第59話

 テオドールはリリアたちと合流後、そのまま未踏破施設内へと入っていった。道中、何体もの異跡守護者ゴーレムに襲撃されたが、全て魔術で一掃した。


「ちゃんテオ、マジ推せる……ねえ、今夜、パコろうよ」

「あんた、俺が不能だって知ってて抱き着いてきてるだろ?」

「試してみよ」


 と股間に手を回してくるシャンカラをリーズレットが「はしたない!」と叱っていた。その流れのままリーズレットはテオのことも怒ってくる。


「テオ、あなたも、嫌がりなさいよ! レイやリュカに悪いと思わないの!?」

「だって、この人、引っぺがしても抱き着いてくるし……」


 言いながら仮面を鷲掴んで押しのけようとするが、くっついてこようとする。そんな攻防をしている内に諦めたのだ。


「嫌よ嫌よも好きのうちって言うっしょ!」

「言わないわよ! あのね、テオは私の騎士なの! やめてもらえる!」

「ただの主従関係っしょ? 家臣の色恋に口出しするお姫様ってどーなん? それとも好きなの?」

「なっ!!」


 リーズレットは顔を真っ赤にして言い淀んでいた。


「す、す、好きとか好きじゃないとか! そういうんじゃないの! 私の親友二人の元夫だし、二人のためなの! そうよ! 二人のためにも変な女がテオに近づくのを止めないといけないのっ!!」


 今にも泣き出しそうな顔になっていたので、テオドールはため息まじりにシャンカラに耳打ちする。


「これ以上、主人をイジメるなら、俺にも考えがありますよ?」

「ちゃんテオ、こわーい……でも、そういうとこ、しゅき」

「ダメだ、こいつ、話が通じねー……」


 思わず口に出してしまったが、さすがにぷるぷる震えだしたリーズレットを見てリリアが「シャンカラ、やめるんだね」と諫めてくれた。シャンカラは「へーい」とテオドールから離れ、リーズレットを煽るように「ごめんちゃい」と頭を下げる。あとでリーズレットにフォローを入れないとな、とか考えているうちにリリアたちがアーティファクトを発見した場所に到着した。


 たしかにリリアたちが言っていたように、これまでのアーティファクトとは違った。鉄らしきモノでできた塊で、尖塔を横にしたような形をしている。その先端には穴が空いており、筒状になっていた。


 リーダーのリリアがチラリとテオドールへと視線を投げてくる。テオドールが奪うとでも思ったのかもしれない。まだ警戒されているようなので、その視線の意図には気づかないフリをしてスルーした。


 リリアがアーティファクトに手を触れた瞬間、台座の金具がプシュと空気が抜けたような音を立てて外れる。


「これは……」

「どしたん?」


 シャンカラの問いかけにリリアが振り返る。


神機オラクルだ」


 喜色満面の笑みを浮かべるリリアにシローは「よっしゃあ!」とガッツポーズをし、シャンカラ「ひゃっふい!」とぴょんぴょん跳ねる。


「どんな武器なんですか?」


 テオドールの問いかけにリリアは「呪殺兵器だね」と言った。


「じゅさつ? それってなんなの?」


 リーズレットの問いにリリアがご機嫌な笑みを浮かべて答える。


特殊天慶ユニークスキルに呪いってもんがあるのは知ってるかい?」

「視ただけで殺すとか念じただけで殺すとか、そういう天慶スキルよね……」


 テオドールも呪いなら知っている。実際、何度か呪われたことがあるからだ。


特殊天慶ユニークスキルの呪いもピンからキリまであるさ。さすがに殺すのは無理でも、体調を悪くしたりできる。これは、呪いで殺せる兵器だね」


 さすがは神機オラクル。デタラメなスペックだ。


「使い手がこの武器を構えながら照準をセット。この引き金を引くことで、対象に呪いの魔力弾を撃ち込む。当たれば死ぬ。それだけでもすごいけど、この神機オラクルのすごいところは、同時に複数に照準を合わせられるところだね」


