第9話 戦線

009 戦線


中国国内では、満州軍とモンゴル軍が猛威を振るっていたが、チベット軍もモンゴル軍に呼応する形で、四川省などを攻撃していた。


チベット軍にも日本製兵器が多数供給されていた。


中国への対抗手段として、頼もうと考えていた、ロシア公国軍は、クーデターにより分裂していた。


海軍は高野の卑怯な手で接収されたのである。

大公を助けたことにより、海軍を全て譲り受ける。さらに、朝鮮半島も譲り受けることになる。(アレクセイ大公が同意させられた)このことにより、日本と満州はつながる。


クーデター派のニコライ2世とロシア陸軍第2軍団(ウーランゲリ将軍旗下)は、オムスク近郊で、公国陸軍第1軍団(ミハイル元帥旗下)とにらみ合いの状態となっていた。


第1第2軍団とも同じような実力があったものの、空軍(陸軍航空隊)はミハイル側についていたため、第2軍団は苦しい戦いを強いられていた。


空軍の兵士の多くは、日本で飛行技術を学んだ者が多かったので、親日家のミハイル・トハチェフスキーにつくことになったのである。


「元帥、如何いたしましょう」

天幕の中で参謀が聞いてくる。

どうするもこうするもない。

トハチェフスキーは考えていた。

第2軍団のことではなく、親友となったある男の事である。


ロシア公国は、ロシア革命のロシア王家の救出から始まる。


親友となった彼は、なぜかロシア王家を監禁場所から救出する。

そのままいた場合は、おそらく殺されていたという。

その後、その娘の一人と結婚している。


王家の資金を使い、艦船の建造や港湾整備、工業化を日露で推し進めてきたのである。

次々と新たな発想で新兵器を開発してきたのである。

しかし、彼は、本当の最新兵器は、ロシアには見せなかったし、技術の開陳もしなかった。

これは、元皇帝の所為もある。元皇帝と九十九はことあるごとに反目しあっていた。


このような現在の事態を見越していたのかもしれない。

だが、それだけではない気がするのである。

そして、おそらくその自分の考えは当たっている。

そう、九十九はロシア公国の力を削ぎたいのに違いない。

現在ロシア公国は、シベリアからウラル山脈東部までの巨大な版図を獲得している。

そして、陸軍もかなり強力になりつつある。

兵士数こそすくないが、兵器は強力でよく訓練されている。


だが、この状態は、精強になった陸軍の半分が消滅することを意味している。

それどころか、第1軍団も大きな被害を受ければ、ロシア公国軍の大半を失うことになる。


すでに海軍はねじ伏せられて、接収されている。

その後、幹部(佐官以上)が銃殺されたという。

これは、いずれ海軍を背負う人材を抹殺したということであり、しかもこの太平洋戦争期間(前期)で日本人とともに艦船に乗り込み経験値を上げていた連中である。

練習10日より実戦1日を経験したほうがはるかに成長する。


その経験値の高い連中を全て粛清したのである。


しかも、艦隊は接収される。いずれ帰ってくるのか?

