第72話

 火花と炸裂音が鳴った瞬間、テオドールは魔術式を構築。土砂操作・改参ギガ・サンドスウォームで足元の土で壁を作る。


 ダダダダダ! と何かを高速で撃ってきているようだ。


(魔術式も魔力も一切感じなかった……!?)


 アーティファクトならば、魔力技術や魔術式によって制御されている。


(なんだ、あの武器……!?)


 面食らいつつも、頭の中で戦術を構築していく。


「テオ! なんで攻撃されるの!?」

「わからん! 誤解があったんだろう!」


 とアシュレイには言うが、誤解もクソも無い。本当に連中の言葉どおり、取りなしたり上司への報告が面倒だっただけだろう。


(軍律は行き届いてないか……)


 末端の兵士など、チンピラのような者が少なくない。ましてや、分不相応な力を手に入れれば、それを使いたくなってもしかたがなかった。


(まあ、女子供も虐殺する連中だしな……)


 テオドールとて、必要とあれば、必要な分だけ殺してきた。

 だが、亡骸を野ざらしにしたことは無いし、罪悪感があったからこそ、丁重に弔ってきた。

 ともあれ、戦略的な見せしめ、という意味もあるのかもしれない。


 だが、あまりに無法だ。


「おらおら! マトが逃げんじゃねぇよ!!」


 土の壁の一部が貫かれる。魔術ではないため、術式相殺オフセットで消すことはできない。たしかに厄介だ。壁越しに魔力感知サーチでいろいろ調べているが、とにかく弾速が速いし、威力が大きい。一発で骨を砕くし、頭に当たれば即死だろう。


 おそらくなんらかの力で何かを爆発させ、鉄の塊を飛ばしているようだ。ミルトランの会議で聞いたように魔術弾丸バレットの魔術を更に強力にし、連射してくる兵器と言ったところだろう。


 かなり厄介な火力だし、この兵器を全ての兵士が装備しているとなると、戦争の有様が変わる。


(いろいろ想定外の戦闘ではあるが……)


 ニヤリと口元に笑みが浮かぶ。


(目立つにはちょうどいい)


 テオドールは倉庫ボックスの中から槍を取り出し、構えながら魔術式を構築する。壁で見えないが、城壁の方向へと当たりをつけた。


(最初の出会いが肝心だからな。派手に行こう)


 万象融解す屠殺戮の焔槍ヴェーラ・アラドヴァルを撃ち放つ。

 目の前にある土の壁を貫き、アーティファクトを乱射していた男の頭を貫き、そのまま高速で飛行。城壁に着弾爆散し、壁を崩壊させていた。

 壁付近では大騒ぎになっているだろう。


 アーティファクトを連射していた男は首から血を噴き上げ、遺体が膝から崩れ落ちる。今まで成り行きを笑いながら見ていた二人が、目を丸く見開いた。

 恐慌状態になる前にテオドールが口を開く。


「いきなり攻撃されたから正当防衛だ。許してほしい」


 土の壁が崩れる中、テオドールは戦闘する気は無いと言いたげに両手をあげた。


「先ほども言ったが、俺はあなた方の仲間になりたい。残念なことに彼は、いろいろ面倒くさがって死んでしまったが、俺と後ろのアシュレイは彼より役に立つ。それくらい、君たちにだってわかるだろう?」


 信じられないモノでも見るような目を二人の男が向けてくる。まだ思考がまとまっていないようだ。恐慌状態になられて、アーティファクトを撃たれたくないので、笑顔のまま威圧した。


「君たちの上司に取りなしてほしい。俺もこれ以上、無駄に埋葬する死体を増やしたくはない」


 二人の冒険者は震えた声で「わかった」とうなずいた。


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