第104話

 リリアたちのケガが治ったのを確認したところで、テオドールたちはリーズレットたちと合流するために歩き出す。

 その道すがら「あ、そうだ」とテオドールが口を開く。


「カズヒコ様のトドメを刺したのはアシュレイだってことにしてくれないか?」


 その発言にリリアが「どうしてだい?」と尋ねてくる。


「私は役立たずだったから、誰の手柄でもかまわないけど、誰かに譲っていいような手柄じゃないだろ?」

「俺は目立ちたくないんだよ。それに、アシュレイの助力が無ければ勝てなかったと思うしな」

「……そんなこと無いよ」


 意気消沈とするアシュレイを見てリリアが肩をすくめる。


「私らと違って、あのバケモノとまともにやりあってたんだ。もう少し胸を張ったらどうだい? それとも、あんた以上の役立たずは、もっと卑屈になれってことかい?」

「それは僕の力じゃなくて、この神剣の力のおかげで」


 ヒルデ「それを言うなら」と口を開いた。


「私だって神機オラクルが無ければあのバケモノと戦えなかったと思うが? それとも私も卑屈にならなければならないか?」

「いや、そういうわけじゃあ……」


 いきなり手渡された神剣だし、実感が無いという気持ちもわからないでもない。だが、実際、アシュレイの動きには助かったのだ。


「でも、テオの手柄じゃないか……」

「もともとそのつもりだと言っただろ? 俺とお前の約束を忘れたのか? あの時の誓いは嘘だったのか?」

「……嘘じゃないよ」

「それに西部じゃあ、家臣が主君のために敵の首を取ってくることくらいザラにある」


 というテオドールの言葉にヒルデも「日常茶飯事だ」とうなずいたら、シャンカラが「どんな日常だよ?」とつぶやいた。


「これは君の目的のために俺が命がけで成し遂げた成果だ。その意味がわかるか?」

「うん、わかるよ」

「まだ、自分の実力に見合わないと思うなら、これから、見合うようになればいい」

「……わかった。僕がカズヒコに神剣でトドメを刺したってことにする」


 テオドールは微笑んでから、ヒルデたちに視線を流す。


「このことは他言無用で頼む。もし、変な噂が流れようものなら、どうなるかわかっているな?」

「私を脅すとは片腹痛いな。まあ、別に誰の手柄だろうと関係ない」


 というヒルデに続き、リリアも肩をすくめた。


「私も興味ないねぇ。シロー、シャンカラ、あんたらも口裏を合わせな」


 二人とも「あいよ」とうなずいた。

 そのまま歩いていたら、戦場にたどり着いた。既に戦は終わっているようで、敗残兵を探していると思われる冒険者に見とがめられた。だが、すぐさまヒルデやリリアの姿に気づき、謝罪し、陣地まで案内してくれる。


 野営地の陣幕まで通された瞬間、白銀の甲冑姿を着たリーズレットと目があった。リーズレットは大きな目を更に大きく見開いてから、わずかに目じりに涙を浮かべて微笑んだ。


「おつかれさま」

「ああ、リーズもおつかれ――」

「リーズ様、このヒルデ、あなた様の願いどおり、かの転生者を討ち滅ぼすことに貢献してまいりました」


 テオドールとリーズレットの間を割るようにヒルデが身を乗り出してくる。リーズレットは苦笑を浮かべながら「ヒルデもおつかれさま。あなたに頼んで良かったわ」とねぎらいの言葉を投げていた。


「リリア、シロー、シャンカラもありがとう。論功行賞は期待しておいてください」

「盛大に頼むよ。なんせ、私ら三人死にかけたしねぇ」


 リリアの言葉にシローも「マジ地獄だった」と言い、シャンカラは「金と肉が欲しい」と言っていた。リーズレットは穏やかに微笑みならテオドールへと視線を向けてくる。

 この数ヶ月見ない間にリーズレットの雰囲気が変わっていた。


 笑顔でありながら存在感がある。一流の政治家が纏うような空気を帯びていた。変化しなければ対応できなかったということは、それだけの激務だったというわけだ。


「本当に転生者カズヒコは討ち果たしたの?」

「ああ、アシュレイがカズヒコの持っていた神剣で首を刎ねた」

「そうなの? アシュレイ」

「ああ、僕がトドメを刺した」

「わかりました」


 リーズレットは力強くうなずいた。


「あなたは英雄よ、アシュレイ」


 リーズレットはジッとアシュレイを見据え、アシュレイも見つめ返す。二人とも、ダンジョンに来る前とは違う。眼光に強い意思が乗っていた。もう、ただの学生でも貴族令嬢でもない。


 一人の各個たる個人として成熟している。


「戦には勝ったわ。敵の大将も討ち滅ぼした。でも、まだ全ての敵が恭順の意を示したわけじゃない。これからは、あなたにも働いてもらうわよ、アシュレイ――」


 そして続ける。


「――英雄として」


 アシュレイも力強くうなずいた。


「ああ、務めを果たすよ。僕に任せてくれ」


 そんなアシュレイを見てヒルデが「ほう」と笑みを浮かべていた。そしてテオドールに耳打ちしてくる。


「廃王子など中央のボンクラだと思っていたが、なかなかどうしていい目をするじゃないか。バカ王子どもより、よっぽどマシだな」

「あんた、気づいてたのか?」

「当然だろ?」


 意味ありげな笑みを浮かべながら「私は美少女が好きだからな」とつぶやていた。おそらく、アシュレイが女だということにも気づいているのだろう。


「面白くなりそうだ。しばらく、貴様の首を刎ねるのは待っておいてやる」

「そいつは助かるよ」


 そんな内緒話をしていたらリーズレットに「ヒルデ、テオ」と声をかけられる。


「仲がいいのはかまわないけど、いろいろ忙しいの。あなたたちにも働いてもらうわよ」

「はっ!」


 とヒルデは敬礼し、テオドールは「任せてくれ」と微笑んだ。







※この作品と同じ世界観の新作『転生してきた勇者の悪霊が俺に憑りついて最強にするとか言ってくるんですが、俺は強くなりたくない ~勇者による大魔王育成計画~』を始めました。

合わせてお読みください。

https://kakuyomu.jp/works/16817330651286526061


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