少年探偵ガジェット

加藤ゆたか

少年探偵ガジェットと助手少女ラヴ

 俺は少年探偵・青山一都かずと

 人は俺をガジェットと呼ぶ。

 なぜ、ガジェットかって?

 それは俺にしか扱えない秘密の探偵道具が理由だ。

 俺は今までその秘密の探偵道具『ガジェット』を使って、いくつもの難事件を解決に導いてきた。

 今では世界中に俺の名前は知れ渡り、事件解決の依頼が絶えない。

 そこで俺は探偵事務所を開設したというわけだ。



「ガジェットくん! 依頼が来ました!」


 ガラガラ!

 一人の少女が事務所の扉を勢いよく開けて入ってきた。

 彼女の名前はラヴ。本名は赤川愛子あいこだ。


「落ち着け、ラヴ。」


 ラヴは俺の助手少女だ。

 俺は飲んでいた牛乳をデスクに置いて、ラヴから依頼書を受け取った。

 ラヴは俺に早く読めと言わんばかりだ。

 ラヴはいつも元気いっぱいで、それがラヴの長所でもあるが、勢い余って勝手に突き進んでしまうこともある。

 はぁ。俺はため息をついた。

 ラヴをたしなめるのはいつも俺の役目だ。

 俺は依頼書の封を開けて封筒から取り出した。

 今日の依頼は何だ?

 未解決の殺人事件か?

 それとも、強奪された秘宝の捜索依頼か?

 俺の『ガジェット』に解決できない事件はない。


「ふーむ? これ、担任のめぐみ先生からだ。」

「えー? 今日も普通に学校で会いましたよね?」

「とにかく、久々の依頼だ。話を聞きに言ってみよう。」

「はい!」

「少年探偵、出動だ!」


 俺たちは職員室に向かった。


          *


 俺たちに依頼書を送ってきためぐみ先生は職員室にいた。


「依頼を受けてくれるのね。探偵クラブの青山くん、赤川さん。」

「先生。今の私たちのことは少年探偵ガジェットと助手少女ラヴちゃんと呼んでください。」

「ごめんなさい。ガジェットくんとラヴさん。」

「ラヴちゃん。」

「ラヴちゃん……。」


 俺は本題に入った。

 めぐみ先生からもらった依頼書には、失せ物探しとある。

 つまり、捜索依頼ということだ。

 いったい何を探してほしいというのか。

 依頼書には、それは直接説明するとだけ書かれていた。


「こんなこと小学生のあなたたちに頼むなんて。でも困ってしまって。」

「大丈夫です、先生。私たち、来年には中学生です。」

「それで、無くなった物というのは?」

「これよ。」


 めぐみ先生は、スマホに写真を写して俺たちに見せた。


「なんです、これ? クマのキーホルダー?」


 写真に写っていたのは、キーホルダーのついたクマ。

 これが無くなったもの?

 めぐみ先生にとって、これは俺たちに依頼したいほど大事なものなのか?

