第7話 コントラバスケース

007 コントラバスケース


もちろん、コントラバスケースの中には、人間がいた。

それどころか、搬入した木箱の中にも人間が隠されていた。


それらは、富嶽への格納庫搬入後、直ちに、開封されコックピットの端の方に乗せられる。

おかげで、広くもないコックピットに人が溢れる事態になってしまった。


その人間たちは、残念ながら、我らの中将殿のためのドイツ人美女ではなかった。

ある意味、婦人も少女いたため・・・・そういう趣味なのか?


いや違う彼らは、人質たるべき、ロンメル、マンシュタインの家族だった。

ヒトラーは容認したが、親衛隊は家族を残すように命令したのである。

だが、この男はその命令を無視し、家族の逃亡も手助けしたのである。


曰く、日本には、ドイツ人村があるからそこで暮らせばいいと。


仙台、札幌には、ドイツ人街が存在した。

主に、ルドルフ氏を祖とする集団の一族とリヒトホーフェン氏を祖とする集団の一族である。


同様に、ロシア人の一族は仙台、札幌。アメリカ人の一族は新潟に存在したという・・・。


オムスクに到着した一行はシベリア鉄道によりウラジオストクを目指す。


其の汽車の中で、ドイツ陸軍の軍人と帝国海軍の軍人が相談していた。

「窮地をお救いいただいたことにはお礼を言わせていただく、しかし、我らはドイツ国防軍です、そのことはご理解いただきたい」貴族たるマンシュタインが威厳をもって言う。


「勿論です閣下、私は、わが帝国の手先となっていただくためにお呼びしたのではありません」


車両一両が丸々彼らの客車にされていた。

車両の入り口にはロシア公国の兵が銃を構えて立っていた。

勿論、ドイツ軍が戦っていた相手は、ソビエトでありロシア公国とは違うが元は同じロシア人である(詳しくいうと若干の相違があるようだが)。


「我が国は今、米国と休戦し、それ以前には英国とも休戦しております、しかし、遠からず、米国は、また戦争を仕掛けてくる可能性が高い。」


「そこまでわかっていながら、なぜ休戦したのですか?」


「たとえ短い休戦だとしても、平和が欲しかったのです、また、うまくいけば本当に終戦が可能かもしれないと考えました」


・・・・・

ある時期までは、その作戦は上手く進んでいた。

トルーマン大統領は完全に心が折れた状態になっており、自室に閉じこもることが多くなった。もちろん、戦争などはやめると言い出していたのである。


だが、自室にこもることをいいことに、周囲の人間たちは、自分たちが都合のいい方向に、誘導することを開始したのである。


その最たる者がスチムソンであった。

彼は、他の側近らとともに、偽トルーマンとなり、次々と戦争再開に向けた準備を指示し始めたのである。(勿論、この動きは日本では知る由もないことであった。)


だが、この考えは大いなる災いを呼び起こすことになるとは、当時の彼らは知る由もなかった。

・・・・・


「で、我々は誰と戦うのかね」とロンメル元帥。


「両元帥閣下は、教導官としてお迎えしたい。勿論、わが国の敵国たる米国やそのほかの国と戦うことに問題ないのであればですが」


「うむ、我々は先に言ったようにドイツ軍人であり、無暗に戦うことはできない、信条的にはナチスはともかくドイツ国防軍と戦うことはできない」

「承知しております」


「そこで、わが帝国の機械化部隊の教導をお願いしたい。閣下らに指導をうければ、わが帝国陸軍はアジア方面最強の戦車師団となるでしょう」


「そうかもしれない、そうでないかもしれない」とロンメル。


彼は、始め、日本行を渋っていた。

そもそも、暗殺計画には関与していないからである。

しかし、この男が目の前に現れて『見せられた映像』では、彼は家族のために服毒自殺をする羽目に陥っていいた。


名誉ある軍人として死ぬか、反逆者として処刑されるか、選べと選択を迫られた結果であった。


「まあ、どうせ本国にはかえれまい、ロンメル君、我らは、給料分の仕事をせねばならないだろう」貴族出身のマンシュタイン元帥はそう言った。


彼らにとって、これは、左遷なのであった。


こうして、休戦直後、帝国軍の戦車部隊(機甲師団)はドイツでも有数の有能な指揮官のもと猛訓練を受けることになったのである。


・・・・

第1戦車師団は通称マンシュタイン師団、第2戦車師団はロンメル師団と呼ばれるようになる。

満州の砂漠地帯で猛烈な訓練が行われる。


はじめ、二人の元帥はあまりやる気がなかった。

彼らは、満州国も日本だと勘違いしている。


そもそも、日本という国もよくわからないし、戦車を作れるとは思っていなかったのである。ゆえに歩兵の戦術を教えるのかと思っていたのである。


だが、日本の戦車は、下手をするとドイツ軍のものを超える強さを持っていた。

戦車砲は88mm対空砲(いわゆるアハトアハト)を改造し、1000馬力のディーゼルターボエンジンを搭載、車体は現代戦車のフォルム(10式戦車を元にする)をしており、ブローニング機銃がついている。通称:ハチハチ式戦車と呼ぶ。

しかも装甲には、鉄と鉄の間にセラミックが挟まれている、いわゆる複合装甲の走りであった。


戦車に通じた整備兵が常に大量に駐在し、メンテナンスを行い。

戦車輸送用のトレーラーまであった。


特に彼らを驚かせたのは、カチューシャロケット砲とRPG7風の対戦車ロケット砲であった。


彼らはそのおもちゃに非常に興味をそそられ、一日中、戦争ごっこをして暮らしたのである。


しかも、あーしろ、こーしろなどと、意味不明な命令が一切ない素晴らしい、純粋な遊びの場であった。


そんな遊び場に、同じドイツ人と仲の悪いロシア人達も加わった。

今度は、航空機も入れた立体的な作戦の演習であった。


しかも、そのロシア人が作ったと言われるヘリコプターは極悪だった。

まさに、戦車の敵と言うのが最も適切な表現だった。

ロケット砲は撃つわ、爆弾は落とすわ、ガトリング砲はばらまくわで、戦車軍団はきりきり舞いさせられてしまった。


すでに、通称:UH60と戦闘ヘリAH1S『パイソン』(コブラに似たヘリ)は開発され、量産ラインにのせられていたのである。名称のつけ方は謎仕様であった。


「ぜひとも、これを我が祖国へと送ってほしい」

「無理です」

「これで勝てる!」

「ダメです」


ドイツ人とロシア人の言い合いが続いたという。


こうして、何処の戦場をイメージしているか不明だが、戦車軍団を基幹とする機械化師団が攻撃、進行する作戦プランが着々と練られていく。


本当に、戦争などおこるのだろうか?

だが、訓練に当たっている者たちは、十分に楽しいひと時を過ごすことができたのであった。だが、彼らの内、上級将校が着ている軍服は黒を基調としたものであり、明らかに日本軍ではなかったし、ドイツの両元帥は、その制服には嫌な思い出が蘇るような軍服ではあった。


シコルスキー博士のヘリ(回転翼機)とコロリョフ博士のロケット(噴進)技術がまさに極悪に結合して極悪仕様の機械化師団が構成されていったのである。








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