第2話 混乱の極み

002 混乱の極み


ニューカレドニアで怒りに駆られていた男だったが、事態はより深刻な状態を呈していた。

緊急電を送ったはずだったが、此方に緊急電が送られて来る始末だった。


米国の長距離爆撃機(B29 と思われる)にハワイ島基地が爆撃され、真珠湾(オアフ島)も別働隊に攻撃を受け帝国海軍の空母がダメージを受けた模様。

ダッチハーバー基地も空爆を受けたらしい。

帝国本土も、中国から爆撃機が飛来し、各地が攻撃を受ける。

至急、本土に復帰されたし。

至急、軍務に復帰されたし。

悲鳴にも似た緊急電が次々に届く。


帝国海軍の機動艦隊が被害を受けたため、ロシア海軍に援軍を要請するように、命令を送り、男は、ニューギニア基地へと海鵬により向かう。


しかし、男がニューギニア、ポートモレスビー基地に到着した時、驚愕の報告を受ける。

ロシア海軍は協力を拒否、アレクセイ大公は軟禁され、実権はニコライ2世が握った模様。

クーデターが発生し、同時にウラジオストク訪問中だった、有栖川宮大将も拉致された様だ。


綿密に計画された反抗作戦のようだった。


米国西海岸に、太平洋艦隊が集結の動き有り。

パナマ運河が再建された模様。


中国国民党軍、満州国境に集結中。

侵攻の動きを見せている模様。


開戦以来、大日本帝国が最大の危機を迎えつつあったのである。


帝国海軍横須賀基地に到着。

そこには、高野親衛隊の黒軍服を着た者たちが整列し、敬礼する。

「総長、お帰りなさいませ」すっかり、副官が板についた、岩倉が声をかけてくる。

彼は、帝国本土で、高野グループの経営の総指揮を取っていた。


「岩倉よ、黒真珠をもってこようと思ったが、まだ無理だった。」

一年でそんなことができるはずもない。


「総長、そんな事よりも、すぐに海軍省に向かいましょう。情報は車内にてお話します」

事態は急を要していた。

・・・・

要約すると、国内各地に爆撃機は飛来したが、防空レーダーが早期に発見し、各地の防空隊が迎撃を行ったため、被害は最小限にとどめることができた。


真珠湾の帝国機動部隊の空母数隻に爆弾が命中し、大破した。

ハワイを爆撃したのはB29だが、それを迎撃している間に、より巨大な爆撃機が隙をついて攻撃を行った様だ。B36(ピースメーカー)ではないかとの予測が建てられている。


米国西海岸には、複数のエセックス級空母とアイオワ型戦艦が確認されている、これは西海岸を監視している潜水艦群からの情報をまとめたものからの推測であるとのこと。


ロシア公国内部では、クーデターが発生し、アレクセイ大公は拉致され所在不明、同時に、有栖川宮大将も拉致された模様。実権はニコライ2世が掌握、通称ロシア艦隊は、コルチャーク大将が指揮権を持ち、ニコライ2世側についているため、協力は拒否されている。

なお、ロシア艦隊にも不審な動きが見られ、帝国の港湾都市に攻撃が行われるかもしれない。


通称高野艦隊は、仙台港に入港中、出港準備を開始しているとのこと。

なお、高野艦隊の司令官は、山口勇(通称山口参謀)中将。

高野が予備役に退く時に艦隊を預けたのである。高野親衛軍の艦隊ということになる。


ミハイル・トハチェフスキー元帥の機械化師団はオムスクにおり、難を逃れた。

というか、ウラジオストクにいれば、クーデターは阻止されたに違いない。

トハチェフスキーはアレクセイ大公を人質にとられているため動きを牽制されているらしい。しかもウーランゲリ将軍が反乱を興し、トハチェフスキーと対峙する状態になっているという。

事実上、動きを封殺されている。


満州国境には、中国国民党軍が集結の動きを見せており、満州侵攻の準備に入っている模様。満州軍が迎撃の態勢づくりに入っている。


中国は、先の大戦中、米国の支援物資を受けることができない状態であった。

しかし、帝国も満州国境(万里の長城)以北にしかいないため、国民党対共産党の泥沼の戦いを繰り広げたが、情勢は国民党が有利に戦いを進めた結果、共産党は奥地へと追い込まれている様だ。

今回休戦中に、インド経由で、米国物資が国民党に送られていたらしい。


そもそも、日米が休戦したことで、米国は大西洋方面の戦いに集中することが可能となり、劣勢に立っていた連合軍に豊富な物資が集中的に投与され、上陸されつつあった英国からドイツ軍を撃退できた。


