第25話 地獄の豪州戦線
025 地獄の豪州戦線
窮地に立たされていた米国だったが、もっと窮地に追い込まれていた国があった。
それは、新太平洋艦隊で、日本を撃滅してから、助けられるはずだった、オーストラリアだった。
そもそも、すぐに助けに来てほしかったのだが、そんなことは不可能だった。
まずは、ハワイを奪還することから始まる、その後オーストラリア支援なのである。
ハワイ奪還には、米兵50万人が戦死する必要があったのだが、それはかなわなかった。
とすると、オーストラリアの救援はいつ来るのか!
そう、くることはないに違いなかった。
帝国の機甲師団は圧倒的な攻撃力で進撃を続けていた。
そして、その前後にやってくる、ヘリ部隊はもっとどうしようもなかった。
対抗兵器が重機関銃かバズーカ砲しかなかったのだ。
重機関銃で撃てば、そこに数倍する銃撃がガトリング砲で浴びせられる。
バズーカ砲は発射したら最後発見されて、死ぬまで追い回される。
そして、市街地はともかく、野戦では、敵の狙撃兵は非常に狡猾で腕がよかった。
もともとが狩人な彼らは、的確に味方を天国へと送り込む。
ANT師団の兵士は戦士で狩人だ。
相手を殺すことによって、自分がより強くなると信じているのだ。
ゆえに、殺すことに躊躇は一切ない。
そして、ヘリ部隊司令官は、日本人であるが、倫理をどこかに置き忘れてきた人間だった。
占領された街では一人残らず殺す。そして証拠を残さず殺す。すべて殺す。そういう丁寧さが日本人らしさなのかもしれない。
オーストラリア政府には、救国軍事会議から無条件降伏勧告されているが、オーストラリア側はまだ反抗している。
「喜べ諸君!ついに我らの願いが高野中将閣下に通じたのである。ついに最終兵器とも呼べる兵器が完成した。」航空基地にはC130が駐機していた。
そのC130には、ところどころから、大砲が突き出していた。
異形の輸送機である。
「この新兵器があらゆる障害物と害虫どもを打ち砕くであろう!」
「皆、この素晴らしい贈り物をくださった、高野閣下に忠義を示すのだ!」
辻大佐は、血管を浮き上がらせ、唾を飛ばしながら演説している。
ただし、聞いている兵士たちは、何を言っているか理解できなかった。
ANT師団の兵員は外国人なのだ。
ただし、喜びはしていたのである。敵の死んだ魂が自分を強くするからである。
C130が強武装を施され、ガンシップと呼ばれるものになっていた。
そもそもの使い方とは程遠いものである。
当初、辻は、核兵器の使用を具申していたが、高野の部下は、豪州では使うことはできないと断られていたのである。
メルボルン、ついに日本軍?はここの目の前まで来ていた。
すでに、航空戦力のないオーストラリアでは、空戦で対抗することはできない。
地上戦でも、戦車に敵すべき兵器は、やはりバツーカ砲だが、その弾も支援がこなくなっていた。
こうなれば、市街戦でモロトフカクテルを使用した攻撃しかない。
残念なことに、日本軍戦車はディーゼルエンジンなので、火に強かった。
だが、それすら拒むのがあの男のやり方だった。
グランドスラム爆弾を積んだC130が上空にやってきて、後部ハッチからそれを送り出す。
パラシュート降下する爆弾。かつて強盗殺人犯に盗まれた爆弾だったが今回は無事にオーストラリアにまでやってくることができたのである。
爆発と衝撃波は原子爆弾の次に破壊力がある。
美しい建物が無残な廃墟に変わっていく。
市街戦のために入っていったパルチザン兵士ごと瓦礫にしていた。
そのあとは、りゅう弾砲による面制圧攻撃と空爆。
そして、そのあとに機甲師団と歩兵が街(すでにほぼ瓦礫)に侵入する。
大鵬が空爆を担う。戦闘ヘリと輸送ヘリがどちらも銃弾を空から盛大にばらまく。
大鵬は、ロシア戦線からオーストラリア戦線に移動してきた。
ロシア公国がクーデターを起こしたからだ。
火炎放射器の奇妙な音が街のあちこちで聞こえてくる。
彼らは、容赦しない。
隙間があれば、手りゅう弾を投げ込み、穴があれば、火炎放射器で中を消毒していくのだ。
激しく酸素を消費する火炎放射器は、内部の人間を焼き殺し、それが不可能でも窒息死させるのだ。
