第6話 ワルキューレ作戦

006 ワルキューレ作戦


ドイツ国防軍の大佐何某は、特殊作戦の遂行を託されていた。

そもそも、ドイツ帝国では、国防軍が正規軍として存在するのだが、ナチス親衛隊という特殊な軍隊が存在する。ナチス親衛隊は、ナチス党の私設軍隊であったのだが、今やその勢力は通常の軍隊、国防軍の其れよりも良い装備を備える軍隊である。


通常の軍隊であればそれほどの問題も無かろうが、彼らの行うことは、民族虐殺や抹殺などという非常にヤバいことが事業の主力である。


ゆえに、国防軍には親衛隊へのアレルギーが強い。

そして、その主導者はアドルフ・ヒトラー(ナチス党党首)である。

当然、今までにもクーデターを興し、政権を替えようという動きはあったが、勝ち戦の常識として、勝ち馬に乗ることは非常に重要である、ゆえに今までは成功していなかった。


そう、大日本帝国が休戦するまでは・・・。


何某大佐は常に爆弾の入ったアタッシュケースを持っていた。

彼は、実戦において、負傷し、障害を持つことになったため、後方勤務に回ったが、その経歴ゆえヒトラーとの会議にも出席することが許された人物であった。


彼の作戦実行とともに、国防軍が同時に親衛隊の主力を抑え込む必要があり、タイミングが重要となっていた。


つまり、彼には協力者が他にも複数存在するということである。

彼は、実行犯にしか過ぎないのである。そして、その爆弾とともに死ぬ。


そして、最高のタイミングとは、ヒトラーと親衛隊隊長のヒムラーを同時に抹殺することができる瞬間ということである。


ラステンブルクの総統大本営「ヴォルフスシャンツェ(狼の砦)」の作戦室に主要な人物が集って来ていた。

この時何某大佐も例のアタッシュケースをもって参加していた。

この日は、幸運なことに、ヒトラーもヒムラーも参加することとなっていたのである。


彼は、同志に連絡をとり、命を棄てる覚悟を決めたのである。

勿論、同志(作戦の主導者)たちは、親衛隊の制圧の準備を進めるのである。


アタッシュケースには、時限装置が仕掛けられており、30分後に爆発することになる。


会議時間が過ぎても、ヒトラーは現れない。

後20分程度で爆破する。

何某大佐は内心、失敗したと感じていた。

しかし、ヒムラーはすでに着席しているため、奴だけは血祀りに上げられる。

其れだけが、救いだった。


そんな時、ヒトラー総統の来室が告げられる。

何某大佐は内心、快哉を叫んだ、『神よ!ドイツに救いあれ!』と。


「入る、ヒトラー!」

いや、「ハイル、ヒトラー」

皆が、直立し、独特の敬礼(唱和)をする。


ヒトラーが独特のオーラを放ち入ってくる。その後ろに見慣れぬ軍服を着た長身の男も一緒に入ってきた。


「皆、本日は、我々の友人に皆の活躍の姿を見せようと連れてきた」ヒトラーは珍しく上機嫌である。


「皆さま、ごきげんよう、私は大日本帝国海軍中将の高野です、お見知りおきください」

男は、流暢なドイツ語で挨拶した。


「彼は、ドイツの危機を救うための秘密兵器の設計図を持ち、やってきてくれたのだ、皆、彼が私の友人であることを肝に銘じてくれ」


重爆撃機と戦闘機の設計図を余程気にいってくれたのであろう。

後ろに控えるゲーリングもニヤリとしている。航空機の管轄は彼である。


何某大佐は、ゲーリングもまとめて始末できるとこちらもニヤリとしたのである。

ゲーリングもナチス党員である。


あと10数分で爆発する。


日本人の椅子が用意され、全員が着席し会議が始まる。

勿論みなドイツ語だが、日本人は全く問題なく聞いているようであった。


『あんたも道連れだが、天国で謝るよ』何某大佐は始めてみる日本人に心の中でつぶやいた。



しかし、日本人は此方を見て、ニコリとほほ笑んだのである。

どっと、冷汗が背中を流れる。

なぜか、ばれているのではないかと思えてしまった。しかしそんなはずはないと思い直したのである。

それに、この時限装置はスタートさせると止めることは不可能である。

分解すれば、止められるが・・・今ここで開ける訳にも行かない。


ついに、残り時間が数分(厳密にはわからない)になった。


「では、私は次の予定があるので、作戦会議は君たちに任せる」唐突に総統が宣言し立ち上がる。

全員が直立し、帰る、ヒトラーではなく、「ハイル・ヒトラー」と唱和する。

メッサーシュミットの工場に日本人を連れていくためであった。勿論、ここにいる連中はそんなことは知らない。


あと少しなんだよ!何某大佐は悪態をつく。

「マインヒューラー」

「なんだ、何某」

「少しお話を聞いていただきたいことが」

「また今度にしなさい」

総統、ゲーリングその横に、日本人が立つ。


「いえ、今度では困ります」

「無礼だぞ!」ゲーリングが激怒する。


その時、アタッシュケースも激怒して爆発したのである。


ドカーン

爆発の閃光と衝撃が俺を襲う。

まさかの暗殺計画かよ!自分が襲われた時の記憶が蘇る。


自分と前のヒトラー、ゲーリングを巻き込みながら吹き飛ばされる。

普通の人間と違うのは、ひそかにバリアーをまとっている事であろうか!