 いや……。


「……これはUSBメモリだ。」


 俺は気付いた。

 このクマは頭を取ると、USBのコネクタが現れる。

 そういうデザインのUSBメモリだ。


「USBメモリ? じゃあ、めぐみ先生が探してほしいのは、このメモリと、その中に保存されたデータはいったい!?」

「ちょ、ちょっとラヴちゃん、静かに!」


 めぐみ先生は身を小さくして俺たちに小声で話すように指示した。


「わかった。この中にどんなデータが入ってるのか。俺たちは聞かない。」

「え? でも、気になりますが。」

「ラヴ。」

「はい、ガジェットくん。聞きません。」

「先生。誰かに盗まれたという可能性は?」


 めぐみ先生は、まさかと驚いた顔をした後、困惑した様子で言った。


「でも、職員室には誰でも入れるわ。ずっとこの机の上にあったはずだし。可能性が無いとは……。」

「言い切れないと。」

「机の上はちゃんと探したんですよね?」


 ラヴが、書類が山積みになっているめぐみ先生の机の上を見て言った。


「さ、探したわよ。もう一週間は探してる。でも見つからないの。……もしかしたら外で落としたのかもしれないわ。そしたらもう、どこを探していいのか……。」

「わかった。俺たちに任せてくれ。」


 俺の『ガジェット』が活躍する時だ。

 俺はカバンの中身を探った。

 このカバンは俺だけしか使うことができない。

 俺がこのカバンを使う時、中から事件を解決するために必要な『ガジェット』を一つ取り出すことができるのだ。

 俺はカバンから『ガジェット』を取り出した。


「犯人滅殺銃……。おっと、これじゃなかった。」

「滅殺!?」

「驚くことではないです、先生。小学生の間でもキメツが流行ってるので、これくらいの漢字は読めるんですよ。」


 危ない。

 小学生が危険な物を持っていると思われたら取り上げかねない。

 ラヴのフォローで助かった。

 俺は犯人滅殺銃をカバンにしまって、改めて別の『ガジェット』を取り出した。


「……鏡?」


 俺がカバンから取り出した『ガジェット』は手鏡だった。


「あ、わかりました! 犯人は二組の各務かがみ先生です!」

「まさか、そんな? これってそういう意味なの?」

「各務先生は今どこにいますか?」

「各務先生はサッカークラブの子たちと一緒にグラウンドに……。」

「いってみましょう!」

「ちょっと待て!」


 先走るラヴとめぐみ先生を俺は止めた。

 俺の『ガジェット』がそんなナゾナゾみたいな答えなわけないだろ。

 俺は『ガジェット』を観察した。

 この手鏡のような『ガジェット』にはボタンが付いている……。

 俺はボタンを押してみた。

 手鏡には、俺の顔が映し出された。


「これってガジェットくんですか?」

「ああ、どうやらさっきこの鏡を覗いていた者の姿が映っているようだ。」

「録画装置ね……。」


 俺の『ガジェット』はこういう便利な機能が付いた道具である場合が多い。

 ただし、使い方は自分で考えなければならない。

 カバンから滅多に同じ道具は出てこない。

 何度も出てくるのは犯人滅殺銃くらいだ。

 しかし、この録画機能がついた手鏡でクマのUSBメモリを探せ、というのは……。

 ん? いや、これはまさか。


「めぐみ先生。クマ以外に無くなったものは?」

「クマ以外に?」


 めぐみ先生は、自分の机の上を見渡した。


「……わからないわ。無くなってるような気もするし、最初から無かったような気もするし。」

「先生。机の上は整理した方がいいですよ。」

「他にも無くなった物があるかもしれない、ということだな。」


 俺は手鏡をめぐみ先生の机の上、なるべく目立たないところに置いた。


「本当に犯人がいるのかもしれない。これをここに置いてしばらく待ってみよう。」

「……その間、私たちは?」

「先生はここにいてくれ。俺とラヴは席を外していた方がいいだろう。せっかくだから、サッカークラブにいってみようか。」

「各務先生に聞き込みですね!」

「そうだな。」


 俺たちは念のため、サッカークラブの各務先生にもクマのキーホルダーを知らないか聞いてみたが、知らないという回答だった。

 各務先生には、それがUSBメモリであることは伏せておいた。


「あやしいところは何もなかったですね!」

「そりゃそうだろ。」

