第21話 サンディエゴの激闘2
021 サンディエゴの激闘2
次々と魚雷を投弾する、スカイレーダー。しかし、彼我の距離5KMであった。
もともと、日本軍の魚雷はロングランスと呼ばれ長距離を走破する。
しかし、魚雷は、約50Kn(約時速92Km)で航走するため、近い方が当たりやすくなる、ゆえに攻撃機はできるだけ近づくのがふつうである。
だが、この状態はその根本思想を覆す攻撃だった。
5Kmもかなたで攻撃をしても、艦はよける時間が稼げるはずだった。
しかし、この魚雷は超高速で接近してくる。
海中に、白い航跡をはっきりと残しながら。
次々と直撃の水柱が辺りで立ち昇る。
UO信管がついているため、近くに艦がいると直撃しなくても、爆発が起こる。
もともと、帝国の艦載機の攻撃では、駆逐艦撃沈がもっとも評価される。
それに、空母を狙いに行けば、必ず、その対空砲に撃墜される可能性が高まるため、徹底して、外周部から攻撃するように訓練されていた。
今や、周囲は、大破した駆逐艦と巡洋艦が炎と黒煙をまき散らしながら、必死に回避行動をとっている。
だが、攻撃機の数が異常に多いため、それは至難を極めた。
一方、魚雷を投弾したスカイレーダーは身軽になると、今度は、戦闘機との戦闘へと向かう。
重馬力の攻撃機なので、武装は戦闘機と変わらないし空中戦でも力を発揮できたのである。
空戦の状態は、一気に帝国に傾きつつあった。
昼頃には、ついに、米国の海軍戦闘機がそこをつく。
そのころには、帝国海軍の攻撃機は、また魚雷を積んで、迫ってきていた。
そして、その事態を確認したかのように、海鵬が押しよせてくる。
サンディエゴ沖700Kmの地点で、決戦は続いている。
さすがに、米国陸軍の戦闘機は、それ以上前には進まない。
前回の教訓で、それ以上前に出ると、燃料切れで、海上に墜落することを知っているためである。
そして、海軍もそれ以上沖には出ない。
海鵬も次々と高速魚雷を投下する。
すでに、空母輪形陣は維持することができないほど、艦がやられていた。
陸軍戦闘機が海鵬に襲い掛かるが、海鵬は果敢に反撃してくる。
12.7mm機銃が海鵬に当たるが、海鵬は何事もなかったように飛び続ける。
非常にタフに作られていたのである。
海鵬の機銃が次々と発砲する。
陸軍戦闘機はとどめを刺すことができず、引き離されていく。
エセックス級空母『エンタープライズⅡ』に座上するシャーマン中将には、にわかに信じ難い事態であった。
攻撃に向かった部隊のほとんどが未帰還である。
戦闘機隊は途中、日本軍の戦闘機隊と交戦している隙に、攻撃隊が敵艦隊攻撃を敢行したのである。ただし、空母がいなかった。
彼らは、空母を後方に逃し、戦艦を中心に輪形陣で向かってきたのだ。
当然、大型艦を目標に攻撃を開始する攻撃隊だったが、圧倒的な対空砲火の前に、どうしようもなかったようなのだ。
こうして、ほぼ全滅し、今に至る。
「馬鹿な!そんなことがあってたまるか!」
だが、何とか帰還した攻撃機のパイロット(何とか、遠くから魚雷を投下して、逃げ切ってきた)が証言した。
敵艦隊の対空砲火は雨のように
また、B29爆撃機による公算爆撃も失敗に終わっていた。
爆撃態勢に入る前に、その多くが撃墜されていた。
「これでは、なんともならん、サンディエゴ方面に撤退するぞ」
参謀に命令する。
陸軍航空隊の援護なくしては戦えないからだ。
ドド~~ンまた爆発の衝撃波が響いた。
エンタープライズⅡを守る巡洋艦に魚雷がさく裂したのである。
すでに、周囲の駆逐艦らは、かなり切り崩されていた。
彼らも、数発はかわすことができた魚雷もある。
しかし、自分が避けると、空母に命中するような魚雷は、避けることが難しかったのだ。
「敵の第2波攻撃隊らしきものをキャッチしました」
「全速で回頭せよ、サンディエゴへ後退だ」
だが、その判断は少し遅かった。
駆逐艦は、潜水艦の天敵だが、その天敵がいなくなるのを待っているものも当然いる。
すでに、海上はあらゆる騒音に塗れていた。
そして、そのために海中に注意を向ける者が減っていた。
だから、彼らはその時を待っていた。
彼らは、徐々に近づいてきたのだ。
そして、敵が必ず、サンディエゴ方面へと後退することを予測して。
5隻が漏斗状に戦列を組む。
