第23話 E作戦
023 E作戦
SX伊号潜水艦400型20隻は、ひそかに暗闇の海上に浮上する。
彼らは、陽動作戦である『わ号作戦』の実施をひたすら待っていたのだ。
わ号作戦が開始されれば、敵の目は西海岸に向かわざるを得ないからだ。
この大西洋側では、ドイツ軍の潜水艦が暴れているが、米本土への攻撃は皆無だった。
そこに、油断がなかったとは言えないだろう。
ドイツも大型爆撃機を開発すれば、また、見方も変わるであろうが。
その大型爆撃機の図面を流出させた男がいたことをまだ米国はしらないのだが・・・。
しかも、それは、米国が開発したB29にそっくりだった、としたらどう思うだろうか。
米国東海岸は日本からは遠く離れた、まさに武器製造の拠点である。
特に、日本が手を焼く空母群を産み続ける、産卵地だったのだ。
すでに何隻の空母が撃沈されたのか、しかし、倒れてもすぐに新しい空母が立ち上がるのであった。
そして、それを止めるための作戦がE作戦である。
東海岸攻撃のEなのであろうか?
少なくとも、潜水艦の艦長レベルでは、そういう認識だった。
作戦指令書には、米国東海岸の造船所を爆撃せよと書かれていた。
SX伊号400型は、潜水空母ともいえるものであり、三機の航空機を抱えている。
つまり、20隻で60機の爆撃機を擁しているのである。
そして、一機当たり、800Kg爆弾を搭載して発進するのである。
浮上とともに、晴嵐攻撃機の発進準備が始まる、時間との闘いである。
さすがに、米国の偵察機が来ないとも限らない。発進中は、まさにどうしようもなく無抵抗な船だったのだ。
「急げ、しかし、確実にこなせ!」
副長の指示が夜の大西洋に消えていく。
火薬を使ったカタパルトで一気に空へと打ち出すのだ。
だが、三機もうち上げるとなるとこれまた大変なことだった。
冷や汗と、ストップウォッチの時間だけが流れていく。
たった10分程度の時間が永遠に続くかに思える。
皆の動きがやけにゆっくりに見える。
ようやく三機目が発進する。
「ハッチ閉めろ、潜航準備急げ!」
彼らは一度発進すれば、もはや帰れない。
勿論、邂逅地点は決まっているが、そこには、敵戦闘機もついてくるだろう。
そうすれば、潜水艦では、救出できない。
見捨てるしかないのである。
晴嵐自体も捨てることになるが、そこは、金のある帝国なので、大丈夫だった。
捨てるため、フロートはついていない。
晴嵐がすべての戦闘機を撃墜すれば、救出は可能かもしれない。
爆弾さえ投下すれば、戦闘機としてもある程度は戦える性能はあった。
しかし、パイロットたちは、全員遺書を書いて、艦長に渡している。
飛行隊長も、最後の挨拶を艦長にしていた。
全員がすでに、死を覚悟していたのである。
「必ず、邂逅点まで逃げ延びろ」
「艦長、努力はしますが、お約束はできません」
「すまん」
飛行隊長は返事をせず、敬礼で返した。
潜水艦隊が何とか、潜航し始めたとき、晴嵐隊は低空飛行で、ニューヨークを目指していた。
当初の指令書では、攻撃目標は、ニューヨークにある造船所ということだったのだが、通信により攻撃目標が変更される。
『ニューヨークの街を攻撃せよ!』
今までの戦いでは、できるだけ軍事施設だけをターゲットにしてきたはずなのだが、救国軍事会議の命令は、帝国の兵には、受け入れがたいものだった。
だが、彼らは、そのほとんどが親衛隊の所属である。
SX潜水艦には親衛隊が多くいたのである、そして、特殊攻撃機の搭乗員も当然その傾向が強いのであった。
それでも、なぜ今になって、都市自体を攻撃するような命令に変更されたのか?
