第26話・8/14修正版

「うおおおおっ!! 先生!! いってきますっ!! 逝くぞ、てめぇらぁっ!! 気合、ぶち込めぇぇぇっ!!」


 ベアルネーズが叫び、それに続くようにジャンたちも叫ぶ。


「「「「力でぶち殺せぇぇぇぇっ!!」」」」


 やる気に目を血走らせながら、ゲートへとつっこんでいった。

 黒いモヤのような穴に触れた瞬間、五人の姿は掻き消える。


「あの掛け声、西部を思い出す」


 ポツリとテオドールはつぶやいた。教えていないのに、マインドが西部騎士に近づいていっている。


「喜ぶべきことなんでしょうか?」


 リュカの言葉にテオドールも「まあ、いいんじゃないか」とだけ言っておいた。気合と根性があるのはいい。だが、西部騎士のように狂った感じにはなってほしくなかった。


「次はテオドール・シュタイナーのパーティーです」


 呼ばれたのでパーティーメンバーを見渡す。


「それじゃあ、行こう」


 テオドールたちもゲートに近づいていく。

 黒い霧に触れると一瞬、星空のような空間に飛ばされ、次の瞬間、青空が広がっていた。今まで神柱の中にいたのだが、完全に外へと飛ばされたのだ。


「これがダンジョン……」


 アシュレイの言葉に「気をつけろ。ここから、もう魔物は出てくる」と注意する。とはいえ、他のパーティーもほぼ同じスタート地点なので、近場の魔物は狩り尽くされているだろう。


 テオドールは草原に立ちながら辺りを見渡す。遠くにいくつか人影が見えた。別のパーティーだろう。ゲートの移動は、ざっくりしており、だいたい近い場所に飛ばされるが、完全に同じ場所に飛ばされることは極めてまれだ。


 平原の向こうには森が見え、遠くの人影も森を目指していた。

 平原より森のほうが魔物はいるし、アーティファクトがある遺跡などもみつかりやすい。


「リュカ、索敵を頼む。レイとペンローズ様は後衛。すぐにでも魔術を使えるよう注意しておいてくれ。前衛は俺とアシュレイだ」


 指示を飛ばしながらテオドールは「ボックスオープン」と口にする。同時に大きな箱が虚空から生じ、地面に落ちた。


「持ってきた荷物をダンジョンボックスに収納するんだ。最低限の装備以外は全部放り込んでおけ」


 ダンジョンにはダンジョンの中だけで使える特殊な天慶スキルがある。そのうちの一つが倉庫ボックスと呼ばれるものだ。ボックスオープンと口にするだけで、虚空から木箱が生じ、様々なモノを収納することができるのだ。


 ただし、ダンジョンの外で倉庫を召喚することはできない。何人もの魔術士たちが、ダンジョン外で倉庫ボックス天慶スキルを再現しようと試みているそうだが、未だに成功した者はいなかった。


(このダンジョンは初めてだから、ボックス小さいな……)


 ダンジョンの踏破が進めば進むほど、それに比例して倉庫ボックスの容量は大きくなっていく。また、倉庫ボックスの中は時間が止まっているため、生ものを入れても腐ることが無い。


「荷物の片づけが終わったらステータスを確認してくれ」


 テオドールの言葉に各々が「ステータスオープン」と口にする。

 個人管理ステータスもまたダンジョン内でのみ使うことができる天慶スキルだった。その人物の職業や修めている天慶スキルや魔術などが列挙され、大まかな戦闘力をレベルという概念で数値化していた。

 空中に透明な文字が浮かび上がってくる。


 名前 テオドール・シュタイナー(偽名)

 年齢 16歳

 性別 男

 状態 勃起不全/心的外傷後ストレス障害

 職業 ヒモ

 契約神 ヴェーラ

 レベル 975/2058


(あ、俺のレベル、あがってる……え? 嘘だろ? なんだ、この数値……)


 十歳の頃はたしか207だったが、あれから六年で900以上になっていた。ちなみに一般成人の平均レベルは15くらいで、冒険者や騎士になると100前後になるらしい。700を超えると勇者になる資格があると聞いたことがある。


(975って高すぎね? なんか自分のことながら、軽く引くんだが……?)