そして、全弾発射の体制になる、そして、やってくる艦隊に向けて飽和攻撃を行う。
彼らは、全弾新型魚雷を装填していた。
今までの魚雷と違い、航跡がはっきりと見えるため早く散開して逃げる必要があった。
しかし、高速のため、当たる確率は高いと思われた。
そういう艦隊があちこちに潜んでいた。
「スクリュー音接近してきます」
「よし、深度50まで上昇」
「深度50まで上昇します」
「こちらを横切る形になります」
「よし予測進路で全弾発射する、僚艦にも通達」
「てえ~!」
圧搾空気が新型魚雷を押し出す。
エンジンが点火されると、調定された深度まで浮上し、航走を開始する。
その先端からは、泡が放射されているように見えるがこれは、空気を微細にして放出しているのだ。
5艦から6発づつ、計30発の新型魚雷が発射される。
「急速潜航、ダウントリム一杯」
ベントから空気を排出し、急速に海の底へと逃げ始める、潜水艦隊。
その海中速力は20Kn、発射の現場から速やかに遠ざかっていく。
後退を開始した艦隊は輪形陣を何とか保ちながら、サンディエゴ港を目指す。
その陣形の駆逐艦の見張員は、魚雷らしきものの航跡を発見する。
「高速魚雷、接近中」伝声管に叫ぶ。
この魚雷は通常の魚雷の三倍近い速度を持っている。
艦長は直ちに、右か左へ大きく舵を切る必要があった。
「面舵一杯」
だが、すべての艦が同じ方向に切らないと、陣形はうまくいかないのだ。
焦った巡洋艦が、戦艦と反対側に舵を切ったために、衝突事故が発生する。
だが、舵を切っただけでは、回避できるとは限らない。
次々と命中弾が発生し、水柱が湧き上がる。
海面が沸騰する。
たとえ当たらなくとも近くを通ると爆発する。
その衝撃が艦底を打ち付ける。
「奴らの魚雷はどうなってるんだ、早すぎるぞ」
答えられる人間がいるはずもない。
ヨークタウンⅢが魚雷に食われた、アイオワⅡも大破した。
次々と悲惨な通信が入る。
行き足を失えば、敵空母航空隊により嬲り殺しに合うことは、必定だった。
彼らは、艦を引き渡さねば、確実に撃沈しに来る。
シャーマン中将自身が、それを身を持って体験した。
「とにかく、戦闘機を呼べ、陸軍に守ってもらうのだ」
すでに、司令官からして、戦意を喪失気味だった。
この戦いに、SX改型潜水艦は、ほぼ全艦が参陣してきていた。
この戦いが、最終決戦を意図するかのように。
救国軍事会議議長はそのつもりだったのだ。
次々と、潜水艦隊は魚雷攻撃を行う。
潜望鏡も出さずに、音源のみによる、予測射撃である。
超高速魚雷は、それを可能にしていた。
巨大艦で近くなら、戦艦の先端のみ狙えば、当たるくらいの高速なのだ。
予測技術が発達する必要もない。
少し、前方に撃てばいいだけの仕事なのだ。
そもそも、船はそう簡単に曲がれないからだ。
そして、巨大艦を狙えば、後の小型艦は戦艦群が片付けてくれる。
これはそういう戦いだったのだ。
すでに、開戦から7時間以上が経過していた。
そして、その程度の時間があれば、ビックアイランド島基地から、富嶽が飛んでくることができる。
高度8000mから、フリッツX改が投下される。
彼らは、爆弾倉にも、急増の燃料タンクを入れて、長距離爆撃を敢行しに来ていた。
この熱感知爆弾は改造され、巨大熱量に集中することをある程度改良されていた。
あくまでも、ある程度だが。
本土防衛隊は、この巨人機の接近は感知していたが、自軍のB29と判別できなかったし、敵艦隊攻撃に、全力を挙げていた。
フリッツXは、空母の巨大煙突を発見し、それに向かって自分のフラップを調整していく。
別のフリッツXは戦艦の煙突を感じ取った。
高高度から落下する爆弾は質量だけでも大変な破壊力を持っている。
煙突には、爆弾防御のハニカム構造の防御板こそあったが、そのようなもので防げるものではなかった。
防げたとしてもその部分で煙突を完全に爆破することができた。
空母も戦艦も、燃焼機関が大爆発を起こした。
機関室は爆発で高温蒸気が噴出して、多くの機関員が一瞬で大やけどを負い、戦死した。
ある巡洋艦は煙突を完全に爆破され、煙が艦内に充満し、航行不能になる。
そして、そのころ、敵大戦艦群が、勝利を確信して、迫りつつあった。
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