第111話

 リーズレットとレイチェルの対談後、対転生者用に結成された冒険者軍は解体されることとなり、リーズレットはその代表を降りることになった。

 幹部たちはそれを了承したが、ダンジョン内都市間の同盟関係は続くことになったそうだ。そんな話をテオドールは執務室でリーズレットから聞いた。

 テオドールは残務処理の書類仕事をこなしながら、お茶を飲むリーズレットとヒルデに問いかける。


「本当にそれで大丈夫なのか?」

「後のことは知らないわよ」


 人が集まると組織ができる。組織は個人ではこなせない仕事をこなせるし、使い方次第では莫大な富みを産む。そこに生じるのが利権構造だ。組織は絶対に腐敗するのは、組織というシステムに利益を生み出す性質があるからだろう。


 ダンジョン間都市の同盟関係を続けるにせよ、それを維持するために、現状の冒険者軍の組織構造が利用されるはずだ。リーズレットの後釜をめぐって、権力闘争が始まっているらしい。


「利権に群がる豚どもに冒険者の矜持は既に無い。アレは冒険者が嫌う中央貴族どもと同じだな」


 言いつつヒルデは礼儀正しくお茶を飲む。今日は普段の甲冑姿とは違う平服であり、リーズレットの側にいると、ただの貴族令嬢にしか見えなかった。


「ヒルデがその気になれば、まとめて掌握できたんじゃないの?」

「リーズ様、お戯れを申しますな。私と我がパーティーはリーズ様を守る騎士です。相手がアルベインであろうと、切り刻んでくれましょう」


 テオドールは「勘弁してくれ」と苦笑を浮かべながら事務処理を続けた。


 結局、ヒルデをリーダーにした女性冒険者パーティーは、そのままリーズレットについて外に出ることを決めたそうだ。冒険者パーティーと言っても、ヒルデのハーレムであり、皆、ヒルデの命令には背かない。テオドールが傍目から見た印象としては、宗教の教祖と信者のような関係だった。リーズレットに対して嫉妬とかありそうなのだが、ヒルデが主と認めた者は、信者たちにとっても主であるらしい。その中の一人が言うには「推しが二人に増えました」ということらしい。テオドールには、なにを言っているのかよくわからなかった。


 そんな風にリーズレットから話を聞いていたら、執務室の扉がノックされた。テオドールが「どうぞ」と声をあげると、平服ではない冒険者としての装備姿に身を包んだリリアたちだった。


「失礼するよ」


 言いながらリリアに続き、シャンカラとシローも入ってくる。二人も出会った頃のような冒険者としての装備だった。


「どうしたんだ、そんな恰好で」

「いや、そろそろ本業に戻ろうと思ったんだよ」

「お別れの挨拶ブチかまそうと思ってさ~」


 シャンカラがピースし、その横でシローが肩をすくめた。


「厄介なイザコザに巻き込まれたくなくてよ」


 ヒルデが「正しい判断だ」と微笑みを浮かべる。そんなヒルデにリリアも苦笑で返してからテオドールへと視線を向けてきた。


「君らが外に出るなら、今生の別れだろうね」

「冒険者はダンジョンで生きて、ダンジョンに死すって言うっしょ?」

「ま、いろいろ楽しかったぜ」


 そんな三人の言葉を受けて、リーズレットがソファーから立ち上がって三人に近づいていった。三人を前にして貴族令嬢として敬礼をした。


「あなたたち三人に助けられなかったら、今の私もテオもいませんでした。約束のお礼ですが、帰ってから届けさせます」

「だったら、冒険者ギルドの銀行に入金しといてくれないかい?」


 リリアの言葉にシャンカラが「三等分でよろ」と続ける。


「まあ、正直、君らを助けたのがよかったのかわからないけどねぇ。特にテオドールみたいなバケモノ、あのタイミングくらいしか殺せそうもないだろ?」

「誰がバケモノだ」


 苦笑で返しながらテオドールも立ち上がって、三人に近づいていく。そのままリリアに手を差し出した。


「ありがとう。あんたたちには本当に助けられた」


 そのまま三人と握手を交わしていく。


「ま、おあいこさ」

「結局、一発もパコれなかったねぇ……」

「元気でやれよ」


 三人の言葉に「アシュレイには挨拶したのか?」と尋ねる。


「もうしといたよ」


 リリアの言葉にシローが続く。


「あいつ、バカみたいに強くなってたな。なんだ、あれ? マジで剣術だけおかしなことになってたぞ」


 カズヒコの神剣を言っているのだろう。


「言ったろ? カズヒコの首を取った男だぞ、アシュレイは」

「ま、あれなら説得力があるだろうねぇ。うまく考えたもんさ」

「俺は事実を言っている」

「……おっと、余計なことを言って敵だと認定されたくないから、そろそろ行くよ」


 リリアは苦笑を浮かべながらヒラヒラと手を振った。そのままヒルデのほうへと視線を向ける。


「ヒルデ、君を殺そうとして悪かったね」

「……なんのことだかサッパリだが、せいぜい達者で生きろ。私は貴様を気に入ってたぞ、リリア。どうせなら一度くらい相手をしたかったものだ」

「え~! あーしは!?」

「おい、シャンカラ、脱ごうとするな」


 シローが呆れたように止める。


「あのさ、冒険者文化に文句を言うつもりはないんだけど、一応、結婚前の貴族令嬢がここにいるってわかってるの?」


 リーズレットが頬を赤らめながら諫め、一同は笑い声をあげた。


「リーズたんがただの貴族令嬢とかウケるんだけどー!」

「俺もあんたみたいなのがいる西部にだけは絶対行く気しねぇよ」

「君たちもせいぜい元気でな。さて、行くかい?」


 ヒルデの言葉にシャンカラも「そだね」とうなずき、部屋を出ていった。


「実に冒険者らしい奴らだったな」


 ヒルデの言葉に「慎みはもってほしいけど」とリーズレットがボヤく。そんな中、テオドールはリュカたちの前でシャンカラが「テオたんとパコる」とか言わなくてよかった、と一人だけホッとしていた。







※この作品と同じ世界観の新作『転生してきた勇者の悪霊が俺に憑りついて最強にするとか言ってくるんですが、俺は強くなりたくない ~勇者による大魔王育成計画~』を始めました。

合わせてお読みください。

https://kakuyomu.jp/works/16817330651286526061

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