第20話 サンディエゴ沖の激闘

020 サンディエゴ沖の激闘


猛烈なGがかかる中、空を一直線に駆け上っていく、ジェット戦闘機隊。

彼らの機体は真っ赤にカラーリングされている。

かつて、日本の戦国時代に武田騎馬隊がそうであったように、彼らもまた赤備えであった。

戦場で目立つことは、生死にかかわる。

かつての航空戦では一騎討ちの精神から、そのようなことが行われていたのであろう。

そして、彼らはその精神を受け継いだのであろうか?

それとも、父親がそうしていたからであろうか?


ウォルフガング・フォン・リヒトフォーヘン。

ベルナー・フォン・リヒトフォーヘン。

ウォルフガングは、兄マンフレート・リヒトフォーヘン(ドイツ空軍エース)の子。

ベルナーはその弟、ロタール・リヒトフォーヘン(ドイツ空軍エース)の子であった。

その彼らが、部隊を率いていた。


対Gスーツが下半身を圧迫して、血流を下半身に行き過ぎないようにしてくれている。

そして、酸素マスクが高高度でも、呼吸を助けてくれる。

高度計の針がぐるぐると回っている。

彼らは、高高度をこちらに向かってくる、敵大型爆撃機の撃墜任務を命じられていた。


今日の天気では、雲が少ないが、高度1万では、雲は下方に存在する。

強い太陽の光線から、色付きのシールドが目を守ってくれる。

母国の一つドイツ帝国でもシュバルべというジェット戦闘機が本土防衛で活躍していると聞くが、こちらの震電改の方が圧倒的に高性能であろう。

もちろん、彼はそのことを信じているし、実際そうに違いない。

そして、何よりゲルマン魂、大和魂を両方持つ自分こそ最強の戦士であると信じている。


「前方に敵機確認」

「まずは後ろに回りこむ、新型のコブラが有効かどうか試す必要がある」

「了解」


フィンガーフォー4つでダイヤモンド隊形を組んでいた、リヒトフォーヘン隊が反転急降下を開始すれば、ベルケ隊も同じく、それにならう。

高度1万から8000まで急降下した時には、爆撃機の後方に見事に雁行陣になっていた。

「全機フォイエル」

全機、32機がコブラと呼ばれる、ロケット弾を64発を発射する。

今までのロケットは単なるロケット弾だが、このコブラは、赤外線追尾装置を備えている。


「何かを発射しやがった!」

米国戦略空軍のB29の機内は、悲鳴に満ちる。

「撃ちまくれ!」B29搭載の機銃がやたら目ったら撃ちまくる。

しかし、音速で飛翔する物体を撃墜することは、難しい。

目標とズレて発射された、ロケットは、熱源に向けて姿勢を制御して向かってくるため、直線で来るロケットは少なかったのだ。


中には、明後日の方向に飛んでいくロケットもあったが、おおむね目標に向かって飛んでいく。そのいくつかは撃破されたが、残りは次々と命中し、B29を火の玉に変える。

それでも、数機のB29が生き残った。

だが、それこそ、彼らの餌食になる予定のものだった。


護衛のない、B29など、ほぼ音速で飛翔する震電改の30mm機関砲にあらがえる訳がない。

次々と大きな穴が開き、投弾前の爆弾(絨毯爆撃用に大量に積んでいた)を爆発させる。

その爆発は凄まじく、機体を木っ端みじんに吹き飛ばし、空に火の玉を作り出すほどだった。


「戦闘終了」

「了解、アグレッサー隊、C3地区の味方が苦戦している、救援に向かってくれ」

「アグレッサー隊了解」


C3地区は想定戦場のど真ん中で、やはり敵の空軍力が集中していたのである。

その日の彼らの話題は、誰のミサイルがB29を撃破したかだった。


空母隊空母の戦いでは、その真ん中で戦闘機たちが激しく撃ち合っていたが、それ以外の航空機は、そのすきをついて、敵艦隊へと向かう。

米国海軍航空隊は、帝国艦隊の鉄壁の守りに阻まれ、攻撃がうまくいかなかった、その結果そのほとんどが海中に沈むこととなった。

戦艦を航空機で沈めるというのは、本来かなり難しいのである。

史実の大和が沈んだのは、一方的に攻撃を受けた結果であり、航空隊が援護していれば、歴史はかなりかわったのではないだろうか。

さらに、この世界の大和は、全身ハリネズミとするように、ある男が仕向けたため、そうやすやすと倒せるわけがない。

そうなることは、当然の結果だったのである。

では、一方の帝国の攻撃機隊はどうだったのであろうか。


まず、彼らの乗る天竜(スカイレーダーとある男は読んでいるが)は雷撃と急降下爆撃をこなすことができる両様の攻撃機である。

