第3話 反撃の狼煙

003 反撃の狼煙のろし


「ですが、総帥自らが参られる必要は全くございません。」降下猟兵連隊の隊長(今回の救出作戦の)がいう。


小隊規模の部隊が救出を行うことになっている。


「それに閣下は降下演習を行っていないでしょう」心配そうな顔である。

「すまん、その通りだ、今から頼む」

短い時間で訓練らしきものが行われる。

降下した時の姿勢は、たとえ直立していても、この男は怪我一つしないのだ。

そう、たとえパラシュートが開かなくなくても、この男は生きているに違いない!


・・・・・

作戦は夜間降下から始まる。


C130が見幌の空へと舞い上がる。

迷彩色のC130を夜空で発見することは難しいであろう。

こうして『柏作戦』が開始された。


もちろんレーダーが発見しても、この空域には、敵味方が入り乱れている状態であり、攻撃することはできない。ロシア国内は旧皇帝派と大公派が入り乱れている状態である。

しかし、旧皇帝派は、駆逐されつつあるが、大公派は大公を人質に捕られているため決定打を打てないでいる状態である。


なお、俺が殲滅せんめつを決定すれば、皇帝はすぐにあの世に逝ける態勢は整っているが、アレクセイがどうなるのか不明のため、決定は延期されている。


『降下10分前』機内アナウンスが流れる。

装備の点検は、隊長が直々にしてくれてあった。


降下5分前には、後部ハッチが開いていく。


真っ黒な夜の闇の世界が広がっている。


『降下3分前』


「おらー行くぞ!」隊長が喚く。


全員がワイヤーにフックをひっかけて待っている状態である。


『降下!』室内にあるランプがグリーンに変わる。

「降下、降下、降下、いけ!いけ!いけ!」


そうして、俺は、意味もわからず、夜の暗闇の中へ走り出た。

「うひょっ!」思わず変な声が漏れた。

風切り音がヒュウヒュウとし、風圧がすごい。

暗闇しか見えん!上下もわからんぞ!


アバチャ湾の海軍基地の明かりが見える。

目標の屋敷は灯火管制を行っているのでおそらく見えていないであろう。


本来は、着地の瞬間に転がるが、問題なく着地した。

隊長が素早く、俺を見つけて、パラシュートをはずしに来てくれる。

もはや、隊長の任務の目的は、いかに俺を無事に送り返すかになっているのではないだろうか?


