリック砲弾をやたらに、彼方に撃ち込んでいく。
火の玉が発生し、酸素を燃焼しつくす。
文字通り熱い戦いが各所で花開いているのであった。
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