理由はわからないが、今となってはどうしようもないことだった。彼らは軍人、命令に従うだけである。
ニューヨークの街は灯火管制が行われておらず、輝いていた。
一部の部隊は、ワシントンDCへの爆撃に向かう。彼らは天測航法で進む。
そして、東海岸の都市では、サンディエゴで大決戦が行われている情報が流れており、そちらに注意が言っていたのである。
ブルックリン海軍工廠、ニューヨーク市ブルックリン地区にある巨大造船所である。
彼らの当初の爆撃目標を飛び越し、マンハッタンへと向かう晴嵐、勿論こんな時間、こんな場所に敵がいるわけがないはずだった。
だが、急激に上昇を開始した攻撃機は、まさに敵だった。
50機が都市に、800Kg爆弾を投下した。800Kg爆弾の爆発は凄まじい。
爆弾が近くに落ちても生きていられるのは、塹壕に入っているからである。
立っていたりすると、ほぼ即死する。
40tの爆弾がニューヨークではじけたのである。
阿鼻叫喚の地獄がそこに花開く。
高層階の人間は直撃こそなかったが、火災が足元で広がっていく。
いくつかのビルが破壊されて、倒壊し、周囲の建物を道ずれにする。
そして、基地からは、戦闘機が舞い上がる。
炎に照らされた夜空で、空戦が行われる。
「無理はするな、邂逅地点へと向かう。低空で敵を
そうは、言いながらも、うねりながら飛び、敵の後ろに回り込み、撃墜する猛者たち。
その後、数多くの晴嵐は海上へと脱出した。
そして、ホワイトハウス。
こちらには、さすがに、対空砲がひらめき、迎撃戦闘機が昇ってくる。
そもそも、DCを飛べる飛行機は限られている。味方でも撃墜されるであろう。
それでも、晴嵐の攻撃隊長は、それらを交わしながら、飛び続ける。
サーチライトを頼りに、敵がやってくる。
12.7mm機銃が翼に穴をあける。
さすがに800Kg爆弾は重い。
さらに、火箭が交錯する。
「ぐっつ!」弾が腹をえぐる。
「全機、各目標爆撃後速やかに撤退せよ」
隊長は死を悟った。自分の傷では、飛び続けることはできない。
「高田、大丈夫か」後席の部下に声をかけるが、その高田こそ、先の銃撃で死んでいた。
高田を撃ち殺した弾丸がその後隊長に当たったのだ。
隊長機は、大きく機首を持ち上げる。
ハイGターン、大きなループを全力で描く。敵の戦闘機はついていくことができない。
これぞまさにDEエンジンの力であった。
「逝くぞ!高田!」
下を向いた機首には、ホワイトハウスが見えていた。
「おおおおお~」晴嵐はまだ、捻りを加えて回りながら降下していく。
これでは、後続についたところで、撃ち落とすことができない。凄まじい技量と根性を見せつける隊長機。
晴嵐がホワイトハウスに激突し、大爆発が起こる。
ホワイトハウス本館のすべてのガラス窓が飛び散り、炎が引き出す。
そして、ほかの晴嵐は、思い思いの標的に体当たり攻撃をかける。
ホワイトハウス攻撃隊は、絶対に、味方潜水艦の場所を教えることになる。
だから、彼らは、生きて帰るつもりはなかったのだ。
あるものは連邦議事堂に、あるものは裁判所に、あるものは記念塔に体当たりを敢行した。
様々に散華していく晴嵐隊。
そして、あるものは、すべての機銃を撃ち尽くすまで、戦闘をつづけたものもいた。
首都ワシントンは大混乱だった。
勿論、トルーマンはそこにはいなかった。
それ以外の人間も地下防空壕に避難していたので無事だった。
しかし、一時的ながらも精神的に、この状態は絶大なショックをすべての米国民に与えた。
米国本土は、絶対に攻略できない聖域のはずだった。その聖域が今破壊されているのだ。
こんなことが許されてよいのか!
一般市民を攻撃するとは、人道に
多くの市民はそう考えたであろう。
だが、自分の立場でしか物事を考えていないのではないだろうか?
戦争とは、いかに敵を多く殺すかを競うものなのだ。
市民といえども、敵に違いないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます