第115話
テオドールたちは二月ほどダンジョンの中を出口へ向かって歩み続けた。
途中、様々な魔物に遭遇したりしたが、ベアルネーズたち西部騎士道クラブの面々や、パフィーやカーマなどレイチェルの護衛騎士、更にはヒルデたちリーズレットの騎士たちががんばってくれたので、テオドールは何もしなくてよかった。
実際のところ、何回か魔術で敵を一掃したのだが、そのやり方がオーバーキルすぎたようで、全力で引かれてしまった。パフィーには「あいかわらずですにゃあ」と犬なのに猫のようなことを言われヒルデには「この階層ごと破壊するつもりか?」とか言われた。
「悔しいというか理不尽だな。私の実家がこのバケモノに負けたのも理解できる」
ヒルデの嘆息に「バケモノって言い方はしなくても……」とつぶやいたら、パフィーに「まあ、獣王国でも法王国でも鬼とか魔王って呼ばれますしね」と重ねられた。
「だって、チマチマ魔術小出しにするの面倒だろ? 目につく魔物を一掃したほうが時間効率いいじゃん」
「それができるからバケモノだと言っている」
「普通、そんなにポンポンと新しい魔術作ったりしませんよ。どうしてそんなことできるんですかわん?」
「だから、魔術式全体を頭の中にパッと出すだろ。で、複雑な式の場合は思考を分割して並列で暗算して、エラーが出たら……」
「分割で思考などできるわけないだろ」
「わふぅ……魔術式のエラーって普通、発動しないからわかるってことですよね? どうして考えてる時にわかるんですか?」
と、恐怖の篭った目で見られてしまった。かすかにへこんでいたら、すかさずベアルネーズが叫ぶ。
「さすが先生です! 意味はわかりませんが、さすがです!」
「「「「うおおおお! 先生、うおおおおおっ!!」」」」
「君たち、そんなんだったっけ?」
思わず指摘してしまった。ノリと勢いから西部でよく見かけた新兵や若者を思い出す。だいたい、戦場でもこういうノリで叫びながら遮二無二に敵へと突っこんでいくのだ。
「先生、男児三日会わざれば刮目して見よ! と言う言葉もあります。筋肉は一にサボれば、逃げていくんです」
「そうか……でも、俺は昔のベアルネーズのほうが良かったよ……理知的で……」
「頭で考えてるうちは二流!!」
いきなり叫ばれた。
「と、リュカ様に言われました」
「なるほど、リュカのせいか……」
「心外です、テオ様。私はただ西部における騎士道を伝えただけです。実際、小利口な者ではテオ様のいらっしゃった三十階層より上には行けなかったと思います」
「そのとおりです! 立ち止まって考えた瞬間、あれ? こんなバケモノに囲まれた場所でどう生き抜けって言うんだ? 帰るにも一人じゃ帰れない。進むにしたって、更なる地獄が待ってる……ってな感じで心が死にますからね!!」
いい笑顔だった。目の光は無いが……。
実際、最初は初級冒険者だったのに、この半年足らずで中級冒険者並みの実力者になっているのだから、それ相応の地獄を見たのだろう。
とはいえ、才能もあるからできたことだ。
「まあ、強い分にはいいけどさ。そろそろ脳みそをチンパンから人間に戻してくれないか? 君たち、叫びすぎなんだ」
「叫んでるつもりはないのですが、心の叫びが駄々洩れなのかもしれませんね」
「トラウマ抱えちゃってるな……」
実際、初めて戦場に出た時のテオドールも、叫びながら遮二無二槍を振るっていたものだ。常時戦場のような状態では無理も無いだろう。
「少しは先生に近づけたと思っていたのですが、やはり先生はすごい。我々が進んだ分、それ以上、先に行ってしまわれる」
「別にそんなことは無いけど……」
ただ新しい魔術を開発しているだけだ。
「そのうえ、アシュレイも強くなって……友として負けてはいられません」
「うん、まあ……」
神剣装備のアシュレイは上級冒険者程度の実力があるし、剣だけならテオドールさえ凌ぐ。そんなアシュレイに西部騎士道クラブの面々は「修行だ!」と言って挑んでフルボッコにされていた。
「中央の騎士にしては骨のある連中だな」
「……それでいいのだろうか?」
「強くて損は無いだろ?」
「……西部を思い出して軽く鬱になるんだよな」
ため息を吐きつつ戦うアシュレイと西部騎士道クラブの面々を眺める。
「ところでお前の
正確には二束三文で買いたたかれる。拒否権はなく、持ち出したい場合は、それ相応の金を支払わなければならない。
「私の
「それでも、そこそこの金額になるだろ?」
「足りない分はリーズ様に借りる」
たしかにリーズなら支払えるだろうし、ヒルデがリーズの騎士になるならば、必要経費だろう。
「それより、アシュレイの神剣はどうするんだ?」
「アレはカズヒコの武器だからな。ダンジョンの持ち込みリストに入ってたら、問題ないだろ」
ダンジョンに入る際、持ち込むモノはリストとして提出される。そのリストに書かれていないモノはダンジョン内の異物として、王国側の決めた値段で買いたたかれてしまうのだ。
それでも、
ここを以下にして自分の都合のいい方に転がすか? が、冒険者の手腕とも言えた。
「最悪、俺が……リュカかレイが買ってくれると思うし……」
目を伏せながら続けた。
「……ヒモのような男だな」
心底、見下すような目で見られたので、テオドールは「ヒモじゃないし」と自分のステータス文言から目をそらし、虚勢を張ることしかできなかった。
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