 用途を聞いて、テオドールは思わずため息をついてしまう。


「デタラメですね」

「これがあれば、転生者でも仕留められるかもね……」

「だといいですが……」

「なんだい? テオドール、含みのある言い方だね……」

「俺、昔、呪いで殺されかけたことあるんですけど、結局、呪いも魔術の一種なんですよね。きちんと理論があるんです。だから、術式相殺オフセットできる。ただ、呪いの場合、術式を消すんじゃなくて自動的に向こうに返るんですよ」


 貴族だったころ、アウレリア法王国との戦の最中、呪われて倒れたことがある。法王国には呪術師なる者が存在しており、テオドールを呪い殺そうとしたのだ。だが、テオドールは意識が曖昧になる中、どうにか魔力の流れと術式を解析し、術式相殺オフセットで解除した。


 結果、呪いは呪術師に返っていった。どうなったかわからないが、おそらく呪術師は自分の呪いで死んだと思われる。


「呪いを術式相殺オフセットできる魔術師となると最低でも聖魔級の技量が必要になると思います。転生者って基本スペックがデタラメなので、術式相殺オフセットされる可能性もありますね。その場合、神機オラクル使用者に呪いが返ってきかねません」

「君や転生者には効かない可能性があるってことかい?」

「呪いの術式にもよるかと思いますが……狙われてるってわかってるなら、対処できますね。あとは、呪いの効果時間にもよるかと」


 さすがに即死となれば対処は難しい。だが、呪殺の場合、術式的に時間がかかる。毒殺などに近いイメージなのだ。即効性のある毒でも、効いてくるのに分単位の時間がかかるものだ。

 その間に術式を解析し、相殺してしまえば、呪いは返せる。


「ですが、術式相殺オフセットの術式解析と構築ができない状況に陥らせた上で使うなら、可能性はありますね。これだけに頼るのは危険だと思いますが……」

「なるほどね……頭に入れとくよ」

「それに俺が戦った転生者は、腕を切り飛ばしたり、雷で心臓止めても、死にませんでした。治癒魔術・改参ギガ・ヒール以上の再生魔術を使える場合、首切って心臓と脳を切断しないとマジで殺せませんよ」

「なにそれ、おっかねえ……」


 シローがボヤく。

 実際、テオドールが倒した勇者は、どうにか首を刎ね飛ばして殺した。

 だからこそ、首級をあげるという文化が騎士にはあるのだ。首を飛ばさないと死なない奴はたしかに存在する。

 テオドールだって治癒魔術・改参ギガ・ヒールを使える限り、ほぼ死なない。寿命は縮むだろうが。


「その神機オラクルは軍勢相手にかなり強力だと思いますが、突き抜けた個人には効果が薄いかと思います。運用する場合は、その点を留意しといてください」

「ああ、わかってるさ。ま、それでも強力な兵器であることに変わりないね」


 同時に転生者側に奪われたら、シャレにならない。

 王国の軍勢に使われたら、崩壊するだろう。同時にどれだけの人数を呪えるのか知らないが、部隊長クラスを狙って呪いで狙撃することで、戦場は混乱する。

 その隙に攻撃をしかけるなど、戦術的有用性が極めて高い。


(ほんと神機オラクルって使われると、厄介なんだよな……)


 例外なくオンリーワンのスペックを誇っており、隠されると外に情報が漏れない。戦場で奇襲のように使われ、大損害を生み出すのだ。

 だからこそ、戦の前には蟲を使った諜報活動を念入りに行う必要がある。それでも秘密にされた神機オラクルがいきなり使われることがあった。


(戦場のトラウマが蘇ってくる……)


 テオドールが指揮を執った戦で負けたのは数回程度だ。その全ての敗因が神機オラクルを使われた奇襲だったことを思い出し、胃が痛くなってくる。


「他にもあるかもしれない。テオドール、悪いけど、手伝ってくれるかい?」

「はい。任せてください」


 と言いつつも、やっぱり神機オラクルのことは好きになれないテオドールだった。

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