第129話
「先生ぇぇぇぇっ! 俺たちはもう用なしなんですかぁぁっ!」
ベアルネーズが涙を流しながら叫び、その横でスティーブがポツリと言う。
「親の愛が無い子はグレると言います」
それにジャンが続く。
「俺たち、グレてもいいってことですか?」
ロジャーがヘラヘラ笑いながら口を開く。
「西部のイメージぶっ壊しちゃうかもしれませんよぉ!」
更にエリックが不敵に笑う。
「今の俺たち、その気になれば、学園、完全にシメれますから」
ベアルネーズが泣きながら叫ぶ。
「そこまでしないと先生は俺たちのほうを見てくれないんですか!?」
「いや、そこまでしなくても……」
「そこまでさせようとしてるのは誰ですか!?」
暑苦しく叫ばれた。
そういえば、西部で領主をやっていた頃も、自分を必要以上に慕ってくる武闘派家臣団と同じ匂いを感じた。
(うわ、めんどくせ……)
と思ってしまうのだが、そんなことをしたら謀反に繋がる。実際、西部ではそういうすれ違い故の愛憎から謀反を起こした家臣がいた。理由は「テオ様が俺たちを愛してくれないからぁっ!」というものである。あるいは、あの家臣は男色家だったのかもしれない。
謀反は謀反なので、きちんと斬首にした。
ともあれ、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。
「わかった。君たちの不平不満を聞こう。レイチェルたちに従って、いろいろやってくれたようだしな」
「そうですよ! ダンジョンに先生助けに行った時も! 奥様たちのエスコート役として、上級貴族しかいない舞踏会に参加させられた時も! 先生はっ! 一言もぉぉっ!!」
大号泣だ。
「……俺たちを褒めてくれなかった。うああああああっ!!」
ベアルネーズが膝から崩れ落ちた。さすがの四人もベアルネーズの大号泣には引いているようだが、不平不満の方向性は同じらしい。
「いや、すまない。よくやってくれたとは思っていた」
「では、どうして俺たちよりもベオウルフなんて言う平民と昵懇になさってるのですか!? 俺たちは先生にとってなんなんですか!? 弟子より友のほうが大事だと言うんですか!?」
仕事と私、どっちが大事なの? と恋人に詰められてるような光景だった。
ぶっちゃけた話、いろいろ他に考えることがありすぎて、ベアルネーズたちのことを忘れていたとは言えない。ともあれ、なんかそれっぽいことを言って煙に巻かねばならなかった。
「正直に言う。あの程度のことで、お前たちを褒めたら、つけあがり、慢心するかと思っていたんだよ。お前たちの努力は俺も認めるが、武勲で言えば、アシュレイには敵わないだろ?」
ベアルネーズが目を大きく見開き、テオドールを見上げる。
「俺はアシュレイを褒めてはいない。あいつは、あの程度のことで自分を認めろなど俺には言っていないぞ。だというのに、お前たちを褒めるのは、どうかと思ったんだ。だが、アシュレイ基準で考えていたのが良くなかったな。すまない。俺が悪かった」
「待ってください!!」
ベアルネーズが四つん這いのまま叫んだ。そして、泣きだした。
「俺が愚かでしたぁぁぁっ! まさか、先生がそこまで考えていたなんてぇ……」
「なにも泣かんでも……」
「だじがにぃ、先生にしてみればぁ、俺だぢのやったごどなんでぇ、カスみだいなもんでじゅう! それに気づかず、褒めてくれなど……なんて俺は愚かなんだっ!」
テオドールは思った。
(ベアルネーズ、半年の間になにがあったんだ? もう少し冷静な参謀っぽい奴だっただろ……)
ベアルネーズは立ち上がり、ジャンたちへと振り返った。
「お前ら、俺を殴れ! そして、俺はお前たちを殴るっ!!」
「「「「えっ!?」」」」
「俺は! 俺たちは慢心していたっ! だから殴って殴られる!!」
ジャンたち四人もお互いを見てから、力強くうなずいた。
「行くぞ、リーダー!!」
「来いやぁぁっ! がはっ! 次ぃぃっ!!」
男同士のどつきあいが始まっても、レイチェルたち西部の女たちは特に気にしない。西部ではよくあることだからだ。
「なあ、リュカ、ベアルネーズになにがあったんだ? あいつ、あんな感じだったっけ?」
「ダンジョン攻略をしている時、主にパフィーにしごかれていましたので」
「ああ……それで……」
あのチンピラ獣人騎士に舎弟としての教育を受けた結果ならば、わからないでもない。
「おい、やめろ、ベアルネーズ、君たちがよくやったのも事実だ」
「先生!」
ボコボコになりながらも振り返ってくる。
「今の俺に褒賞をやれる余力は無いが、王からのお褒めの言葉をもらう際、お前たちも侍従としての登城を頼む。さすがに謁見は無理だろうが、記録には残るだろう」
「本当ですか!?」
下級騎士は基本的に登城が許されない。
「言い換えれば、アシュレイ……廃王子の仲間だと認識されるということだ。その覚悟と決意があるならな。この場で答えを出す必要は無いし、拒否しても責められるモノじゃない。君たちだけではなく、君たちの家族にも危険が及ぶ可能性がある」
「危険?」
「アシュレイにその気が無くとも、向こうはアシュレイを王位継承を狙うと考えているということだ」
言いながらため息をつく。
「まあ、それ以外にも褒美をやろう。どうやら、君たちは寂しかったらしいしな」
ニコリと微笑みかけた。
「久しぶりに西部流の特訓をしてやろう。君たちがどこまで耐えられるか、見物だよ」
その言葉を聞いた瞬間、五人の顔色が青くなり、白目を剥いた。
テオドールは次の日、約束どおり、五人が失神するまで稽古を見てやるのだった。
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