「では、各務先生は犯人ではないんですか?」

「ああ。犯人はだいたい想像がついている。」


 俺は職員室に帰らず、その足で体育館に向かった。

 体育館には誰もいない。

 がらんとしていて、俺たちの足音だけが響く。

 俺は体育館の用具室の扉を開けた。


「ガジェットくん!? え、これって!?」

「そうだ。」


 そこには、手足を縛られて気を失っていためぐみ先生がいた。


「それじゃ、職員室のめぐみ先生は!?」

「偽物ということになるな。」


 俺は犯人と対峙する覚悟を決めた。


         *


「ガジェットくん。USBメモリが見つかったって本当?」


 俺は偽物のめぐみ先生を校舎裏に呼び出した。


「ああ、ここにある。」


 俺はクマのUSBメモリをポケットから取り出して見せた。


「これはいったい何なんだ? お前はいったい誰だ?」

「お前って。先生に向かってなんて言葉遣いなの?」

「しらばっくれるな。本物のめぐみ先生は救出済みだ。」

「ははっ。そうなの? じゃあもう全部わかってるわけ?」


 偽物のめぐみ先生は急に表情を変えた。

 俺は身構えた。


「どうしてわかったの? いや、いつから?」

「根拠は二つだ。一つめ。俺の『ガジェット』がただの録画装置のわけないだろ。あの手鏡は過去のその場所を写す道具だ。俺は見た。数日前、あの場所で何が行われていたかを。」

「なんだ、犯人捜しは茶番だったわけね。」


 偽物のめぐみ先生は、腰に隠した銃を取って俺に向けた。


「動かないで。本物よ。さあ、それを渡しなさい。」

「こんなことしたって無駄だぞ。」

「バカな子。少年探偵って言ったって、結局ただの子供でしょ。力では大人には適わない。これは脅しじゃないわよ。」

「……わかった。」


 俺はクマのキーホルダーを空高く放った!

 偽物のめぐみ先生の視線がクマのキーホルダーに向けられる。


「ガジェットくん、カバンです!」


 校舎の上の階に隠れていたラヴが窓から俺に向かってカバンを投げた。

 俺がカバンを受け止めるのと、偽物のめぐみ先生が再び俺に銃を向けるのは同時だった。

 俺はカバンから素早く犯人滅殺銃を取り出した!


「そして二つめ! あの時、犯人滅殺銃が出たということは、目の前の犯人を倒せということなんだよ!」


 俺は犯人滅殺銃を偽物の……いやに向けてトリガーを引いた!


「滅殺!!」

「ぎゃああああ!!」


 犯人は湯気をあげて倒れた。

 しばらくして、救出されためぐみ先生に連れられて他の先生と警察がやってきた。

 犯人はめぐみ先生に対する監禁の罪で逮捕されるだろう。

 そして、徐々に真相も判明するはずだ。


           *


 今日も事務所で、暇を持て余したラヴがノートを前に頬杖をついている。

 ラヴがノートに書いているのは俺たちの事件簿だ。


「ガジェットくん。あの事件、何だったんでしょうか?」


 俺は牛乳を飲みながら、ラヴの暇つぶしに付き合うことにした。


「これは俺の推測だが、犯人はめぐみ先生に化けて、学校の試験データを盗もうとした。しかし、なんらかのトラブルがあり、データを保存したUSBメモリを残して一度去らなければいけなかったんだ。」

「じゃあ犯人はスパイですか?」

「ああ。再び学校を訪れた犯人は慌てただろう。USBメモリが無かったのだから。当然、本物のめぐみ先生もUSBメモリの行方を知らない。困った犯人は俺たちを頼ったんだ。」

「USBメモリはどこにあったんですか?」

「いや、見つからなかった。あれは偽物さ。本物はめぐみ先生が間違ってゴミと一緒に捨ててしまったんだ。がさっとね。手鏡に映っていたよ。もうとっくに焼却されているだろう。」

「ほえー。」


 この少年探偵ガジェットに解けない謎はない。

 このカバンから取り出せる不思議な探偵道具『ガジェット』で今日も難事件を解決に導く。

 ま、今は小学生だけど。


「あ、ガジェットくん。新しい依頼が来ましたよ!」

「よし、ラヴ! 少年探偵、出動だ!」


――おわり。

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少年探偵ガジェット 加藤ゆたか @yutaka_kato

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