第11話 地獄への誘い
011 地獄への
ケアンズ攻略を果たした陸軍、超兵部隊とANT師団の前に現れた海軍中将。
祝宴の後、「彼が、辻正信です」牟田口連隊長が、一人の小男を連れてくる。
「ああ、辻さんですね。」と高野。
敬礼をする辻。
「いや、ご苦労様です」と高野。
「あなたの活躍でケアンズは
「もったいないお言葉です」
「実は、作戦の神様のお力をお借りしたいのです」
「何ですか?」
海軍でも要人中の要人、そして最も危険なこの男がいう言葉には注意が必要である。
牟田口も辻もそのことをあまり知らない。彼らは、極限地での訓練で本国の事情とかかわり薄かったからである。
彼らが、超兵部隊(俗称:懲罰部隊)に入れられたのは、この男の
だが少なくとも、この部隊を作り出したのは、この男である。
・・・・
「実は、今度実戦投入が決まった回転翼式航空機、我々はヘリコプターと読んでいますが、そのヘリ部隊の連中が、あろうことか私の命令がおかしいというのです」
海軍の要人の高野の命令を聞かないなどということはありえない。
そこらへんの事情は、陸軍の彼らは知らないが、軍人の組織では、命令は絶対である。
ありえぬ事である。
「なんですと!そのようなことは万死に値します。」辻は興奮した。
「そうでしょう!命令は絶対です。しかし、私の命令はダメだと彼らはいうのです」
ヘリボーン部隊は海兵師団に新設された部隊である。
海兵師団は陸軍が主流であったが、その司令官は乃木兄弟であり、これまた高野の親友であった。
ゆえに、命令に反抗するとは考えにくい事である。
そこらへんの事も彼らは知らない。
超兵部隊は隔離された部隊であり、通常の情報網の中かから隔絶されているのである。
「たとえ死しても命令を実行する、これこそが帝国兵の
「左様!」高野はうなずくが、統合本部では真逆のことを言っていることもある。
「しかし、私は、死んでくれなどと言ってはいません、ある作戦を実行してほしいと頼んだだけなのです」
「わかりました、閣下は我々がその作戦を実行せよというのですね」と人に合わせるのが得意な辻が引き受ける。
「お願いできますか?」
「内容にも・・・」
「勿論です、閣下のため命を棄てましょう」
牟田口よりも、階級が下の辻が引き受けてしまう。
こうして、男がいかにも奇妙な話を始めるのである。
そこでは驚愕の事実が語られるのである。
「本当によろしいのですか?」と牟田口。
「ええ」と高野。
「私にお任せください」と辻。
こうして、超兵部隊にヘリボーン部隊が新設されることが秘密裡に決まった。
超兵部隊だけでは、数が足りないため、ANT師団の中からも資質のあるものが選抜され、直ちに、ヘリ(シコルスキーUH60ブラックイーグル)の訓練が開始される。
ヘリ部隊の指揮は、辻中佐が大佐に進級し、とることになった。
「しかし、辻、本当にいいのか?下手をすれば戦争犯罪だぞ」と牟田口。
「何を言っているのですか中将、戦争で民間人の被害がでたから何だというのですか?」と辻。
「理由を聞いていなかったのか?あの男は自分の部下2人が殺されたので、オーストラリアの民間人を虐殺すると言っていたのだぞ!正気とも思えん!」と牟田口。
「そんなこと言っていましたか?戦争を終結させるために、この豪州の人間を恐怖のどん底に陥れる必要があるとおっしゃったのです、高野閣下の考えは非常に合理的です」と辻。
「彼を襲ったのは米国の特殊部隊と言っていたではないか?」
「米国も豪州も変わりません、すでに豪州は、戦闘態勢をとっており、我々の敵であることにかわりはありません」
「お前!」
「閣下、私は、部隊の兵を鼓舞するために、たばこと酒を持って行ってやらねばなりません」高野からたっぷり、それらの品が用意されていた。
原住民の
その情報をもたらしたのも、実は高野部隊の情報員であったが、彼らはそれを知らない。
ANT師団の血の気の多い人間がヘリ部隊の兵士として招集されていた。
操縦士はさすがに、それでは勤まらないので、今は、海兵師団のパイロットたちが世話を見ている。パイロット候補が超兵部隊から集めら訓練がはじめられていた。
高野の親友乃木兄弟が拒否した作戦というのは、ヘリによる住民も含めた虐殺作戦であった。
・・・・
「高野君、一体全体どうしたんだ。確かに君は、兵には容赦するなと言っていたが・・・」
「乃木将軍、私は、間違っていたことに気づきました。私は甘かった、その甘さが、私の部下にむだに命を棄てさせることになってしまった。」
「総力戦とは絶滅戦争です。私は、余裕で情けをかけた。まだまだ相手を絞りあげることは簡単にできた。しかし、私はそこで気を許してしまった。」
「それでよいのではないのか」
「いえ、彼ら白人は決してカラードには屈服しないことを私は、うすうす感じていた」
「だが、ほぼ完全に、対応できるのだろう?」
乃木兄弟、今や将軍の二人が、必死に高野を止めようと苦戦していた。
