第5話 砂漠の狐狩り

005 砂漠の狐狩り


少し時間はさかのぼる。


1944年10月、日米は太平洋戦争において休戦した。

そしてそれは、ヨーロッパ方面において、連合軍側がドイツ帝国枢軸に対する反撃を行う余力が生まれたということを意味する。


それまで連合軍はそれだけ追い詰められていた。

英国は一部でドイツ軍に上陸を許し、アフリカ方面でも苦しい戦いが繰り広げられていた。


しかし、米国がヨーロッパ方面に集中して参戦することにより、風向きが一気に変わり始める。


圧倒的な物量が、英国に流れ込み、瞬く間に英本土からドイツ軍が駆逐される。

アフリカ方面でも、次々と新戦力が上陸し始める。

英本土の防空も、米国からの戦闘機群の供給により各段に安全度が上がる。


一方、数的不利を戦術でカバーしてきたドイツ帝国の砂漠の狐も数による物理的な猛威に苦しみ始める。

勿論、イタリア軍は真っ先に壊滅してしまった。


北アフリカで徹底交戦していたロンメルは本国への増援を要請していたが、なかなか返事は来なかった。

幸いにも東部戦線では、ロシア公国の存在のおかげで、ソビエト軍をついに蹴散らし、ウラル山脈へと追い込み、余力はできたはずである。


そんな時節に不運にも、ロンメルは敵の攻撃を受け負傷する。

一旦、治療のために、本国へと帰還することになったのである。


このころのロンメルはすでに元帥となり、国民的な人気をもつ将軍になっていた。

そして、好事魔多しというのであろうか、ある事態に巻き込まれることになる。


彼は治療のために帰った実家にいた。

しかし、治療中にもかかわらず、次々と将校がやってきた。

そして、明らかに何かに誘ってきているのである。なんともきな臭い。


勿論、頭の切れるロンメル元帥である。ヒトラー暗殺計画が動いていることを洞察する。

そもそも、以前からドイツ軍人は、ナチス親衛隊のやり方にうんざりしていた。

だが、今までは勝っていたので表面化してこなかっただけなのである。


ここで説明しておくが、ナチス親衛隊というのは、ナチス党という政党の私設軍隊である。

ドイツ軍というのは、ドイツ国防軍のことである。そして、私設軍隊、ナチス親衛隊の方が、国防軍よりも幅を利かせていたのである。


日本が休戦したことで、米国がこちら側に全力で向かってくることは明らかであり、事実そうであった。


英国で上陸部隊が駆逐され、ドイツ本国にも、米国製の重爆撃機が多数来襲するようになっていた。

自分のいたアフリカ方面でも、米国の戦車部隊が増強されている。

しかし自分はドイツ軍人である、ドイツのために戦わねばならない。

彼は誘いを断った。

だが、通報することもしなかった。

彼らが行っていることは許される事ではない。

ロンメルは痛む頭がさらに痛んだ。


・・・・・

そのころ、空路ベルリンを訪れたB29に非常に似た爆撃機があった。ドイツ方面ではB17が主力爆撃機であり、B29とは認識されていないのだが。


これは、大日本帝国の『富嶽』爆撃機である。B29に非常によく似ているが富嶽であった。

迷彩の翼には、日の丸が描かれている。最たる違いはウィングレットのあるなしと、見てくれにあまり違いはないが、ターボプロップエンジンを搭載している。


米国のB29ならば、銀色で星印であろうか。

ただし、この配色は、優勢地域で見方からの誤射を防ぐための色彩である。


その飛行機には、日本の海軍の中将が乗っていた。

高野九十九中将である。


出迎えには、なぜかゲーリング空軍元帥とエルンスト・ウーデッド上級大将がいた。

なぜ海軍軍人の出迎えが空軍なのか、その場にいた者たちは、そう思ったに違いない。


この時、史実ではウーデッドは自殺していたのだが、バトルオブブリテンで勝利したため、まだ生きていたのである。しかし、徐々に追い詰められてはいた。米国空軍のおかげで、うまくいかなくなっていたのである。

おかげで、顔色はすこぶる悪い。


「これは、元帥閣下、わざわざお出迎えをしていただく必要はなかったのに」

「何をいう。貴様には直接文句をいう必要があったのだ」ゲーリングは憮然とした表情である。

「おお、怖い!何をそんなにお怒りなのでしょう」

「とりあえず此処ではまずい、OKL(空軍司令部)に行くぞ」


そうして俺は、ゲーリング旗下の親衛隊に引きつれられて、自動車に乗せられOKLへと連行されるはめになった。


会議室に軟禁される。

「貴様ら!なぜ勝手に戦闘を止めたのだ!」開口一番真っ赤になったゲーリングが捲し立てる。

「休戦しただけですが」

「なぜ勝手に休戦しているのかと聞いているのだ!」

「なぜ?」

「なぜだ!情報によると貴様らは圧倒的に有利であったはずだ!」


「有利なうちに休戦する計画であったからです」

「馬鹿な!そんなことが許されてたまるか!」ゲーリングが唾を飛ばす。

「しかし、我が国には、資源も燃料もないのですよ」

「嘘をつくな、資源も燃料も確実に本国に輸送できていたはずだ!」

そう、史実では、次々と潜水艦に輸送船が撃沈される予定!だったのだが、この時間軸では、海軍の護衛艦隊、そして対潜哨戒機などが徹底的に駆潜を行っていたため、太平洋海域に、米軍潜水艦はほぼ存在しない状況となっていたのである。


恐るべきドイツ情報部!いやナチスなのか!