そして、アフリカ戦線でも、それは同じであり、徐々に連合軍が押し始めていたという状態になっていたのである。


だが欧州全体では、ドイツが猛威を振るい、ソビエトをウラル山脈まで追い詰め、巨大な帝国として未だ君臨していた。

未だにDデイは来ていない状態であった。来るかどうかは知らないがな。


・・・・

「高野予備役中将、ただいま参りました」

海軍軍令部総長室で、俺は、兄である山本五十六大将に敬礼する。

「九十九、ご苦労さん」

「はい、兄上、真珠養殖は道半ばであります」

「うん、真珠のことはいい、其れよりも、本日から軍務に復帰してもらう」

「わかりました」


「其れよりも、九十九、暗殺されそうになったと聞いたが、大丈夫だったのか」

「はい」そして、俺は暗殺未遂事件の内容を語る。


「30人以上の部隊に襲われて、傷一つ負わないとは、まさに天祐神助があったに違いない」

驚きの表情で五十六が言う。


高速で飛来する弾丸を人間の動きでよけることなどできないが、そんなことは話さない。

しかも、一発の外れもなく、暗殺者を次々とヘッドショットで撃ち抜いたなどとはとても言えない。

しかも、遠距離の狙撃手のスコープを貫通して撃ち殺したとかありえない。

暗殺者を乗せてやってきた潜水艦はニューカレドニア沖で発見撃沈している。

海鵬の磁気探知装置が発見し、爆雷攻撃で仕留めたものである。


統合作戦本部にはまだ、悲報が飛び込んでくる。

停戦、講和に至ったオーストラリアまでアフリカ戦線からオーストラリア師団を呼び戻し、奪還作戦に向けた準備を行っている気配がある。しかもニュージーランド軍付きとのことだ、彼方の神が帝国を滅ぼそうとしているかの動きが始まっている。


「皆さん、どうしました、元気がないようですが」いつもと変わらぬようだが、この男の雰囲気が少し違う。

「おお高野中将、現役復帰してくれたのか、良かった」と東條英機大将がいう。

「すまん、高野してやられた」と永田総理。


「まあ、大西洋の戦線が片付けばいずれ、このようになることはわかっていましたが、ここまでしてくるとは、さすがに米国。恐るべき力です」

「しかし、米国大統領のトルーマンは戦争をする気を失ったと聞いていたが」

「それは、周囲の人間が行えば問題ないでしょう」

要するに、PTSDのトルーマン大統領の代わりに周囲の人間が戦争指導を行っているのであろう。


「私の心がもう少し強ければ、このようなことにはならなかったかもしれません」

「いや高野君のせいではない、一人で背負込む必要はない。皆で地獄で詫びようではないか」乃木兄弟の弟がいう。兄がうんうんと頷いている。


「それでは、これからの対策会議を行おう」と永田鉄山総理が締めくくる。

皆の顔に少しゆとりが戻った瞬間だった。

事態は刻一刻と悪化してるのだがな。


「まずは、何はなくともロシア艦隊を取り戻す必要があるでしょう」

他人の艦隊を自分のもののようにいうこの男。調子が戻りつつある様だ。

「そのためにも、まずは、アレクセイ大公の救出が第一です。ロシア治安維持局にいる司馬からの情報を待っている状態です。居場所が判明次第。を開始します。」

「総長、かしわ作戦です」と副官の岩倉が訂正を入れてくる。

「そう柏作戦です」


柏作戦は、アレクセイ大公の監禁場所を発見した際に行われる救出作戦であり、高野親衛隊降下猟兵連隊がパラシュート降下による奇襲攻撃、救出を行うよう、準備が開始されている。


ついに開発がなった、C130輸送機(命名はなぜかC130ハーキュリーズ)からの空挺降下による夜間奇襲となる。



そしてその情報が届く、アレクセイ大公及び有栖川宮大将も一緒に、アバチャ湾の海軍基地に近い富裕商家の夏の別荘に軟禁されているらしい。


「さて、行ってきますか」

「おい、九十九」山本五十六大将がいう。

「何ですか兄上」

「まさかお前自分でいくとかよな」

「さすがにロシアなので、ですか。まあ、結構ある名前ですよね」

「そうでは無くて」


「もちろん、私の戦いですので、私が行くことになるのです。空挺降下演習は行っております」また恰好をつけて男だった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る