 しかも、レベル上限が2058である。これは幼い頃から変わっていないが、普通は100前後だと聞いたことがあった。


 不意に『アリとドラゴンの間に友情は成立しない』というリュカの言葉が脳裏をよぎった。そもそもテオドール本人が「おかしいんじゃね?」とかなり引くレベルの高さだ。他人なら、もっと引く。


(これは秘密にしておこう……アシュレイにバケモノでも見る目で見られたら、悲しいし……)


 ほかにも使える魔術や天慶スキルのリストも明記されていたが、数が多すぎて確認するのも億劫だった。


(あと、なんだ、この称号の多さは……)


 天魔、剣王、聖槍、王拳、王弓、勇者殺し、特級冒険者、魔王指定候補、などなど、昔は持っていなかった称号がたくさん並んでいた。


 魔術や剣術などのスキルには位が用意されており、ある一定以上の技術を修得すると<王>の位をもらえ、そのランクになると一流を起こせる程度と言われていた。<王>の次は<聖>となり、その次は<天>、最上位が<神>となる。

 テオドールは武術全般において、一流を起こせる程度の技量を修得しているらしかった。


(いくら成長期とはいえ、たった六年でこんなに強くなってるなんて……)


 嬉しさよりも、自分が置かれていた境遇を思い返して鬱になる。


(これだけ強くならないと生き残れなかったとか、どんな状況だよ? マジの地獄じゃないか……)


 ただただ過去の自分が憐れでしかたがない。

 普通に生きるだけなら、こんなに強くなる必要はなかった。西部の騎士でも、レベルは300あれば胸を張れるし、武術も得意なモノが一つ王級になっているだけで充分だ。


(これ以上、レベルがあがるような状況にだけは陥りたくない……具体的には西部とかで戦うとか、そういうのは、もう本当に……嫌だ……)


 過去の記憶がフラッシュバックしてしまい、涙が出そうになってくる。


「テオ様、どうなさりましたか?」


 レイチェルが心配そうに声をかけてきたので、慌ててステータスを消した。


「いや、ほら、レベルの欄を見てて、いろいろ思うことがあって」

「テオ様のレベル、どれくらいでしたか?」

「え? 俺のレベル? えっと……ななひゃ……」

「七百って勇者レベルじゃないですか!」

「じゃなくてぇ……ご、五百くらいかな」

「それでも充分すごいですよ! さすがテオ様です」


 レイチェルは驚き、その発言を聞いていたリーズレットも「五百とか西部の冒険者でも数える程度しかいないわよ」と驚いていた。


「すごいな、テオ。レベルが五百もあるなんて……」

「そ、そういうアシュレイは?」

「97だよ。騎士としては平均的だね」


 アシュレイの言葉にレイチェルは「それでも充分すごいですよ」と言っていた。


(実は君の十倍のレベルがあるとか言ったら……やめとこう。引かれる……全力で引かれる)


 それどころかレベルが900越えている人材となれば、無視できない存在だ。テオドールが貴族だった頃にレベル900越えの冒険者がいると知れば、召し抱えるために動いただろう。それが敵対関係となれば、率先して排除する標的となる。


(貴族連中にバレてはいけない。隠し通さねば……)


 苦笑いを浮かべながら話題をそらそうと思っていたところに音もなくリュカが近づいてきた。ジッとテオドールを見てから「本当のレベルは?」と小声で尋ねてくる。テオドールは声を落とし、耳打ちする。


「な、なんで嘘だと思ったんだい?」

「私のレベル383なので、テオ様が500代はありえないかと……」

「……誰にも言わない?」

「レイ様には伝えます」


 レイチェルになら知られてもかまわない。


「……975」

「はあっ!?!?」


 叫ばれた。

 普段は感情を押し殺しているリュカが全力で驚いた顔をしている。


「どうしたんですか?」


 レイチェルが尋ねてきたが「なんでもない。後で話すよ」とテオドールはごまかす。そのままリュカは人目など気にせず耳打ちしてくる。


「本当なんですか?」

「俺だって驚いたよ。でも、本当だ。なんか誤作動起こしてなければ、そのレベルだよ」

「レベル上限は?」

「言ってなかったっけ? 2058」

「はあっ!?!?!?!」


 耳がキーンとなった。顔をしかめたらリュカが「申し訳ありません」と慌てて頭をさげてくる。


「……デタラメな強さだとは常日頃から思ってましたが、本当にデタラメでしたね」

「そんな珍獣を見るような目で見ないでくれよ」

「いえ。改めて、私がお仕えするのはテオ様を置いて他にいないと痛感いたしました」


 頬を紅潮させながら微笑まれた。

 どうやらリュカ的には、レベル975はアリだったらしい。バケモノだと思われないで済んだことを喜びながら、頭を切り替える。


「とりあえず、ステータスを参考に各々できることを共有しよう。覚えられるだけ覚えてくれ。それで連携を取れることもあるしね」


 そんなことを言いながらも、いろいろ下方修正しながら伝えようと思うテオドールだった。


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