第103話
リリアが目覚めた時、ヒルデの顔があって驚いた。凝然と固まっていたら、ヒルデが「生きていたか」と興味無さげにつぶやいた。
「ヒルデ……どうして私は生きてるんだい?」
死んだと思った。それほどの傷を負っていた。だが、今は五体満足で傷一つ無い。
「忌々しいことにあの小鬼から
「シローとシャンカラは?」
「あの二人も生きてるよ。貴様より重傷だったが、まあ、ギリギリ間に合った」
「……そうかい。助かったよ、ありがとう」
ヒルデは珍しいモノでも見るかのように目を見開いてリリアを見ていた。
「なんだい?」
「いや、貴様がまさか私に礼を言うとは思ってなかったからな。存外、かわいいところがあるじゃないか」
くすりと妖艶な笑みを浮かべていた。
「あいにく私はあんたのハーレムに入る気は無いよ」
言いながら立ち上がる。本当に傷一つ無かった。
「
「より殺しにくくなるか?」
一瞬、間が空いてから「もともと殺せるとは思っちゃいないさ」と返す。
「貴様には感謝してるんだよ、リリア。貴様の謀略のおかげで私は真の主を得た」
「なんの話を言ってんだい?」
「なに、ただの独り言さ。まあ、私を殺したいと貴様が思うのも無理は無いしな。これで貸し借りはチャラだ。次は助けない」
「……なに言ってるのか知らないけど、あんたみたいな狂犬、もともと頼りにしちゃいないよ」
そう言いながらシローとシャンカラの元へと歩いていく。二人はアシュレイによって介抱されていた。二人ともヒルデの
「大丈夫なのかい?」
「おお……ヒルデ……なんか、血が足りないらしい……」
肉体の損傷は助かったが、流した地までは元に戻っていないらしい。
「貧血じゃん」
二人とも服は真っ赤だし、ところどころ裂けていた。
「とにかく血を作るには何か食べないとだよ」
と言うアシュレイが干し肉を二人に差し出していた。まあ、死ぬことは無いだろう。
「転生者は倒したのかい?」
「……ヒルデがテオの勝ちだって言ってたけど」
その決着を見たわけではないようだ。
「ああ、終わったよ」
いつの間にか、テオドールが立っていた。久しぶりに見る顔だが、なぜか帯電している。
「なんだい、そりゃあ……」
「いや、カズヒコの魔力を簒奪したんだけどさ、ちょっといろいろ容量オーバーしてて、常時魔術で解放してないと、ヤバいんだよな」
言いながら空に手を掲げる。同時にカズヒコが放っていた極太の
「……もともとバケモノだと思ってたけど、拍車がかかったね」
「この状態は今だけだよ」
言いながら肩をすくめる。そんなテオドールにアシュレイは「終わったの?」と尋ねた。
「ああ、今度こそ確実に仕留めたよ」
テオドールは疲れたような顔でアシュレイに微笑みかけた。
「帰ろう。学園に」
「うん、帰ろう」
アシュレイも微笑みかえした。
(こいつは……)
アシュレイの表情に変化があるのをヒルデは見逃さなかった。女の顔をしている、と思った。
(テオドールに正体をさらしたのかね……)
もともとヒルデはアシュレイが女だと見抜いていたが、それを口にはしなかった。テオドールがあえて隠している可能性があったし、下手なことを喋って殺されたくなかったからだ。途中からテオドールも気づいてないことは察したが、自分が言うことではないと口をつぐんだ。
(ま、どうでもいいことだね……)
首魁を倒したからといって全てが終わるわけではない。
「テオドール、安心してるところ悪いけど、これからもいろいろ面倒だよ。三十五階層には転生者軍の残存戦力がいるんだし、残党討伐も残ってる。それが終わるまで、まだ帰れないね」
その言葉にテオドールは深いため息をついた。
「これだから転生者の相手はしたくないんだ……」
リリアも同意だったので「たしかにもう二度と御免だね」と苦笑を浮かべた。
※この作品と同じ世界観の新作『転生してきた勇者の悪霊が俺に憑りついて最強にするとか言ってくるんですが、俺は強くなりたくない ~勇者による大魔王育成計画~』を始めました。
合わせてお読みください。
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