第15話 ユダヤ自治共和国

015 ユダヤ自治共和国


高野救国軍事会議議長は、満州国内にあるユダヤ自治共和国を訪れていた。

このユダヤ自治共和国は帝国が、世界へのプロパガンダ(五族協和のシンボル)のためにつくった国である。しかし、ドイツ帝国で強制収容所などに送られて殺される筈だった者たちも大量に迎え入れていることも事実だった。


満州国の経済発展のためにそれなりの資金も米国などからきていることはきていたのである。だが、当初考えられていた、技術、資本、人材の集積はできていなかった。

そういった意味では、それほど成功していたとは言えない現状であったのである。


自治政府の庁舎。

「これはこれは、高野中将よくいらっしゃった」共和国首相のゴールドマンであった。

「ゴールドマン首相、私は今、救国軍事会議議長として此処によさせていただいいるのです。」高野九十九は日本人らしくない顔の作りであったが、顔つきは基本的に柔和な表情である。しかし今日は、険しい表情であった。


「それではどのような用件で?」

基本的に、ユダヤ資本なので、米国の財閥とつながっているためスパイである。

そのことを認めても役に立つのではと考えられていたのであるが、上手くいっていない。

その中でも、彼らに期待されているのは、米国民衆への発信力である。

彼らが、講和の方針に向かえば、米国民も講和に向かう可能性が高かったのである。

だが、彼らは、そうはしていないのが現状であった。


「首相、私は今日迷いがあって此方に訪問しています。少しよろしいですか」

「勿論、閣下には、ユダヤ同胞を多く救っていただいた恩がございます。私でよければ、お話を伺いましょう」ゴールドマンはニヤリとしている。


そもそも、今回行われた休戦条約の発効(今は破られたが)は日本側にも急所があるため行われたと米国側は判断していた。


それは、サンフランシスコ沖海戦で日本が勝利を勝ち取ったが、米国側はこの時、帝国の空母数隻を撃沈した考えていた。米国のパイロット達が死に物狂いで攻撃を仕掛け、帝国空母に致命傷を与えたのである、と考えていた。


ゆえに、勝利こそしたが、日本は休戦を狙ったのであろう。との解釈である。


現実は、しかしそうではなかった。帝国は常に終戦を目指していた事。そして、戦争指導者の中心人物、この場合は高野九十九であるが、彼が鬱状態になってしまったのが主な原因である。よせばいいのに、変な責任感からある映像を見たためにそれは起こった。まさに好奇心猫を殺すである。


この海戦では、帝国の空母は沈んではいない。それは、空母に偽装した輸送船を米国側が死に物狂いで攻撃し、撃沈したのである。

ゆえに、空母で撃沈破されたものは皆無であった。


だが、伏兵は意外な所に存在していたのである。

それ以前に、米国艦隊に向けて、原爆が投下され、一撃で破壊した事があったのだが、その後彼らがどのように処理されたのか?


高野九十九は気になっていたのである。

生き残りは病院に運ばれ、次々と命を落としていた。

そして、ある日生き残った彼ら(ほとんど寝たきり)は処分されたのである。


原爆の完成とその威力の大きさを世間に知られることは、断じてできないと考えた、軍関係者が、彼らを抹殺したのである。彼らの遺体は完全に焼却され、空き地に埋却された。


神の使徒たる高野九十九は、原爆の爆心地の映像を例の映像で体感し、そして気になった彼らの最後を知ってしまったのであった。

それが、彼の鋼の精神をもむしばんだのである。


こうして、両国は意見の一致を見て休戦に達した。

米国は勿論、復讐の機会を得るまでの時間稼ぎ、日本は、工業力に勝る米国との終戦を夢見て。


「では、少し聞いていただきましょうか、というか首相は、私が帝国内でなんと呼ばれているかご存じですか?」


「たしか、神の使徒でしたか?ですが我らの神とは違うのでしょう?」彼らは勿論ユダヤ教であり、その神を信奉している。

「ええ、まあそうです、しかし、そんなことはこの際問題ではありません。私は、ある方法で多くの方々に映像を見せる事で、そのようにいわれるようになりました、本日はその手妻に少しお付き合いいただきたいのです」

