第74話

 <センシャ>と呼ばれた異跡守護者ゴーレムに似た兵器が轟音をあげ、筒から何かを飛ばした。飛来物が都市城壁を貫く。

 更には<セントウキ>と呼ばれる空飛ぶ鋼鉄の兵器が、火を噴く筒のようなモノを都市部に撃ちこむ。爆発炎上するのが城壁越しに見えた。


(なるほど、これが転生者の特殊天慶ユニークスキルの産物か……)


 転生者の世界にある兵器を召喚する天慶スキルだそうだ。扱うには習熟が必要らしいが、この戦争を始めるまでに準備を進めていたらしい。


(戦争の形が変わるな……)


 テオドールの魔術でも戦車や戦闘機と同じことはできる。万象融解す屠殺戮の焔槍ヴェーラ・アラドヴァルを使えば、城壁は砕けるし、爆発炎上させることも可能だ。


 だが、テオドールは自分の魔術が特別であることは知っている。

 テオドールと同じことができる者と出会ったことは無い。それも当然だ。

 テオドール並みの火力を持つ者がザラにいるならば、城壁など意味を成さない。


 しかし、戦車も戦闘機も特別な才能が無くともテオドール並みの火力を出すことができるのだ。城壁は紙の壁となり、集合陣形は肉の的になりさがる。


(どう考えても禁忌の技術を使ってるのに……)


 炸裂する粉末、雷の支配、蒸気を使った機関、それらの技術は禁忌と呼ばれていた。魔術で再現する分には問題ないのだが、装置としてこれらを再現した場合、近場のダンジョンから魔物が溢れ出てきて、その技術者や装置を街や国単位で滅ぼす。


(どうあがいても俺たちは転生者の技術や知識には追い付けない。ほんと、マジでデタラメだよな……)


 ため息が出てくる。そんな中、陣頭に立つジャッカスが「突撃」の号令を放っていた。


「おおおおおおおっ!!」


 雄たけびを上げながら冒険者たちが城塞都市へと迫る。背後からは戦車の援護射撃が飛んでくるし、戦闘機が城壁で弓を番えている兵士を<キジュウ>で掃射していた。


(楽勝ムードではあるが、目立つ必要があるな……)


 そんなことを考えながら隣を走るアシュレイの腰に手を回す。驚くアシュレイに「ついてこい」と言いながら魔術式を構築。一気に加速し、軍勢から躍り出た。


 その勢いのまま万象融解す屠殺戮の焔槍ヴェーラ・アラドヴァルを投擲。

 城壁ごと弓兵を吹っ飛ばした。


 その勢いのまま堀を一跳ねで飛び越える。「バケモノか!?」とかいう声が敵軍から聞こえたが、無視して魔術式を構築。そのまま城壁を駆けあがる。


「うわあああああああっ!」


 隣のアシュレイは混乱しながらも足を高速で回転させていた。そのまま壁走りで城壁上に到着。

 凝然と固まる魔術兵と弓兵の首を槍の穂先で刎ね飛ばした。


「さて、攪拌しよう、アシュレイ」

「え? ええ!?」

「大丈夫だ。死なせはしないさ」


 微笑みながら槍を振るい、振るう度に死体が増えていく。アシュレイはアシュレイなりに必死な形相で剣を振るっていた。危ないと思ったら、すぐさま援護を入れる。


(一兵卒として戦をするのも懐かしいな……)


 基本は指揮官として戦の陣頭指揮をすることが多かったが、自ら戦場を攪拌する必要がある時は一騎駆けをしたものだ。下手に突撃すると、供回りの兵が消耗するので、基本はしなかった。

 だが、守るべき対象がアシュレイだけならば、思う存分、槍を振るえる。


「さて、逃げるか」

「え?」

「奇襲のアドバンテージタイムは終わりだからな」


 ほんの数分の混乱で雑兵や何人かの指揮官の首は取った。そろそろ、対応しはじめる気配を肌で感じたので逃げるべきだろう。

 相手は腐っても中級冒険者レベルだ。


 すぐさまアシュレイを抱き寄せ、雷霆結界レヴィン・グレイヴで周囲二百メートルに目つぶし代わりの雷霆疾攻ボルトを放つ。アシュレイを抱えたまま城壁から飛び降りる。


 内側へ――


「今、逃げるって!」

「敵に向かって逃げるのさ!」


 着地と同時に魔術式を構築。万象融解す屠殺戮の焔槍ヴェーラ・アラドヴァルを正面に投擲し、何人もの雑兵を肉塊に変え、道を作った。


 混乱が収まるなら、新たな混乱を作る。


 奇襲、奇襲、奇襲。とにかく予想外な事態を作り上げる。


 これが戦場で戦う蟲。牙蟲の戦法だ。


 すぐさま駆け抜け、城門前の城兵を突き殺す。跳ね橋の鎖を断ち切った瞬間、城門に続く橋が音を立てて倒れた。


「城門を開けるのは大変そうだな……」


 見たところ様々な術式相殺オフセットの術式が奔らさせられている。吊り扉だから、二人で開けるのも難しい。


「ま、ぶっ壊せばいいか……アシュレイ。数十秒だけ自力で生き残ってくれ」

「え?」


 慌てるアシュレイを置いて魔術式を構築。魔力を右手に集中させる。

 斬りかかってくる兵士をアシュレイが捌く。


 光覇風刃斬・改弐メガ・エクスカリバー


 テオドールのオリジナル魔術は、更に魔力を圧縮し、光の刃となる。いかに組み上げられた対魔術の術式だろうと、圧倒的なエネルギーの前には無力だ。

 十マトル以上の光の刃が奔れば、城門は軌跡どおりに斬り飛ばされる。


 音を立て、扉だったモノが落下し、口を開けた。


 その先には迫るは転生者軍の軍勢三百。


「城門がぁぁっ!」


 敵兵の叫び声には絶望の色が乗っていた。


「さて、アシュレイ。次は大将首だ」


 ニコリと微笑めば、アシュレイは信じられないモノでも見るような目でテオドールを見ていた。同時に呆れたようにため息をつく。


「テオもやっぱり西部騎士だよね……」


 あんな脳筋戦狂いたちと一緒にはされたくなかったが、訂正も面倒だったので大将首を狙うことにした。

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