そして、メルボルンが完全に陥落した時、オーストラリア政府は無条件降伏した。
次の攻撃目標はパース。(西海岸の主要都市はすべて壊滅した)ここを失えばどうやっても回復できそうになかったからである。
彼らは、武装解除され収容所へと移送される。
「なりませんぞ、閣下、奴らを一人残らず根絶やしにするのです」
丸眼鏡の陸軍将校は、そんなことを口走っていたが、その男はそんなことは聞いていない。
「大佐、彼らは、ニュージーランドへ放逐します。一人残らず」男がいった言葉は、こちらもずいぶんひどい内容だったが、皆殺しよりはまし程度の差しかなかった。
こうして、とても労力のかかる移民政策が始まる。費用は相手もちである。
ニュージーランドは、オーストラリア人すべてを受け入れる必要に迫られた。
「もちろん、居住をしても、かまわないのだが、安全は保障しかねる。アボリジニの友人たちは、狩りで君らを獲物として撃ったとしても、許してやってくれ。君らもそうしたのだから、お互い様なのだ。私は、逆らったら容赦しないといったことは、正式に記録されているはずだな?」横の副官に聞く男。
「はい、その通りでございます」
こうして、オーストラリア人800万人の移民が始まる。
戦争開始当初からかなり人口が減少していた。詳しい理由はわからなかった。
内陸部に逃げ込んで徹底抗戦するような人間多数がいるのかもしれない。
「反旗を翻す場合は、今度はニュージーランドにも住めないように、抹殺するつもりなので、今度こそ、賢い選択をお願いする」
「因みに、ニュージーランド用に例のプレゼントも用意しているので、命がけで反撃するように、以上だ」
オーストラリア首相と話し合う気はこの男にはなかったようだ。
「暴れるとまずいから、辻大佐を米国本土上陸作戦に参加させるように」
それだけ言うと、男は真珠湾基地へと戻っていった。
まだ、米国との停戦協議はじまっていなかった。
東海岸にある有力な造船所が核の炎に包まれ、施設は破壊され、技術のある人間たちもほぼ死亡し、なおかつ、太平艦隊のほぼすべてが駆逐され、あまつさえ、唯一無事だったピュージェットサウンド造船所も爆撃を受けた。
この時サンフランシスコ基地および海軍造船所はすでに壊滅していた。
ハワイ島基地から、今日も富嶽が飛び立っていく。
そして、カムチャッカ半島からは、Tu95が航空機工場を狙って爆撃を継続していた。
Tu95は特殊なエンジン(2重反転プロペラ)のため、すぐに大量生産はできなかった。
現在は、5機が稼働しているだけだ。
西海岸を大連合艦隊の艦艇が艦砲射撃を行うが、陸地の奥地までは届かない。
空母艦載機も、米国本土内に入れば、さすがに陸軍航空機の餌食になった。
そんな中、アジア各国から兵隊達が、ビッグアイランドに集結しつつあった。
大日本帝国陸軍には、満州と豪州の維持管理があるため、とても米本土上陸は無理だった。
そこで、アジア各国に、植民地を希望する国には、米国を切り取り放題である旨伝えたのである。
アジア諸国には、西欧列強の姿はすでになく、各国は独立を勝ち取っていた。
さらには、中国の切り取りもほぼ終了していた。
それに参加できなかった国々がそれに乗ってきた。
というか、今までの奴隷の如き扱いの返礼をせねばと立ち上がったというわけである。
輸送や武器の手配は、日本が行うことになっている。
そして、その代金は米国からの収益でも、自国にある資源でも構わなかった。
「D作戦」と呼ばれる米国上陸作戦が、ほぼあまり考えもなく始まろうとしていた。
なぜあまり考えていないのか?それは、結果はどうでもよかったからだ。
輸送はするが、その後は各自、自由に戦闘を繰り広げることになる。
補給は日本に注文すれば、できるだけ要望に沿うよう努力するとなっていた。
それでも、アジア各国の人間たちは、米国人に一太刀浴びせんと洋々と参加しようとしていたのである。
「D作戦」のDは奴隷狩りのDである。
そして、その決行日X日の事をDdayと呼ぶことになる。
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