第18話 戦雲揺らめく

018 戦雲揺らめく


今現在、帝国国内はしごく平穏であった。

かつて、史実の中ではすでに焼け野原になっていたころである。

だが、帝都はまだ被害らしきものは一切受けていない。


江戸城某所。

昭和天皇は、救国軍事会議により、蟄居させられていた。

国民の中には、そのような恐れ多い事を行う逆賊が!と怒りをもった者もいたが、憲兵隊が治安を維持している。

憲兵隊長は、東条英機であり救国軍事会議に賛同していた。


「陛下、狭い場所に閉じ込めて申し訳ありません」と高野がいた。

「高野か、貴様が何を考えているかはわからんが、どうするつもりだ」

「はい、これから米国と決戦を行い、戦争を終わらせる所存でございます」

「できるのか?」

「さすがに、できると断言はしかねますが努力は致します。しかし、失敗すれば、陛下が再び日本を率いてくださるようお願い申し上げます」


「死ぬつもりか」

「死ぬつもりはありますが、死ぬかどうか我ながら不安はあります」


「これから行うことは、全て救国軍事会議が行うことでございますれば、陛下には、私を断罪していただければ結構かと存じます」


「そうか、高野頼むぞ」

「御意」高野は平伏した。



横須賀に寄港していた第21艦隊、第22艦隊がその日抜錨し、一路ハワイ諸島を目指す。

決戦はすでに目前に迫っていた。


第21機動艦隊(通称:高野親衛艦隊)

戦艦「神武」「応神」   

超空母「朱雀」「玄武」「ピョートル」空母「加賀」


第22機動艦隊(通称:ロシア艦隊)

戦艦「イワン」「ニコライ」

超空母「青龍」「白虎」「アレクセイ」正規空母「土佐」


まさに、現代最強の機動艦隊が横須賀を出向する。

駆逐、重巡、輸送艦など補助艦艇が無数に湾内を走り回る。


上空には、対潜哨戒機『東海』が飛び回っている。

艦隊には、海鵬の対潜哨戒機型が随伴する。


そしてハワイ諸島には、

第1機動艦隊

第1戦隊   「大和」「武蔵」

第1航空戦隊 「大鳳」「雲竜」


第2機動艦隊

第2戦隊   「紀伊」「尾張」

第2航空戦隊 「剣」「葛城」


第3機動艦隊

第3戦隊   「長門」「陸奥」

第3航空戦隊 「翔鶴」「瑞鶴」


第4機動艦隊

第4戦隊  「比叡」「霧島」

第4航空戦隊 「蒼龍」「飛龍」


第5機動艦隊

第5戦隊  「金剛」「榛名」

第5航空戦隊 「紅鶴」(エンタープライズ)、「白鶴」(レキシントン)


第6機動艦隊

第6戦隊   「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」

第6航空戦隊 「天城」「赤城」


防空艦隊

第7航空戦隊 「飛鷹」「隼鷹」「祥鳳」


らがすでに集結していた。第2機動艦隊の戦艦は大和型3番艦と4番艦である。

第1航空戦隊、第2航空戦隊の空母は翔鶴型空母である。

史実の空母と異なり、アングルドデッキを採用しており。甲板の面積が大きい。

1350機にものぼる航空機を搭載している。(艦隊合計)

一方高野艦隊は880機である。(艦隊合計)


