第112話
(カズヒコとの戦いより、これからの戦いのほうが緊張する……)
いろいろと雑務を終え、冒険者の後任に引き継ぎを終えたテオドールはキャシーを連れて、リュカの部屋を訪れた。
リュカは宿の一室を借りており、侍従と思われる女性冒険者を引き連れていた。おそらく蟲だろう。
キャシーを連れてきたテオドールを見て、何かを悟ったのか侍従に目配せした。侍従は何も言わずに「失礼します」と言って部屋を出ていく。
「テオ様、どうなされましたか?」
「えっと~……」
どこから話を始めたらいいのかわからない。だが、全て包み隠さず話す必要があるだろう。でなければ、後で必ずバレてしまう。リュカは隠し事をすることを最も嫌うのだ。
「彼女の名前はキャシーと言って……」
「テオ様の事務処理を手伝っていたと聞いています。テオ様の妻として、あなたの働きには感謝します。ありがとうございました」
笑顔だが、ちょっと怖かった。
リュカはテオドールの部下という属性にプライドを持っているらしく、テオドールが有能だと思う家臣や部下に嫉妬するのだ。この数ヶ月の間、テオドールを補佐していたキャシーに嫉妬するのは簡単に想像できる。
「先ず出会いから話させていただきます」
そう言って、キャシーとの出会いから、事務として雇ったこと。そして、告白されたこと。テオドールが連れていくと決めたことを包み隠さず告白した。
説明し終えたところでキャシーが勢いよく頭を下げる。
「申し訳ございません、奥様……」
「奥様……もう一度言ってもらえる?」
「え? はい……奥様……?」
なにかかみしめるようにリュカは目をつぶってから、微笑んだ。
「正確にはレイチェル様が第一夫人で、私は第二。リーズレット様が第三夫人になります。ただ、家格的には私よりリーズレット様のほうが上になりますね。他の誰かがいる時に奥様呼びは混乱するので、名前で呼んでいただいて結構です」
いつの間にか第一夫人とか決まっていたし、リーズレットが妻としてカウントされていた。テオドールが了承した記憶は無いが、ここで訂正するのも野暮だし、なによりいろいろと怖い。
「それでテオ様は、浮気相手を連れてきて、私になにを言いたいのですか?」
「浮気じゃないっす。なんもしてないので」
「肉体関係を持ったくらいなら許しますが、私の代わりに女性を補佐として使うなんて、これが浮気と言わずになんと言うのですか?」
「怒るの、そこなんだ?」
「そこが一番大事なんです!!」
ピシャリと大きな声で言われた。
「えっと、確かにキャシーは優秀だよ。手伝ってもらったし、助かった。でも、やっぱり何度もリュカがいたらなぁとは思ったよ」
「それはどういう意味でですか?」
「いや、リュカがいたら、もっと楽にいろいろ進められたと思うし、相談もできたと思うし、本当に優秀な人だと思ってました。ほんと、俺はリュカがいないと何もできないんだなって……」
「私とキャシーさんではどちらが家臣として優秀ですか?」
「それはリュカに決まってるだろ」
リュカは目を閉じながら「もう一度言ってください」と言ってきたので「家臣として一番優秀なのはリュカだよ」とキメた声で言った。リュカは目を閉じたまま「わかりました」と答える。
「それで、テオ様はキャシーさんをどうなさりたいのですか? 第四夫人にしたいのですか?」
キャシーが「とんでもございません」と首を横に振る。
「私はただテオ様のお力になれればそれでいいんです。お傍にいて、少しでも役に立てるだけで……」
「……そういうことでしたら、私の元で働きなさい」
「え? いいの?」
テオドールの言葉にリュカはため息をつく。
「私は、それがたとえどんな願いであろうとも、テオ様の願いを叶えたいとは思っているんです。それを理解しているから、私のもとへ来たのでしょう?」
「いや、それは、その……第一に筋を通すべきはリュカだと思ったから……」
「本当はレイ様が先ですよ?」
ジト目で見つめられた。レイチェルが、この手の話を苦手なのは知っているのだろう。
「いや、まあ、わかってるんだけどね……」
「私のほうからレイ様とリーズ様に説明しておきます。悪いようにはいたしません。ただし、その後、テオ様の口からも説明してもらいます」
「あ、はい……え? リーズも……?」
「リーズ様が告白なさったことは聞いてます。まさか、断りませんよね?」
「いや、リュカやレイは、それでいいのかな? って……」
「テオ様次第ですが、キャシーの面倒を見ろと言うなら、リーズ様にも優しくしていただかないと困ります」
「でも、いいのかい? その、ほら、妻が増えるというのは、君たちにとって……」
「私とレイ様は常にテオ様の利益を考えています。いろいろお覚悟をなさったのでしたら、リーズ様との関係を切るのはマイナスにしかならないでしょう?」
「あ、はい。そっすね」
「どうしても好きになれない、とお思いでしたらしかたがありませんが、この数ヶ月の間、うまくやっていたと聞いています」
「あ、はい。うまくやってました」
ここで「実はアシュレイにも告白されたんだ」と言ったら、どうなるだろう? さすがのリュカも怒る気がしたので、とりあえず黙っておくことにした。
どうせ、すぐにバレるだろうけど、この場で言う勇気はテオドールには無い。
「とにかく、キャシーの面倒は私のほうで承りました」
「ありがとうございます! なんでもします!」
キャシーが勢いよく頭を下げる。
「礼を言うのはまだ早いですよ? あなたがテオ様にとって有害になると私が断じれば、すぐにでも状況は変わります。それを忘れないでくださいね」
「はい」
強くうなずくキャシーを見ながら、キャシーも強くなったな、と思うテオドールだった。
※この作品と同じ世界観の新作『転生してきた勇者の悪霊が俺に憑りついて最強にするとか言ってくるんですが、俺は強くなりたくない ~勇者による大魔王育成計画~』を始めました。
合わせてお読みください。
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