「何故ですか?私は我らの神の使徒です、他の神のいうことを信じる訳には参りません」


「それは、これらの事実からある推測が為される訳ですが、端的にいえば、あなたの言う同胞にも同じような事が起こる可能性があるという訳なのです。」

「何ですと!」今まで余裕があったゴールドマンに少し焦りの感情が芽生える。


「推測されるのは、あなたですので、どのように推測するかはあなたの勝手です。私は単に推測するための条件をお出しするだけですので」これらの会話は英語で為されている。


何故ここまで英語を操ることができるのか?其れだけでもかなり大変厄介なに違いない。

ゴールドマンは胸の奥で思った。

「首相、我々救国軍事会議は追い込まれているのです。米国との講和を望んでいます。ぜひとも、お力添えをお願いしたいのです」高野の表情には、焦燥と狂的な何かがないぜになっていた。


「勿論、閣下の意向を米国の同胞に伝えましょうとも」


「では、刺激が強いと思いますが、我が手妻に参加いただけますかな、ただ手を握るだけです。暗殺等を恐れるならば、合間に一人挟んでいただいても構いません。手がつながって入れば見ることはできますから。そうだ、閣僚の方たちにも見ていただいた方が良いのではないですか」


自分が痛い目にあったこの男は皆を巻き込んでやろうと考えていた。

同じような映像はかつて見たことがある。しかし、それは歴史的事実であり、自分には関係のない映像だった。しかし、この映像は自分が下した命令で発生したのである。故に、罪の意識にさいなまれてしまったのであった。


斯くして、首相以下その建物にいた主要な人物が円座を作ったのである。

首相は、高野からかなり離れた場所である。貴様を殺すつもりならば、すでに100回は殺しているわ。と胸の中で考えている男がいるとは、ゴールドマンは知らなかった。


「では、始めましょう、信じる信じないはあなた次第!但し、これは去る筋からの確実な事実映像であるということは保証します。だからといって何ということはありません。皆さんにお願いしたいのは、我々救国軍事会議には手段があまり残されていないということ、そして、米国との講和を成し遂げたいということ、皆さんにはそのお手伝いをお願いしたいということです」


・・・・

眼を開けていても、その映像は、脳内で映っていた。

帝国のB29(日本名:富嶽)から一発の大型爆弾が投下される。


爆弾は高度800m、米国艦隊の輪形陣の中心で炸裂した。

周囲が一瞬暗くなったような錯覚が起こり、強烈な閃光が閃き、爆発の中心に光の玉が発生し周囲を包む。

ゴッゴオゴゴオオオオゴオオオオオーン

とてつもない、爆発が発生し、熱線と放射線と爆風と轟音が周囲を薙ぎ払う。

衝撃波が発生し広がっていく。


まさに、艦の直上で爆発の起こった戦艦モンタナは高熱と放射線に焼かれ、その後、弾薬庫に引火、大爆発を起こした。


だがその大爆発も、巨大なキノコ雲の中で起こったため、誰も見ることはできなかったのである。だが、この映像では、まさにその大爆発の中心で映像を楽しむことができるのである。


ターゲットになっていた2隻の空母も甲板にいる人間が一瞬で蒸発し、やはり、弾薬と燃料が発火し、大爆発を起こしていた。これも空母甲板での視点で見ることができた。パイロットや整備士の影が甲板に焼きつけられる。凄まじいエネルギーだったのだろう。


新型爆弾は空母と真後ろを守る戦艦の中ほどで爆破したのである。


輪形陣を作っていた駆逐艦、巡洋艦も次々と熱線と熱風により、可燃物が発火した、その後爆風で転覆、衝撃波で発生した津波に飲み込まれた。


津波に飲み込まれて沈没しながら爆発する艦艇も、水中モードで見ることができた。


多くの者たちが、手をはなし映像を断とうとしていた。あまりにも理不尽な破壊力に、神経が麻痺しそうだった。


何人かは吐いていた。


「すいません、信じる信じないは皆さん次第ですので、ですがまだ続きがありますのでお願いします」


「嫌、もう結構、わかりましたわかりましたとも」ゴールドマンは青い顔で手を振っていた。




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