かえって来たとしても、艦隊を運用できる人間はいないのである。

「九十九、貴様というやつは」思わずつぶやくトハチェフスキーだった。


だが、事態は簡単ではない、ウーランゲリ将軍の第2軍団は第1軍団と変わらぬ規模をもった集団である。

下手をすれば相打ちになる。


「失礼します」そこに、情報参謀が入ってくる。

「なんだ」

「はい、暗号電文です、大日本帝国海軍中将、高野伯爵からです」


電文の内容は、「×月×日9:00に新兵器の実験を行うので、その隙に攻め込め」というものであった。

「日本軍は近くにいるのか」

「いえ、100㎞以内に日本軍はいません、飛行艇の部隊と爆撃機が爆撃に来るだけです」


「今度は何をするつもりか」

さすがに、第1軍団まで窮地に追い込むつもりはない様だ。ひとまずほっとするトハチェフスキーだった。


×月×日明朝、爆撃の音が響いてくる、「よーし、前進用意」


「定時の爆撃より激しいな」

塹壕の中にいる兵士たちは思った。

戦車も塹壕の中に隠れている、こうすることで爆弾の威力を無力化できる。

いつも、爆撃されているので、慣れがある

しかし、その定時爆撃よりも今回はかなり航空機を増やしているようであった。


猛烈な爆発の火球が発生する。

しかも次々と、ヤバい奴である。

「新型の爆弾!」

大火球の後は、嫌なキノコ雲が立ち昇る。


サーモバリック爆弾があちこちに火球を作り上げる。

この爆弾では戦車を破壊することはできないが、兵士はほぼ確実に殺すことができる。

戦車の搭乗員は下手をすると酸欠で死ぬことになる。

戦車のエンジンも止まってしまう。

辺りの酸素を全て燃焼しつくすためである。


だが、爆発のおかげで、風も起こるため、空気はすぐに入れ替わるので、ある程度酸素があれば大丈夫である。


「仕掛けて来るぞ!」隊長が無線で声を上げる。

おそらく、トハチェフスキー軍団が攻撃に来る。

だが、塹壕から出れば、戦闘機の餌食になりかねない・・・

非常に苦しい戦いである。


そんな時、聞きなれぬエンジン音が聞こえてくる。

なんだこれは?

ハッチを開けるのは本来、違反行為であるが、車長はハッチを開けて見回す。

そこには、見たことのない形状の飛行物体が数十も浮かんでいた。


「敵だ、後方、上だ」車長は備え付けの、ブローニングM2重機に縋り付いて回転させる。

その動きを見ていた、『パイソン』の回転式機銃も車長に向けられる。


ブオオオオ!


車長は人間の形を破壊される。

同時に、ハチハチ(日本名88式戦車)も爆発した。


地獄のような光景が展開される。

機銃陣地や高射砲は爆撃で破壊されていた。

そして、戦闘機よりも低速だが、奇妙な機動を行いながら自分の優位な位置へと動き、ロケット砲やガトリングガンをぶちかます攻撃へり『パイソン』は戦車にとっては死神だった。


全く歯が立たないという表現がピッタリだった。

・・・・・

「戦車軍団に対して、攻撃ヘリの実験は上手く言った様です」

「そうか、では手はず通り、豪州方面へ向かわせよ」

「は」


親衛隊攻撃ヘリ部隊は、風雲急を告げる、オーストラリアへと輸送されることになる。


オーストラリアでは、帰ってきたオーストラリア師団、ニュージーランド師団を中核に、オーストラリア西部奪還作戦が始まっていた。


そこで日本軍として戦っているのは、あの超兵部隊と高砂部隊、ニューギニア兵部隊。

そして、国土防衛のために、アボリジニ師団も戦っていたのである。


大英帝国諸国に反日の動きが活発化したことを受け、インドでは、チャンドラ・ボースが上陸し、インド国民軍が結成されレジスタンス活動を開始する。


大日本帝国は米国の奇襲から2か月が過ぎようとしていたが、当初の大混乱状態を何とか抜けることができた。


中国からの爆撃機はほぼ全て撃墜することができたため、本土爆撃の脅威はなくなった。

ロシア公国艦隊を封じたため、本土への攻撃を阻止できた。

満州国の危機は、戦車師団(マンシュタイン師団、ロンメル師団)の活躍?のおかげで追い返すことができた。(満州軍、モンゴル軍、チベット軍が中国軍を壊滅させるため、中国国内へと逆侵攻したため、満州ひいては日本は相対的に安全になった。但し中国本国内では、虐殺事件が多発しているらしい。)


ロシア公国内では、第2軍団が壊滅し、親日派の第1軍団が勝利し、クーデターの首謀者、ニコライ2世は逮捕され、イパチェフ館へと幽閉される。コルチャーク将軍は戦死、ウーランゲリ将軍は逮捕後、処刑された。


ロシア方面も安定したので、危険度が下がった。


現在は、オーストラリア方面の制圧作戦とインド方面の支援が必要な局面へ変化していた。

中国逆侵攻作戦を完了した戦車師団はオーストラリアへと転戦していくことになる。



しかし、米国に対する準備は未だ手つかずの状態となっている。


一方、米国からの超巨大爆撃機(B36と推定される)による奇襲空爆は行われたが、オアフ島真珠湾に停泊中だった帝国空母機動艦隊は、損害を出したものの本国へと退避が済み、修理を開始している。


ハワイ島航空基地も爆撃にさらされたものの、いち早く大空へと逃亡していたため、基地で撃破されたものは少数である。


第2回,第3回と爆撃は行われたが、逆に迎撃を受け、爆撃機は次々と撃墜されることになる。


基地に配備された、対空砲陣地(88mm対空砲等)は強力であり、また新兵器、地対空ミサイルも超巨大爆撃機を撃破していた。


ハワイ方面では、このように膠着状態に陥っていた。


アリューシャンのダッチハーバー基地も同様に、膠着状態に陥っていた。






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