「勿論、手を休めずに、新兵器の開発と通常武器の供給計画は完全に上手く回っています。時間をかければ、窮地を回復することは可能です。」
「では、もう少し落ち着いて考えていこうじゃないか」
「乃木将軍、私は・・・・」食いしばった唇から血が流れていた。
「アボリジニたちは、豪州の白人によって、狩りで獣ごとく撃ち殺されてきたのです。今度は、彼らが狩りにあったとして何か問題があるのでしょうか?」だからといって、容赦なく殺して良い理由にはならないはずだ。
「彼らの帝国が植民地にした国の人々はどのような扱いを受けたかご存じでしょう。」
もはや、自己正当化と怒りで我を忘れたように、高野が吠えていた。
何とか、機嫌をとりつつ、高野を追い返すことしかできない乃木兄弟だった。
そして、日豪休戦協定でこの男はこうも言っていた。
「今後休戦協定を破れば、オーストラリアに白人政権を認めず、この地をアボリジニのものと認定し、あらゆる白人種を殲滅する旨、私が宣言したことを肝に銘じていただく」
「つけを支払わせるときが来たのだ!」男は黒い炎を燃やしていた。
・・・・
だが、ここでは、「高野閣下のおっしゃる通りです。
そしていよいよ、その日の幕が開ける。
キュラキュラキュラ、戦車のキャタピラが出す何とも言い難い音が合唱している。
ヒュンヒュンヒュンというヘリが作り出すローターブレードの音が不気味に響いている。
朝陽が血のような朝焼けを生み出して幻想的な雰囲気の中、ヘリが駐機場から次々と飛び立ち始める。
エンジンから噴き出される熱が陽炎を作り出す。
シコルスキーUH60ブラックイーグル(黒鷹)と命名された輸送用ヘリであったが、対戦車ロケット砲とM2重機関銃(ドアガンナー)などが装備されている。
この時、帝国のロケット技術は世界最高水準に達していた。全てコロリョフ博士のおかげである。
一方、地上の第1戦車師団(マンシュタイン師団)、第2戦車師団(ロンメル師団)は、10(ヒトマル)式戦車に似た戦車(ハチハチ)が主力戦車である。
命名法は88mm砲からきているからなのか、そのように付けられた。
この戦車の主砲は88mm対空砲を改良したものである。
エンジンはディーゼルターボエンジン1000馬力、ドイツのタイガー戦車と伍して戦える代物となっている。本当は圧倒的に強いがそのことは秘密である。
複合装甲がすでに採用されており、成形炸薬弾では沈まないのである。
そして、その師団の指揮官は、高野学校から陸士に入学し士官となったいわゆる信派であった。そんな彼らが、ドイツの猛将から徹底的に訓練されていた。
街からおよそ50Kmの地点で壮絶な戦車戦となる。
大日本帝国側は初めから、航空攻撃(空母航空隊)により敵の長距離砲陣地を急襲していたため、アンザック(オーストラリア、ニュージーランド師団)と米陸軍は非常に苦しい戦いとなった。彼らの戦車はM4シャーマン戦車100台程度である。
陣地を上手く使いつつ戦うしかない状況であった。
しかし、敵戦車はM4の主砲を受けても全く、停止せず、発砲してくるのであった。
そのうちりゅう弾砲が、陣地に炸裂し始める。
第1戦車師団(マンシュタイン師団)が正面を受け持ち、第2戦車師団(ロンメル師団)は回り込みを急速に行う。
絶望的な状況に陥りつつある状況に、彼ら!がやってきた。
拡声器から音量全開の『ワルキューレの騎行』を流しながら、ヘリ部隊が現れる。
次々とロケット砲が火を噴く。
重機が唸り、バラバラと空薬莢を振りまきながら、旋回する。
戦車師団の歩兵は、RPG7風ロケット砲を担いで発射する。
辺りは、爆発と爆発と爆発にとり囲まれ、すでに飛び散る死体と、飛び散る死体が交差する。あってはならないような世界へと変貌していた。
辻大佐はドアガンナーとして、地上へと12.7mmの死をバラまいて「死ね死ね死ね」と呪文のように、狂ったように叫んでいた。
たった一人も生きて帰ることもできないような戦闘はすぐに終わりを迎え、部隊は、50Kmをあっという間に進み、市街へと突入した。
一斉に、りゅう弾砲の洗礼が街を包む。それほど大きくない街のあちこちに爆炎と黒煙が立ち昇る。
逃げ惑う市民をANT師団のヘリボーンが空中から狙い撃つ。
数時間で街は完全にがれきと化した。
生きる者全てが、殺戮され、証拠隠滅のため、火炎放射機を背負った兵たちが、生き残りを焼き殺していく。(隠れていそうなところに、火炎放射を行うのである、そうすると、焼け死ぬか、酸素不足で死ぬことになる)
一軒一軒、軒並みそのようにされていくのであった。
牟田口中将も恐れた作戦概要にはここまでがすべて作戦として書かれていた。
ただし、実際の詳細計画には、住民抹殺の部分は削除されていた。
すでに、本当の作戦が何で、どこまでがそうであったのか、実証は難しい。
そして、訴えるべき人間を一掃する作戦なのだった。
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