しっかりと、ヒトラーを抱きながら部屋の隅に飛ばされる。

爆風が背中の上を通過する。

そのあとは、がれきがのしかかってくるが、下にヒトラーがいるので、驚異的な筋力で守ってやる。


耳がキーンとなって音が聞こえないが、くそ!この野郎!とののしってやる。

重たい柱を「ガー」といって跳ねのけて立ち上がる。

「げほげほ」埃にむせながら、「総統をお守りしないか!愚か者どもが!」

そういいながら、倒れていたヒトラーを引き起こしてやる。


「総統閣下!大丈夫ですか!」と大声で怒鳴る。自分も耳がいかれているので大声になっているのがわからない。

ヒトラーは血の気こそ引いているが怪我はしていないようだ。埃で顔が白くなりゲホゲホしている。


「おお、高野、君が身をもって我を守ってくれたのか!」

「ドウ ハスト レヒト(その通りです)」


辺りは、ほぼ全員が死んでいる状態である。

史実では、威力が減殺されたようで、死ななかったようだが、今回は完爆したようだ。

ゲーリングも俺のバリアに守られた形になったのか、生きていた。死ねばよかったのに!

と思いつつ、埃を払う俺だった。


何某大佐も爆死していた。

ヒムラーも爆死していた。



こうして、ヒトラー暗殺は失敗に終わった。

他の人間は全て死亡したがな。


次々と暗殺計画に関連した人間たちが逮捕されていく。


俺は、ヒトラーを救った英雄として、勲章を授けられる。

ダイヤモンド付き柏葉何とか勲章をいただく。大変名誉なことらしい。


「君の英雄的行為に報いるために、何かお礼をさせてくれ、何が欲しい」

ヒトラーは上機嫌だ。


「総統閣下をお救いできて光栄です。勿論何もいりません。」

「しかし、それではあまりにも私が恩知らずになるではないか」


「そこまでおっしゃってくださるならば、今、捜索対象者になっている、ロンメル元帥をアジアに派遣していただけるとうれしいです」これは、この男が当初の目的としてドイツにやってきた理由であった。


さすがに、暗殺計画を阻止して恩を売るというのは予定になかった事である。


「しかし、犯罪に関与した可能性が極めて高い、処刑する予定だ」

暗殺計画に関与した人物の部下がロンメルの実家を訪れていたという。

「閣下、其れです、まさに、犯罪に関与しているなら、近くにおいておく訳には行きません。しかし、彼ほどの才能がある人間もまためずらしい、そこで、アジアです」


「アジアで活躍し、後に連合軍を苦しめることになれば、お互いにウィンウィンの関係がなりたつのではないですか」

ヒトラーはしばし考えてからこういった。

「わかった。良かろう、君の望みをかなえる」

しかし、妻子は人質としてドイツにおいておくということで決まる。

罠に嵌った狐は何とか救い出されたのである。


そして、同様な理由で左遷されるマンシュタイン元帥もアジア派遣が決定する。

暗殺計画を察知しながら、黙認したのではないかという疑いがかけられたのである。


ベルリンの空軍基地の飛行場では、富嶽に次々とドイツ土産が入れられていく。

勿論、来たときは日本土産を満載していたので、お返しと総統救出の功績で品物は一杯である。

その荷物の中には、ロンメル、マンシュタインの2大元帥が搭乗者として存在する。


「これはなんだ?」

勿論、それはコントラバスを入れるケースである。

「ああ、君、私は大日本帝国の高野だ、知っているか?」

そこに、声をかけてきたのは、総統閣下を、身を挺して助けた英雄である。

「ジーク・ハイル!」

なぜ日本人の私にジークハイルなのか不明であったが・・・。

「これは、有名な楽器をいただいたのだ、確か、コントラバスというのか?」


「そうなんですか、しかし、なぜ何台もあるのですか」


そう、コントラバスだけで5台もある。

「ふん、なかなか良い楽器なのだ、ベルリンは音楽の都だからな」


そういって、俺はその兵士にドイツマルクの紙幣を握らせる。

「君、この楽器はな、非常にいい声で鳴くのだ、わかるか、いい声で鳴くのだよ。私は楽器をこよなく愛する人間なのだ、わかるな」とドイツ語で詰め寄る。


つまり楽器ではなく別物が入っている(美女)が、詮索するなと婉曲えんきょくに言ったのである。


「は!閣下、わかりました、閣下は音楽をこよなく愛しておられるのですね」

「うん、そうだ、わかってくれたか、これで皆と私のために飲んでくれ」

もう一握りの高額紙幣を握らせる。


「英雄、高野中将万歳!」

ドイツ兵は、独特の敬礼をした。

周囲の兵士たちも唱和する。






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