それに加えて、海上には海鵬型爆撃機が200機以上動員されることになっている。

空前の大船団が結成されることになる予定である。


そして対する米国第5艦隊は、

エセックス級空母8隻、インディペンデンス級軽空母8隻、アイオワ級戦艦4隻と陸軍航空隊5000機で迎え撃つ準備を整えているのである。

エセックス級空母の名前はエンタープライズⅡとヨークタウンⅢなど聞いた事がある名前ばかりである。空母艦載機総計800+400の1200機である。

戦艦の名前もアイオワⅡ、ニュージャージーⅡなど聞いたことがある名前の2世である。


予定戦場はサンディエゴ沖。

『わ号作戦』では此処で決戦を行い、勝ってサンディエゴを砲撃し破壊することが目的とされていた。


十数日後、親衛隊艦隊はオアフに到着補給を受ける。

いよいよ、大海戦に臨むことになる。


「救国軍事会議議長の高野である。このような形で皆に命令をすることを心ぐるしく思う。

今作戦により宿敵米国艦隊を撃滅し、日本に平和を取り戻す。私はクーデター政権の首謀者であるが、愛国心は持っている。貴様らの中には、私に文句を言いたい奴もおろう。

文句はあの世、できれば靖国で聞いてやろう。これはである。皆、命を捨てて任務に当たれ、しかし無駄死にはするな。以上!」

この放送は全ての帝国艦船の艦内放送で流れていた。


帝国太平洋艦隊司令長南雲大将は、静かに全艦出撃を下命する。

艦隊的にはクーデター政権の命令に従う姿であるが、これは予定された事態でもあった。

事実上の米国阻止作戦が破綻した場合は非常事態として、非常時態勢へと移行する。

これは、休戦条約締結の際にすでに議論され、このような形になることが予定されていたのである。


数多くの帝国将帥が、この事態は避けたかったに違いない。

だが、実際は、このような事態に陥ってしまったことに忸怩じくじたる思いがあるであろう。


かといって、どのような方法でこの戦いを止めることができるであろうか?

相手が絶対に、嫌だといっているのだ、圧倒的に押して、兵士を殺してもいやだという。

次にとるべきは、敵地占領以外に方法はない。


だが、日本兵すべてが、米国に行ったとて、それは不可能であったろう。

米国の本土は占領するには、広すぎるのである。


だが、彼らは征く。

征かざるを得ない。

史上最大規模の超大艦隊が、いくつもの輪形陣を組んで、太平洋を切り裂いて征く。

それをやくさんと米国潜水艦隊が、攻撃をかける。はずだったが、それはほぼ消滅していた。


シャーマン中将は、どうしたらよいか、考えあぐねていた。

彼は、前期大戦で、レキシントンを自分の身代わりに差し出したが、自分は生き残った。

そして、後方に回されていたのだが、次々と海軍将官が戦死し、彼が、今回の日本軍迎撃の艦隊指揮官に抜擢ばってきされたのである。


ニミッツの後任には、フィッチ大将が昇格した。

名だたる名将たちは、すでに亡い。


サンフランシスコはすでに覆滅された。

勿論、この休戦期間を有効に使って、修理されていたが、海軍基地復旧の目途はいまだにたたない。


フィッチ大将からは、何とか、陸軍機のカバーゾーンまで敵をひきつけて、全滅させよと命令を受けている。

だが、それは、それまで敵を引き付ける役をし続けるということである。

つまり、命を懸けておとりをせよと命じられたわけである。


『合衆国海軍のプライドを見せよ』フィッチがそういったのは、命を捨てて敵を誘導せよということだ。そして今度は逃げることは許されないということだ。


やはり、陸軍戦闘機隊は、海上での戦闘は不案内だった。

そして、それらの訓練はされていない。

前期大戦のサンフランシスコ沖航空戦で多数の死者、行方不明者が出たために、新たなパイロットが大量に必要であり、とても訓練期間が足りなかったのである。


陸軍からの要求は、敵を海岸から300マイル(約500Km)に引き寄せることだった。



『くそ!フィッチの野郎、俺に死ねというつもりか』

そう、死ねといっているのだ、それが戦争の残酷さというものである。


「大丈夫ですよ、司令、敵の空母は先の海戦でかなり沈めています。あと数隻、多くてもこちらのエセックス級と同じくらいでしょう」と若い参謀が言ってくる。

苦悩する司令官をおもんぱかっての言である。


多くの将官は実際に、そう考えていた。

そう思わなければ、あの被害が無駄になるではないか。


そして、真実を予想した司令官は自ら去っていたのであった。


さすがにエセックスが8隻もあるのだ、悪い戦にはならないのではないか?

やっとのことで光明を見つけた、シャーマンは少しだけ笑顔になった。



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