しかし、彼らは、今回に限り急降下爆撃はしないと司令長官が言い放ったために、すべての機体が魚雷を積む有様である。

「馬鹿な、なぜ爆撃を行わないのだ」

ある士官は怒鳴ったらしいが、「爆撃は危険だから、やめる」その男はそう言ったらしい。

「危険もくそもあるか、命を懸けるのが兵士だ」

「じゃあ、君だけ爆装で出てよし」

「そうじゃなくて、俺の後に続くものがないと、俺が死んだらどうするんだ」

編隊が一本棒となって突撃を行うのが艦爆の習いである。

「だから、君だけ、死ねば問題ない。パイロットは大事なのだ、そんな無茶な攻撃はしない」

「そんな舐めた精神で、米英に勝てるとお思いか」

「一応、勝っていると思う」

「・・・・・」

士官の問答は終わった。


かくして、雷装の天竜ばかりになったのである。

天竜は、新型の見慣れぬ魚雷?を腹に抱えて、海面すれすれを滑空するかの如く飛んでいく。

なお、この飛行に入る前には、必ず敵戦闘機の攻撃圏外に入ったときとする。

すれすれの飛行は上を抑えられると、撃墜される可能性が高いからである。


そして、戦闘機たちは、大乱戦に突入していた、その戦闘をさけて、前進できた部隊から海面滑空を開始する。


空母輪形陣の敵艦隊が発砲を開始する。

が彼らを襲う。

彼らは、吃水に近いので、大型砲では、攻撃できなかった。

だが、彼らは、撃っている、敵は必ず、もっとそばに来る。

その時は、ハチの巣になると信じて。主に攻撃できているものは、12.7mm機銃だが、射程が足らない。機銃の射程は長くて2kmなのだ。

日本艦隊が見せた攻撃は10Km以上は主砲、その5Kmまでは、5インチ両用法、それ以降は40mm、20mm、そして12.7mmとなる、そのような攻撃をが準備されていたのである。


米国艦隊もそのような布陣を想定していた、そしてVT信管を装着した砲弾が今や遅しと待ち構えていたのである。だが、そのような水面すれすれでは、40mm砲までが、仰角の問題で対応不可能だった。あくまでも急降下爆撃に対応するからだ。


「カモン、ジャップ」そう叫んだ兵士がいるかは知らないが、彼らは、水面すれすれをやってきた。

小癪な、機銃で迎え撃て!すり抜ける時を狙い撃て!

日本軍の雷撃は数百メートルで行われる。その距離なら、機銃で十分攻撃できるのである。

そして、投弾後、艦を飛び越えていく。

その時も、狙い時になる。


だが、奇妙なことに、4機編隊は、かなり手前で、魚雷を発射する。

その距離は5Kmも手前だった。

そのような編隊が、次々と同じことをしていく。

これでは、機銃で迎撃できないだろうが、臆病風に吹かれたのか!


「馬鹿野郎がそんなところで撃っても回避できる。」だが、数十の雷撃機がそのようにした場合はどうだろうか。米国の常識ではまず、魚雷は、射程がそれほどないので、無視でよい。

だが日本軍の魚雷は、サルにしては奇跡的に射程の長い魚雷の開発成功していた。


「甲板員、航跡に注意しろロングランスは航跡が見えにくい、だが、見えないことはない」

今は、まだ太陽がまぶしいくらいに輝いている、偏向グラスをかけていれば発見できるはず。


「臆病者めらが」やはり、先の海戦で、空母を沈めたのが効いている、優秀なパイロットがいないんだ!艦長の何人かはそう考えたのである。

「コースを教えろよ」

今回は勝てるかもしれん、パイロットでは、こちらもそれほど優秀ではないが、こんなビビりの雷撃要員しかいないならば、勝てる!


「今度こそ」

「艦長!大変です、魚雷が」

「だから見えにくいと言ってるだろうが、目を凝らせ」

「違うんです、航跡がはっきりと見えます」

「なら、いいじゃねえか」

「高速で接近中です」

「だから、避けるんだろうが、面舵一杯」

「高速です、ありえないぐらい高速です」

「舵が効くまでまだかかるんだよ」

「来ます!」

「馬鹿野郎、まだ来るわけねえだろ」

それは、投弾から1分後の事だった。


駆逐艦の舷側で巨大な水柱が上がり、船体が殴られたような衝撃を受ける。

艦長以下艦橋の人間は、激しく投げ出されて、鋼鉄の部品たちと抱き合うことになる。

それは、船内の乗組員も同じだった。







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