第56話

 その後もいくつか地図にあった保管庫を回ってみたが、神機オラクルと呼ばれるアーティファクトは見つからなかった。


「シケてんなぁ……」


 シローがボヤき、シャンカラはため息をつく。リリアは地図を見ながら、なにか熟考していた。不意に視線をテオドールへと向けてくる。


「テオドール、二手に別れて探索しないかい?」

「俺たちに地図は無いんだけど?」

「地図上の倉庫は残り一つだけなんだよ。君たちには、そちらに向かってほしい。私たちは地図に無い未踏破区画を探したい」

「チーム分けは?」

「君一人で、二人は守れるだろう? 私たちは私たちだけで行動する。どうだい?」

「そういうことであれば、かまいません」


 と答えたテオドールに地図を見せてきた。一瞬、見ただけで地図を脳裏に焼き付ける。テオドールは覚えようと思って見たことや聞いたことは、絶対に忘れない、という才能を持っていた。それによって膨大な魔術式を文章ではなく、絵や図として記憶している。だから、魔術式の展開が速い。


「だいたい把握した。調査後はどうしますか? どこで合流を?」

「この場所でいいだろうさ」


 その言葉を受け、テオドールはリリアたちと別れて探索を進めることになった。


 テオドールは魔力感知サーチで周囲を探りながら先へと進んでいく。


神機オラクル、みつかるといいね」


 というアシュレイに「そうだな」とうなずきながら別のことを考えていた。


(あまりいい流れじゃないな……)


 リリアたちの反応が、だ。

 リリアはテオドールの強さを把握している。もし、テオドールの力を利用するつもりなら、未踏破区画などという危険な場所にテオドールを連れていかない道理はない。


(要するに信用されていない……あるいは、恐れられているということか……)


 たしかに、テオドールがその気になれば、三人を排除して、神機オラクルやアーティファクトを独占することも可能だ。そのうえ、先に神機オラクルをテオドールが手に入れたりすれば、戦力の不均衡に拍車がかかる。それは、危険だ。

 と、リリアも考えたのだろう。


 たしかに、たった数日の関係で信頼関係を構築はできない。


(もう少し実力を隠せば良かった……)


 冒険者はアウトローだが、矜持はある。だから、理由も意味もなく強者に媚びへつらうことを嫌う。強ければ認めるが、同時に己の主権を守るために警戒もしてくるのだ。


(シローやシャンカラはプライドがそれほどないが、リリアはあるみたいだな……三人の中で一番頭も回るし、実力もあるし、プライドが高い……)


 西部でもテオドールとの実力差を目の当たりにした場合、敬服か反発の二つに分かれる。反発の最たる例が元主君のスヴェラートだろう。


(実力を隠す塩梅が本当に難しいんだよな……)


 敬服させてしまえば、簡単にイニシアチブを取れる。だが、反発されると敵対関係になってしまう。


(その辺、リーズレット様はうまいんだよな……)


 リーズレットは才女である。かなり頭がいい。だが、周囲の者にそう思わせない愛嬌や隙がある。フレドリクの娘だから狙ってやっているとテオドールは思っているのだが、そう思わせないほどにナチュラルな振る舞いなのだ。


(まあ、西部騎士は基本、舐められた終わりみたいな感じだったし、ある程度実力を示しちゃうクセが染みついてるんだよな……)


 良くないな、と思いながら歩を進める。


(ま、向こうがどう思ってようと、こちらは誠意をもって対応するしかない……対立することになれば、その時はその時だ……)


 そうこうしているうちに目的地の倉庫へと到着した。

 どうせ、神機オラクルなど無いだろうと思いつつもトラップがあるか調べるテオドールだった。

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