第128話
テオドールがベオウルフとの交友を深める日々が続いたある日、ベアルネーズたち、西部騎士道クラブの面々に呼び出された。
しかも、校舎ではなく、レイチェルの邸宅にである。
呼ばれたからには仕方がないので、行けば応接室に通された。しばらく待っていたら、レイチェルにリーズレット、そしてリュカが入室してきた。
「あれ? ベアルネーズたちは? あいつらに呼ばれたんだけど?」
レイチェルはニコリと微笑みながら向かいの椅子に座る。その両隣にリーズレットとリュカも座った。
「先にこちらの用を済ませようと思いまして。では、リーズ様のほうから」
「アシュレイの登城が決まったわ」
「やっとか……」
カズヒコ討伐の件を王国が認めたということになる。
「王は?」
「体調不良で代理に第二王子からお言葉を賜るそうよ」
第一王子ではなく第二王子というところに、いろいろな作為を感じないでもない。だが、これでやっと王位継承レースのスタート地点に立てる。
「ありがとう、三人とも。君たちのおかげだ」
「テオがやる気になったんだからしかたがないじゃない」
リーズの言葉に「ここから先は、実家にも迷惑かかるかもだぞ?」と尋ねる。
「お父様はお父様。私は私よ。それを言うならレイチェルやリュカだって」
二人にはその辺のことは既に尋ねている。
「まあ、最後まで安心はできないな。第二王子が代理というのが、また気にかかる」
「最悪、不敬罪によってその場で処刑って流れもありうるわね」
「お前たちはお言葉を賜わらないのか?」
テオドールの問いかけに「一応同時に受ける予定です」とレイチェルが応える。
「さすがに西部の公爵が二人いる中で、アシュレイを処刑はしないと思いたいが……」
「第二王子だから安心はできないわよ。私も念のためヒルデを連れてくし」
「俺もアシュレイの騎士としてついていったほうがいいか……でも、平民という立場だと無理か?」
そこでリュカが「そう思いまして、とある騎士の戸籍を用意しました」と言う。
「ベルナール・エリュシオン。一代限りの中央騎士ですが、対外的には行方不明です」
「さすがだな。仕事が早くて助かる」
「もともと蟲が鳴り替わるための身分ですし、本人は既に死んでいます。ご随意にお使いください」
「わかった。俺がテオドール・アルベインだとバレると厄介だしな。仮面でもつけてくか……」
「バレる相手にはバレるとは思いますが……」
「公式にそうじゃなければいいんだよ。公開したとなれば、スヴェラート様が暴走しかねない」
西部戦線が大変だと言うのに、未だにテオドールの首を持ってこいとわめているらしい。
「アシュレイの礼儀作法は……レイチェル、君から教えてやってくれ」
「かしこまりました」
「リーズレットは引き続き社交界で情報を集めてほしい」
「ええ、任せて」
「リュカはこの際だから、西部の動向を集めてくれ」
「中央から蟲を撤退させましたしね……わかりました」
そこまで言ってからテオドールは改めて頭を下げた。
「三人ともありがとう。今の俺に君たちの働きに報いることはできないが、なんでも言ってくれ。俺にできる限りのことはしよう」
言うや否やリーズレットに「じゃあ、結婚して」と言われた。さすがに予想外な言葉だったので、思わず「え?」と返してしまう。
「別に正式じゃなくていいから。約束でいいのよ。レイやリュカには了承を得てるし」
「そうなんですね……」
そんなことはリュカから聞いている。
「でも、いいのかい? その、未来に対する何の保証も無いぞ? 領地も爵位も無いし……それに、その、あっちもダメだし……」
「かまわないわ。だって、テオと一緒にいると楽しいんだもの。大変なことも多いけど……」
「……わかった。じゃあ、その、後日、改めて俺のほうからプロポーズさせてほしい」
「うん、楽しみに待ってるわ」
ニコリと微笑まれた。
ドッと気疲れしたが、それを表情には出さず、リュカとレイチェルに視線を流した。
「二人はなにかあるか? できることは限られているが……」
レイチェルは「そうですね」と考えてから「テオ様と一緒の時間をこれまでより増やしていただければと思います」と言われた。
「わかった。追々、細かく決めよう」
「ありがとうございます」
「リュカは?」
「しばらくの間、ことあるごとに私を褒めてください。最高の家臣だというニュアンスで」
「それだけでいいのかい?」
「本気でお願いします。いい加減な気持ちではなく、本心からの言葉で」
「わかった。リュカは俺にとって最高の家臣だ」
「お褒めいただき光栄です」
嬉しそうに頬を赤らめていた。こういうプレイが好きなのかもしれない。
「他には何か報告はあるか?」
レイチェルが「私たちからはありませんが」と言ってからベルを鳴らした。するとソフィーが「失礼します」と入室してきたので「皆さんをお呼びください」と伝える。
しばらくしてから「先生ぇぇぇっ!」と叫びながら西部騎士道クラブの面々が入ってきた。
「これ以上は耐えられませんっ!」
ベアルネーズの叫びに「なにが!?」と問い返してしまう。
「俺たちのこともかまってくださいよぉぉぉ!!」
ベアルネーズ、魂の叫びだった。
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