第108話
デカメルスへ訪れる準備が整ったテオドールたちは、ベアルネーズの手引きで都市へと向かった。こちらはテオドール、リーズレット、アシュレイの三人に「私もついていく! 絶対!」と駄々をこねたヒルデを含んだ四人で向かうこととなった。
城壁を越え、会談場所の建物へと通された。
「よもや、このような場所でローエンガルド様のご令嬢と会うことになろうとは」
とヒルデはそわそわしていた。
「ヒルデにしては珍しいわね、緊張してるなんて」
苦笑を浮かべるリーズレットにヒルデは「いたしかたありません」と照れていた。
「グスタフ・ローエンガルド様は西部フロンティヌスの英雄。かのお方の活躍は幼少のみぎりより耳にしております。また、そのご令嬢の美しさも噂にしておりましたので」
「さすがにレイを口説いたりしないでね。フロンティヌス三翼のテオが怒るわよ」
「間に合わせのアルベインのことなど、どうでもよいのですが……」
「まあ、ヒルデの言うとおり間に合わせであることは否定しないよ。俺もその自覚はある」
もともとグスタフ・ローエンガルドと、フレドリク・ペンローズの二人をもってフロンティヌスの双翼と呼ばれていた。そこに幼いながらも破竹の勢いで武功をあげたテオドールが放り込まれ、三翼とヴぉロフリートから呼ばれるようになったが、格が落ちることは否定できない。
「ローエンガルド様やペンローズ様のご令嬢に不埒な真似などできるわけありません。アルベインはどうでもよいのですが」
「ヒルデ……」
諫めるようなリーズレットの言葉に「少々、言葉がすぎました」と目礼する。テオドール自身、ヒルデの自分に対する当たりの強さは気にしていない。実家を滅ぼしたのだから、この程度の嫌味で済んでるだけマシだという認識だった。
などと話をしていたら扉が開いた。
現れたのは二人の淑女だ。一人は短い黒髪に切れ長な瞳の美少女。もう一人は輝く銀髪をきらめかせた美少女。二人とも、こんなダンジョンの中でどうやって手に入れたのかわからないドレスを着ていた。
「ほう……」
ヒルデが呆けたような声をもらし、見惚れている。それも無理は無い。実際、テオドールでさえ、かつての妻二人の姿に見惚れてしまっていた。
レイチェルが目礼してから口を開く。
「お久しぶりです。テオ様、リーズ様、それにアシュレイ。お元気そうで……」
感極まったように涙を流すレイチェルをリュカが「レイ様」と背中に手を添えながら支えた。この数ヶ月の間、二人はこのようにして支え合っていたのだろうと思わせる仕草だった。
不意に隣に立っていたリーズレットにテオドールは背中をポンと叩かれる。何か言え、ということなのだろう。
「レイチェル、リュカ、その……」
言うべきことは考えていた。だが、二人を前にして言葉が飛んでしまう。
胸の奥がじんわりと熱い。気づけば、テオドールは二人の元へと歩み寄っていた。
「……心配かけてすまなかった」
レイチェルは目じりに涙を浮かべながら微笑み、リュカも涙をこらえるようにテオドールを見ていた。そのまま二人を抱きしめる。かつて触れた二人のぬくもりに、テオドールの目頭が熱くなった。
「本当にすまない」
言いながら涙を流している自分に気づく。そんな自分に驚きながらも、きつく二人を抱きしめた。
「ご無事でよかった。本当に……」
蟲の頭領の娘であるリュカが、涙を流す。
「すまない。本当にすまなかった……」
テオドールも声を震わせながら、ただ二人を抱きしめることしかできなかった。
「リュカ、レイ、会いだがっだよぉぉぉっ!!」
感動のあまり、人前だということも忘れて、じゃっかん幼児退行してしまうテオドールだった。
※この作品と同じ世界観の新作『転生してきた勇者の悪霊が俺に憑りついて最強にするとか言ってくるんですが、俺は強くなりたくない ~勇者による大魔王育成計画~』を始めました。
合わせてお読みください。
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