第123話
テオドールがダンジョンから出てきて十日。
その間、リュカは蟲を使って動き、リーズレットやレイチェルは貴族令嬢としての立場を利用して中央貴族の社交界に顔を出していた。
主な目的はアシュレイの地盤を固めるためことである。
転生者カズヒコ討伐の件を王家に公式に認めさせるためには、アシュレイが王に謁見し、言葉を頂く必要があった。
王家が認めなくとも事実は変わらないのだが、政治というのはある種、権威を使ったカードゲームのようなものなので「王家お墨付きの英雄」という手札は欲しいのだ。
この手札があることでアシュレイそのものが、貴族たちにとってのカードになる。そのカードが希少で強力であれば、皆、欲しがって近づいて来るという寸法だ。
とはいえ、テオドール自身は既に爵位を持っていない平民である。
元妻たちが働いている間、特にやることが無い。つくづく己の職業が「ヒモ」だということを痛感させられた。
しかしながら、認めるのも癪だったので、ほぼ半年ぶりに学園に顔を出すことにした。
(うん……誰も話しかけに来ねぇ……)
アシュレイは別のクラスだし、同じクラスのベアルネーズたちもいない。下級とはいえ、ベアルネーズたちも騎士ではあるため、リーズレットやレイチェルにいろいろ使われているらしい。
王城への登城は許されずとも、社交界のエスコート役にはなれるのだろう。さすがに平民のテオドールを社交の場へは連れていけなかった。
(やはり、友達が欲しいな……)
特に同性の友達が欲しい。
親友だと思っていたアシュレイは女性だった。だからといって、何かが変わるというわけではない、とは言えない。
女性というだけで気を使うし、扱いも丁寧にならざるを得なかった。
元本妻であるアンジェリカに小言と共にレディファーストを徹底的に叩きこまれたからだろう。
(どうしたらいいんだ? 俺も転生者みたいに男の奴隷を買って、今日から友達な、とでも命じればいいのか? いや、命じた時点でもう主従じゃん……)
奴隷はハーレム要員にすることも恋人にすることも従者にすることもできるかもしれない。だが、対等な友人にはなれない。
(このまま俺は一生、男友達のいない人生なのか……?)
もうしかたがないので、友達を作る魔術を考案しようと考えていたら、隣に誰かが座った。
「君、たしかテオドール・シュタイナーだよね?」
その凛然とした声に視線を向ける。銀髪碧眼の美青年が座っていた。
「そうだけど、君は……?」
「これは失敬。俺はベオウルフ・ウィルソン。はじめまして、テオドール」
「テオドール・シュタイナーだ。よろしく、ベオウルフ」
「ああ、友人はベオって呼んでるから、そう呼んでくれ」
トゥンクと心臓が高鳴った。
「いや、でも、いきなり俺がいいのか? その……ベオと呼んでも……?」
「気にするなよ、テオ」
距離の詰め方が早かった。だが、不快じゃない。
「テオは有名人だろ? 貴族と決闘したり、実習で行方不明になったり、帰ってきたと思ったら転生者を倒してたりさ」
「転生者を倒したのはアシュレイだよ」
「でも、君だって手伝ったんだろ?」
「まあ、一応ね」
「そういう話を聞きたいんだよ。みんな君の話を聞きたがってる」
「そうなのか? その割には距離感あるような気が……」
「ビビッてるのも事実だと思うよ」
ベオウルフは苦笑を浮かべながら言った。
「今日の放課後、仲間と一緒に街に繰り出すんだけど、テオも一緒にどうだい?」
「え? 街に繰り出すってなにするんだよ?」
「そりゃあ、いろいろだよ。ナンパしたり、ダンス踊ったり」
「ナンパ……? ダンス……? え? 学生ってそうやって遊ぶものなのか?」
「けっこう真面目なんだな、テオは」
「いや、その、なんだ、西部の田舎者だから、中央の風習には疎くて……」
「じゃあ、俺が教えてやるよ」
べオウルは爽やかに笑いながらテオドールの肩をポンと叩く。
「仲良くしようぜ、テオ」
「あ、ああ……」
なぜか頬を赤らめながら視線をそらしてしまうテオドールだった。
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