「いいか、連合軍は遠からず、貴様らに攻撃を再開する。もうひと踏ん張りしていれば、我らが、イギリスを陥落させていたものを!」


全くその通りである。

ドイツが英国を占領するのは時間の問題だったのである。

すでにヨーロッパには、ドイツに反撃できる国は英国ぐらいである。

この時期、ソビエトもドイツ軍に押しまくられていた。

このままでは、ソビエトが壊滅し、ロシア公国と戦端を開くかと思われた。


そして、ソビエトに疲れたドイツ軍とロシア公国が戦闘を開始すれば、ロシア公国軍が圧勝する可能性があった。そうすると、ロシア公国はかつての巨大な国に戻ってしまう。


だが、其の深層を読んだのか、先に動いたのはロシアの元皇帝であったのだがな。


「我々にも考えがございます、陛下エンペラーのお心をおもんぱかっての事なのです、同盟国でもない貴国に言われる筋合いはございません」


「後悔することになるぞ!」

「もはや、休戦協定は結ばれました」

「はん!我らが、日本に到達すれば、殲滅してやる」


「その時は、御相手しましょう」


「だが、そんなことは言っても仕方がない事だ、今回は何のために来たのだ?」

ゲーリングの切り替えは早い。


「はい、はっきり言って、まさに元帥のおっしゃる通りになるかもしれません」

「愚問だ、すぐにそうなるであろう、東海岸では、空母が建造されている、パナマも修復されておる。あと一年で貴様らはまた戦争を始めることになる」

ゲーリングが不吉な予言をしたが、まさにそうなるのである。


「閣下のお力で、米国をとめていただきたいものです」

「馬鹿野郎!貴様らが手を抜いたせいで、英国からはじき出されたのではないか!」



「お詫びと言っては何ですか、今度帝国で開発された新型戦闘機の設計図をお持ちしました。

Ta190(史実におけるFw190に似た戦闘機)です、貴国の技師クルト・タンク氏によるものです、あと、此方の要求を聞いていただけましたら、新型爆撃機富嶽の設計図もおいていきましょう」

「あの、4発爆撃機か!」

「はい、これは帝国の技術の結晶です。これで米国の東海岸を爆撃していただけば良いのでは?」(飛距離的には無理なのだが)


「丁度そのような爆撃機が欲しかった所である」

「ただでとは行きませんが!」


「貴様は昔から、商人のような事ばかり言っているな、ユダヤ商人の血を引いているのではないか?」これは、収容所に送るぞという脅しである。


「ははは、私は昔から会社を経営しているので商人で間違いありませんな。にしても、貴国のそのやり方には、問題がおおいのではないかと愚考いたします」


「親衛隊が喜びそうなこと言っているが、会いたいのか?紹介ぐらいしてやるぞ」


「いえ、喧嘩をしても勝てそうにありませんので、止めておきましょう」


「で!条件とは?」


「はい実は・・・・」


・・・・・・


目の前には、あのアドルフ・ヒトラーがいた。

おお!持ってきたライカで写真を撮る。一緒の写真も撮ってもらう。


「貴様、総統閣下に無礼であろうが!」ゲーリングは怒っているが、ヒトラー総統は機嫌が良かった。


Ta190がかなり使い物になりそうであった。

そして、爆撃機富嶽(4発爆撃機はぜひとも必要だった)の設計図である。

これで、英国と米国を爆撃できる。

で作れるのであるから、ドイツでは簡単に作れるはず!

エンジンは、なぜかB29と同じ、4列28気筒星型エンジンを採用することになっている。

帝国では、ターボプロップエンジンであるがそこは、極秘である。

そういう意味ではさらにB29にちかづいたのでは無かろうか?パクリだが。


高野がだした条件というのは、ロンメル元帥の日本派遣である。

戦術の天才で惜しい人材ではあるが、近ごろは国民的人気を博しており、総統府サイドとしては、若干邪魔になりつつあったというのが本当の所である。


ロンメルがアジアに行けば、B29が手に入るとは、ゲーリングも陸軍の戦力が削がれ、空軍の所管の爆撃機ができることはうれしい悲鳴である。


なんとしても、ロンメルをアジアに追いやらねばならない。

ゲーリングの胸中では決定事項であった。



こうして、『砂漠の狐』と呼ばれたロンメルは、自らの知らぬところで、包囲網が閉じられつつあった。




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