第127話
様々な勢力が暗躍する中、これといって兵を持っていなければ地位も無いテオドールにやることはなかった。いや、正確にはリュカにレイチェル、リーズレットを動かしているのだが、三人とも優秀であるが故にテオドールがフォローに入る隙すら無かった。
結局のところ、平民として学園に通うしかなく、ベアルネーズたちもリュカやレイチェルたちと呼応して動いているため、テオドールは一人ぼっちのままである。
(ベオ……)
酒場で別れてから、どう話しかければいいのかわからず、距離を取ったままだった。友人に乱暴なことをされたのだから、怒って当然だし、西部ならば腕を斬り飛ばしすなりしているのだ。肩を外したり、鼻を折ったのはテオドールなりに加減はしていた。
それでも、なのだろう。
一人、ため息をついていたら「テオ」と予想外な声を聞いた気がした。驚きながら顔をあげると、バツの悪そうな顔をしたベオウルフが立っていた。
「ベオ……」
「ちょっといいか?」
「いいとも!」
と勢いよく頷いたら「ここだとちょっとな」と言われたので、ベオウルフについて教室を出ていった。ひと気の無い校舎裏まで来たところで、ベオウルフが立ち止まった。
「……ベオ、どうしたんだ?」
「いや、謝ろうと思ってさ……」
「あ、謝るのはこっちのほうだよ。その、みんなで楽しんでた時に、その……なんつーか、やりすぎたというか……」
「お前は俺のために怒ってくれただけだろ?」
「いや、まあ、そうなんだけど……」
テオドールは言いながら視線を落とした。そんなテオドールに向けてベオウルフが肩をすくめる。
「悪かったよ。その、退いちまってさ……なんか、その……俺たちって騎士とかじゃないから、ああいうガチな感じの暴力ってのに慣れてなくて……」
「いや、それは、俺も悪かったんだ。その、ノリを間違えた」
「すぐに謝ろうと思ったんだけどさ……なんか、話しかけづらくて……」
「それを言うなら俺だってそうだよ。やり過ぎたってベオに謝るべきだった」
ベオウルフが苦笑を浮かべる。
「お互い謝る気だったんだな。なんか、やっぱ、そういうとこ……ダチって感じだよな?」
「ああ、そうだよ! 友達だよ!」
目の前が晴れやかになった気がする。
そう、これが友情だ。
お互いすれ違ってしまったとしても、こうやって互いを想い合い、許し合える。これこそ、テオドールが憧れる男同士の友情なのだ。
「テオ、仲直りしてくれるか?」
「そんなの当然だろ!」
泣きそうなくらい嬉しかった。正直、今すぐベオウルフに抱き着いて友情を確かめ合いたい。だが、ここでそんなことをして退かれるわけにはいかなかった。
そんなテオにベオウルフはかつてのような朗らかな笑みを浮かべる。
「じゃあ、また一緒に遊びに行こうぜ」
「でも、他のみんなは……」
「あいつらは、もう少し時間かかるかもだけど……とりあえず、二人でさ」
「ああ、二人でな」
うなずくテオドールの肩を抱くようにしてベオウルフが歩いていく。さり気ないボディタッチが多いのがベオウルフだ。人への距離の詰め方が早い。
「テオとは他人って気がしねぇよ。俺たち、最高のコンビじゃね?」
トゥンクと心臓が高鳴り、頬が紅潮してしまう。
「最高のコンビだよっ!!」
嬉しさのあまり、テオドールは叫んでいた。
あげて落とされ、またあげられた。そんな感情の浮き沈みのせいなのか、今のテオドールは無敵感にあふれていた。
「俺、ベオのためならなんだってできる気がするよ!」
「なんだよ、それ」
苦笑を浮かべる友を見ながら、この友情のために死のうと固く誓うテオドールだった。
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