「隊長、私のことは大丈夫だ」

「勿論です、私が死んでも守ります」隊長はおれの言うことを聞いていない。


降下した場所は、目的地から10Kmは離れている。

隊長は、すでに地図が頭に入っているのか、部下を集合させると、すぐに目的に向かって歩き始める。


今回は夜間任務ということで、最新鋭のスターライトスコープを装備している。

ツボルキン博士の赤外線管をさらに発展させ光電子倍増管が発明されたためである。

これを使えば、人間など熱のあるものが反応して緑に見える。


目的の夏の館は山の中腹に立っており、貴族の城のようだった。

つまり壁がある。

壁のその上に、警護の兵が銃を携行して、哨戒していた。


「ライフルマンA、位置につきました」

「ライフルマンB、同じく位置につきました」


無線から声が流れてくる。

隊長はどうしてもライフルマンCとして外側にいてくれと泣き落としにきたのだが、俺は断った。


「有栖川宮大将も心配だし、アレクセイの病状も心配だ、私のことは心配いらん」

「ですが総帥」昔から心配いらんという人間ほど心配しないといけない人間なのはどの世界でも変わらない。


だが、この男は本当に戦術核並みの攻撃力を持っているので、館にいる兵士全員を惨殺するぐらいのことは朝飯前に行うことができる性能を有していた。


「援護機銃も設置完了」


「良し、侵入を開始せよ」無線で戦闘開始が告げられる。


隊員たちは鉤縄を放り、ロープをよじ登る。

俺は、石垣の隙間に手を入れて、ズリズリと登っていく。

もはや、ホラー映画のような状態だ。


城壁の上に登ると、次々と惨劇が始まる。

ロシア人兵士は突然、闇から突き出た、脇差で腹を突き刺され、首を斬られる。

別の兵士はいきなり、首を絞められたかと思うと、グキリと脛骨をへし折られる。


隊員たちが静かに、城壁に侵入した時は、ロシア兵の最後の歩哨の首が跳ね上げられた瞬間だった。ごとりと首が廊下におちて音を立てる。


俺は何事もなかったかのように、城壁を飛び降り着地する。普通の人間では骨折確実の高さだ。

俺は、影のようにスルスルと館へと接近していく。


館は3階建てであり、一階の扉には、鍵がかけられている。

俺は、二階のバルコニーにヒョイと飛び上がり、手すりだけを片手でつかむ。

やはり、そのバルコニーにはロシア兵が隠れていた。

スルリと飛び上がると同時に、同田貫どうだぬきがロシア兵の喉を貫く。

バルコニーの窓から、侵入を開始する。


素早くうろつく死神が、影のように死を振りまいていく。

音もなく、辺りは一面血の海に変わっていく。男はすでに返り血で真っ赤に染まっていた。

赤い死神!それいいじゃね!という人間はいない。


三階に、アレクセイと有栖川宮大将の反応を確認する。

三階には、敵兵はいなかった。


「ハラショー」扉をノックする。

扉が開き、女性が出てくる。皇帝婦人であった。

「九十九!」

「おおー義母上ははうえ、お久しぶりですね」さすがに、顔の血はぬぐっていたのでわかったようだ。

「アレクセイの容態があまりよくありません」母親は心配げだ。

彼は、血友病の疾病があり、俺の治療を受けないと悪化する。

「早速診ましょう」

ベッドに横たわるアレクセイの調子は良くなさそうである。

隣の部屋にいた、有栖川宮大将も駆けつけてくる。

三階では割と自由にできる様だ。


「もうすぐ、部隊が突入しますので、こころづもりをお願いします」

そういって、アレクセイの側に行く。


「兄さん、申し訳ありません」

「アレク、悪いのは全てニコライだ、そしてそれをそそのかす者達だ」

「兄さん」

「心配するな、アレク、命まではとらない」

しかし、幽閉するがな。

『聖なる光』と呼ばれる謎の青い光がアレクを包むと、明らかにアレクセイ大公の顔色は良くなり、心地よいのか眠り始めた。


「アリス、此処は頼む」何処からともなく取り出した、ブローニング拳銃とウージ短機関銃もどき、果ては、村正まで渡し、この部屋の警護を任せる。


「さて、私は残敵を掃討するため、行く」その表情には、笑顔のような表情が張り付いていたが、勿論それは笑顔などではなかった。

そして、返り血の跡が、その笑顔もどきの表情をより残忍な何かのように見せた。


それは、死の暴風が吹き荒れる前の不気味な静けさのような雰囲気だった。


「これより突入を開始します」と隊長。

此方こちらは要人の無事を確認、2階の敵は掃討した、3階は、敵なし、2階から援護する」と俺。


もちろん、このような作戦経過をたどる段取りではなかったのだが・・・。


一階の窓の数か所から閃光手りゅう弾が投げ入れられ、爆発が起こる。

その間に、突撃隊は、扉をアサルトライフルで破壊し、突入を開始する。


玄関ホールでは、銃撃戦が展開される。

閃光と爆発、猛煙が辺り一面を埋め尽くすが、そんなものとは関係なく、ブローニング拳銃が火を噴く。

催涙弾も炸裂している様で、突撃隊は防毒マスクをつけての突入である。

ロシアの防衛隊も必死に応戦するが、閃光に眼をやられ、催涙ガスに眼と気管をやられていてはどうすることもできない。

そんな所に、真後ろの2階の階段の踊り場から、銃撃が襲う。


ダダダダダダダ、それはまるで機関銃のような連射だった。

ダダダダダダダ2斉射で14人が後頭部を打ち抜かれて即死した。


「人質を!」その時その男も頭部を撃ち抜かれていた。

おそらく人質を盾にしようとしたのだろうが、すでに遅い。


「敵殲滅完了!」

「各室を確認、人質の安全確保を急げ!」

「了解!」


かくして、柏作戦は無事に完了した。


辺りはまだ夜であるが、作戦成功の信号を傍受した空母からUH60ヘリが人質救出のために飛来し、俺たちだけ(人質と俺)が乗せられその場を後にする。

残りの小隊は、警戒しながら、脱出する段取りとなっている。


「総帥、では後程お会いしましょう」と隊長。

「すまん、隊長、私だけ先に失礼する」と敬礼する。

「お気を付けて」全員が敬礼で俺たちのヘリを送り出してくれた。


朝日が出るころに、UH60は巨大空母『朱雀』の甲板に着艦した。

さすがに、オホーツク海は荒れ気味だが、そこは巨大空母、びくともしていない。


救護の隊員がストレッチャーでアレクセイを連れていく。

母親も乗せようとしたが、自分で歩くようだ。


通称:高野艦隊の司令官は山口勇中将になっていたが、その山口”参謀”が走り寄ってくる。

「総長ご無事で何よりです」

「おお、参謀、よくやってくれた。とりあえず、一つ片付いた。」

「いえ、アバチャ湾のロシア艦隊に動きがありそうです」


通称:ロシア艦隊、かつて大連合艦隊第22艦隊として日本を支えた艦隊は、休戦とともにロシアに返還された。現在は本物のロシア公国艦隊となり、クーデター派のコルチャーク海軍大将が率いている。


大日本帝国は未だ、窮地を脱せずにいる。








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