第16話 ユダヤ自治共和国2

016 ユダヤ自治共和国2


「どうかご勘弁を」青い顔のゴールドマンは明らかに気分が悪そうだ。

「嫌、この話はまだ続くのです」と満足げな高野。


「わかりましたから」

「首相、この爆弾は此処からが本番なのです」


「どういう意味ですか」

「ですから、この爆弾はこれでは終わりません。」

「え?」

「放射線に焼かれた人々が生きのこり、サンディエゴの軍病院に入院しましたが、多くはその後、後遺症で死亡します。」


「それが何か?」

「この爆弾は放射線でその後も多くの人を殺すことができます」

「聞いたことはあります」さすがにユダヤ人の国の首相である。

「そして」

「わかりました、まだ爆弾があるということを示唆しているのですね」

「いえ、そうではありません。そもそも軍機であり言えません」


ゴールドマンは米国側の情報を知らされていた。日本が盗み出したウラン鉱石からは、精々2~3発がやっとではないかという判断であることを。

そして、この映像では、2発が使われているということつまり後は一発あるかないかということである。


「私が言いたいのは、その後生き残った兵士たちがどのような処分をされたかということなのです」全く、自治共和国に関係のない話であった。だが、人間というものは、話すことによって救われることがあるものなのである。


こうして、被爆兵士が秘密裡に処分される映像も一緒に見せる男。

そして、多くの閣僚、高級官僚が其の悲惨な映像を見せられて、PTSDに陥るのであった。

「米国のやっているこの非道を許すわけに行きません!」

たしか講和の助力に来たはずだったが、趣旨が大きくそれたことに気づいていない男だった。


そして、すっきりした顔で「どうか、講和にご助力をお願いしたい。」とどや顔でお願いするのだった。


その後、自治共和国から米国にこの情報が伝えられ、日本が追い詰められていると判断される。だが、被爆兵士が処分されたのかどうか?という問には、事実を確認するという返事がなされただけであった。勿論その後返事は永久にこなかったそうだ。

本来、高野は原爆の存在をにおわせ、ユダヤ人にも被害が及ぶ事を警告にきたにもかかわらず、別の話をしたばっかりに、全く違う話の方向になってしまったのであった。


証拠自体は存在しない。勿論映像も存在しない。

だが、多くの人間が、見せられた映像が真実であることを疑っていなかった。

それは、真実の映像であったからである。

呼吸やうめき声、そして、毒物を注射され、死の痙攣までも再現できる。映画などでは描き切れないほどのリアル感をもっていた。彼らはそう思わざるを得なかったのである。


・・・・・

話変わって、国際連盟。


国際連盟会議場(まだ存在しており、日本も加盟していた)


「日本兵等がわが国民を無差別に殺傷していることは到底容認することはできない。即刻この残虐行為を止め、犯罪人の引き渡しを要求する」オーストラリア大使が大会議場で怒鳴っていた。


「現在、帝国は、クーデター政権、救国軍事会議なる輩が専横しており、我らもどうすることもできず、悔しい思いをしております。一刻も早く軍事会議を解散させ我らの陛下に政権をお戻しする努力をいたしている所であります」日本の大使はこのような表現していた。


「犯罪人を引き渡すのか」

「現在のところ、いかなる犯罪行為が行われたるかを知る術はない」


「貴様等の国であろうが」

「無礼でしょう、そもそもオーストラリアという名はあなた達が勝手に付けた名でしょう。アボリジニこそ、仮称オーストラリアの国民であって、あなたたちは簒奪さんだつ者であり、アボリジニを不当に扱い殺していたではないですか」


「己!ジャップ」

「そのような差別意識が問題の解決を送らせるのです」日本大使は上手く対応できていた。だが、クーデター政権には反対の立場であった。


そして、豪州戦線では、ANT師団と戦車師団、例の超兵連隊が、一つ一つ街を壊滅させながら、豪州西海岸を南進していたのである。


「豪州政府は無条件降伏せよ!」このままでは、メルボルンも壊滅の憂き目を見ることになる。彼らの力は想像を絶していた。航空機、ヘリ、戦車、兵の装備いずれもアンザック軍をはるかに上回り、兵数も多かった。しかも補給もニューギニアから続々とやってくるのであった。

今や、オーストラリアは最大の危機に陥っていたのである。


ANT師団の兵士は基本的に無差別に人を殺す。

超兵連隊の連中も躊躇はない。

いわば、統制の効かない暴力装置の典型である。

だが、証拠を残すことなく殲滅することには執着していた。

死人にくちなし。

そして、彼らは今日も前進している。


「よーし、カチューシャロケットを撃ち込め!」

ソビエト軍が作り出した筈の武器だが、この時代帝国軍にも同様のものが存在した。

街中に無差別に大量のロケット弾が撃ち込まれる。

たちまち町中に爆発が生じ、建物をがれきに変えていく。

コロリョフロケッツが帝国に大きな力を与えた結果であった。

これは、中国戦線でも同様であった。

そしてそれは、米国戦線にも大きくかかわってくることになる。



すでに、組織的な反抗を行う軍隊は此処には存在しない。

逃げ遅れた市民たちが、パルチザンになることを防ぐため、街ごと吹きとばすのだという。

「我々は、狩りの獲物として撃ち殺されていた。だから今日は、此方が狩る番なのだ」とある兵士は言った。

「刈取った頭蓋骨はとても大事、ちゃんと祀る」とある兵士は言った。

「彼らの頭はおかしい。とてもついていけないが、侵攻を止める訳には行かない」とある兵士は言った。

「我ら神軍は無敵、全ての敵を殲滅するのだ!」ある指揮官はこういったという。

ここには、捕虜という言葉は存在しない。

撃ち殺すか、焼き殺すか、吹きとばして殺すかの違いしかない。


「捕虜などいらん、敵に飯を食わせてどうするのか、我らの食料なのだぞ」

「前進あるのみ、捕虜は邪魔になるのだ」


「殺すのが嫌?何を言っている、あれパルチザン兵、敵兵なのだぞ!」

「一般市民?貴様の眼は腐っているのか!あれは、パルチザン兵ではないか!」

「何、武器を持っていない?貴様、我らは、竹やりさえあれば、戦えるのだ彼らも同じだ、だから敵兵なのだ」


・・・・・

「頼む!誰でも言い、我が国に救ってくれ」オーストラリア首相は、本国と米国への救援を養成していた。街が破壊される度に、数千人の民間人が殺戮されていく。


だが、本国英国は対ドイツとインド防衛のため手が足りない状況に陥っていた。

特に、インドでは、独立派の抵抗が激しく、インド洋には、帝国海軍の機動部隊が、英国インド洋艦隊を攻撃し、近づけない状況であった。


そして、日本の手助けで独立したインドネシア、マレーシアなどの義勇軍が次々と日本製武器をもってインド半島に襲来していた。


一方米国は勿論、全力で帝国軍を壊滅すべく太平洋に全精力を傾ける必要があった。

先の大戦では、帝国空母を最後に何隻か沈めたが、此方も沈められた。そして今まさに、太平洋で一大決戦が待ち受けているのである。


豪州を手助けするには、余裕がなかったのである。

そして、一番の問題は、敵の潜水艦群が輸送を阻んでいることであった。

ほぼ、100%の確立で撃沈される輸送船を出すことは人命優先の米国では不可能だった。


「まずは、次の海戦で日本を叩く、そうすれば、豪州にも物資を送ることができるようになる、もう少しの辛抱だ」

これが、米国側の返答だった。









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